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日常ラヴァーズ

 簡単な事故消化を済ませた後、俺達はごく普通に学校へ向かう。

 その間沖田と白がぺらぺらとメイクやらおしゃれやらについて熱く談義しているが、そういったことに疎い俺は蚊帳の外だ。


 まあ、俺の友達と仲良くなれているようで何よりと言ったところか。


「おう、昨日ぶりだな元気してたか」

「ほぼ毎日面を合わせてんだから元気してたもあるか」

「はは、っておいおい誰だぁ?!このカワイ子ちゃん!」


 反対方向からやってきた神崎が、沖田を見つけるや否や驚いて大声をあげる。

 やめてくれ、白のおかげで若干分散されていた視線がまたこちらに向いてしまう。


「相変わらずでかい声と図体してんなおい、少しは縮小しろ」

「へん。これが俺様のあいでんてぃてぃなのさ。うらやましかろ?」


 鼻をピンっとはじき、得意げに語る神崎。

 アイデンティティの発音すらままならぬ奴が何を言うか。


「察するに、アンタが善に告ったモノ好きだな、カワイ子ちゃん!」

「その通りです!先輩のことを好きなのが物好きと言われるのなら、一切それを否定しない心持ですとも!」


 あぁ、だめだ。こいつ等を掛け合わせるてしまうと、煩いのと喧しいので俺のメンタルががりがりと削れて行ってしまう。


「おう好い心掛けだぁ!ま、知っての通りかもしれんが、こいつは変わりもんだからよ。シッカリ手綱握っといてやってくれや」


 俺の頭に手をやってぐりぐりとこねくり回す神崎。

 やめろという意味を込めてその手を跳ねのけてやつをにらんだ。

 そもそも、なんだ手綱とは。それではまるで俺がしつけのなってない犬っころみたいではないか。

 

「えへへ、手綱……ですかぁ」


 神崎の言葉を嬉しそうに繰り返す沖田。

 先ほどより声色が数オクターブ上になっている。よほど神崎や白に恋仲と認められるのがうれしいのか。


 何故彼女がここまで俺に好意を寄せてくれるのか、ほんとに訳が分からない。

 いつか、話し合いの機会を設けられたらそこは追及すべきだろう。彼女を受け入れるにしろ、しないにしろ、避けては通れない道だ。


「それぐらいにしないと、ガチで俺が病むぞおのれ等」

「おや、それは勘弁。じゃあ行こうか」

「むう、先輩とお別れなんて辛すぎますぅ」

「俺は別に辛くないな、少し気が楽になるし、うれしいまである」

「そ、そんな……!新婚早々破局の危機……!?」


 一人悲壮な顔で天を仰ぐ沖田を後目に俺たちは自分の教室に向かう。


「バカの事言ってないで、さっさと教室で自習でもしてろおバカ」

「貶しているように見えて先輩の優しさが見え隠れする言い方に涙目な私です」

「お前ホントなんて言ったらいうこと聞いてくれんの?」


 貶しても、優しくしても何をしても全て沖田にとってプラスにとらえられてしまう。

 こいつのメンタリティは無敵なのだろうか。


「おっと、そろそろ行かないとほんとに遅刻になってしまう」


 白の言葉にはっとして、俺は足を再び教室へ向けた。

 今度は沖田も別の校舎へ歩いて行った。いかにもしぶしぶといった表情をこれでもかと俺に見せてきたが、なんだ、俺にどうしろというのだ。分からん奴め。


 *


 教室につくまでは通学路以上に地獄だった。

 まさかここまで噂が広がっているとは思わなんだ。クラスメイトはもちろん、ほかクラスの奴まで俺に話しかけてきやがる。一体どんな噂が流れているのだろうか、尾ひれはひれどころの話ではない気がするのだが。


「なあ神崎、沖田ってそんな有名人なの?」

「いや知らねえ。俺他人にそこまで興味ないのはお前と一緒だで」

「だよなあ……」

 

 確かに美少女ではあるかと思うのだが……、一学年下の少女の動向にそこまで注目が集まるとは何が起こってるのだ。


「おやおやおや、君たちは本当に疎いんだねえ」


 白は何か知っている様子。

 そうだ、最初から情報通のコイツに聞けばわかった話だった。


 「主席で入学してから2か月、誰の誘いや告白も聞く耳を持たなかった彼女が突然告白したんだからねえ。そりゃ噂も光の速さで駆け回るってもんさ」


 その噂が広がった原因の一端であるコイツの口からきくと、思う所はあるが……まあそれは置いておこう。


「アイツそんな賢い奴だったんだな」

「そうだねえ、今度教えてもらったら?」

「まっぴらごめんだ、そこまで零落れてないわ」


 俺は別に成績が悪いというわけでもないし、仮に悪かったとしても年下の沖田に教えを乞いたくはない。それに、あいつに物事を教えられるという絵面が一切想像できないし。


「なぁ!日山、お前あの沖田さんに告られたってマジ?!どんな感じだったの?!」


 まただ。白と神崎の三人で話していると、第三者がづけづけと入ってくる。

 今日だけで5回以上はこの質問を受けている、なんだ、この質問に一体何の意図があるのだ。どんな感じか知って君に何も変化はないだろうに。


 何度も同じような質問をされて辟易している俺は、呆れたように話しかけてきたクラスメイトにこう告げた。


 

「Need not know!」


 

 いやはや、こんな日常がこれからも続いていくのか。

 俺は先を憂いながら、机に突っ伏した。

 

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