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起き抜けラヴァーズ

早起きは三文のなんとやら。

 いつもより早く起きたので、ゆっくりと朝食を作れた。

 いつもは冷食のミックスベジタブルのところを今日は野菜炒めをちゃんと作り、それを炊き立てのご飯と共に平らげる。実に優雅な朝を迎えられた。


 身支度もし終えて、あとは出発の時間を待つのみとなっているところ、インターホンが鳴る。

 こんな時間に来客とは珍しい、叔父さんが密林でまた何かしら買ったんだろうか。


 ピーン、ピンポーン――。


 立て続けに連続で呼び鈴が鳴らされる。

 なんだ、やけにせっかちな業者だな。せっかくの優雅な朝の雰囲気が壊されてしまうではないか。恨むぞ。


「おはようございますっ!先輩っ!素晴らしい朝ですね!」


 恨むべくは密林ではなく、俺と彼女をめぐり合わせた運命だった。

 制服姿の沖田がそこに立っていた。


「何だって君はこんなところに来たのかね?」

「いやですねえ先ぱぁい、甲斐甲斐しく迎えに来る彼女……男の子ならこう――キません?」


 手の甲を口元に充てて、目を細めてつぶやく沖田。

 何言ってんだコイツ……。


「あれえ、一撃ノックアウト級の衝撃を与えられる予定だったんですが……」

「何を言ってるのかは知らんが、ここは君のいるべきところではなぁい。早々に立ち去れい」

「はいはい、ツンデレかわいいですよ先輩。お邪魔しますね~」

 

 まだ登校の時間まで十分ほど余裕があるので、こいつはウチで時間をつぶす気なのだろう。俺の制止を聞かず、玄関に入ってくる。

 

「聞こえなかったか?俺は帰れと言ったんだが」

「帰れとは言われてませんね、去れとは言われましたが」

「揚げ足をとるな。性格の悪い。意味合い的には一緒だろう」


「まあまあ、先輩もこんなに可愛い彼女(仮)を侍らせられるんですから、もっと幸せを感じてもいいんですよぅ?」

「自己評価が高いようで素晴らしい。だが俺は、君をそこまで評価してないからな」


 何処までも自信たっぷりな沖田の態度に関心を覚えつつ、こいつを追い出すのは無理だと悟った。

 まあ一度乗り掛かった舟だ、是非もないだろう。


 *

 

 その後若干の時間を家で過ごし、通学する俺たち。

 言うまでもなく、視線の雨霰をその身で受けることになったのだが、これを一年間続けなければならないのか……先が思いやられるな。



「おやおやおや、これは何とも珍しい。善が僕たち意外と仲良く通学できているなんて。」


 幸先悪く、白と鉢合わせてしまった。

 こちらの姿を見つけるや否や、とてとてとにじり寄ってきた。


「珍しいとはひどいじゃないかマイハニー」

「おや、これは善のめんどくさいモードだ。これは相当面白そうなことが起こったんだね?沖田さん関連だろうか」


 口ではそう言いながら、肩を組んでダルがらみする俺を拒絶せずに受け入れてくれる。


「いい加減にしないと。ほら、君の隣の彼女を放っておくのはいささか問題なんじゃないの?」

「む?沖田がどうかしたか……?」


 白に言われて、振り向くと、わなわなと体を震わせている沖田。

 な、なんだってコイツはこんな状況になっているのだ?!


「せ――先輩……うわきですかぁ?!」

「はぁ?!」


 突如叫びだして俺にとびかかってきた沖田。

 よろけてこけそうになるのを何とか踏ん張り、事なきを得る。


「なぜおまえはこうもいきなりなんだ!どうしたどうした!」

「アタシという彼女(仮)がいながらぁ~~!」


 わめきながらも(仮)の部分はちゃんと言う律儀さに若干の好感を覚えつつも、俺は抱き着く沖田を引きはがす。


「あはー、こんなかわいい彼女さん(仮)にここまで言ってもらえるなんて。君は幸せ者だねえ」

「おいハニー。この惨状を見てもそう言うのかね、ハニーはそんな薄情な奴じゃあなかっただろう!?」

「いいやぁ?僕は白って名前だからね、はくじょうなんだ」


 にやにやと笑いながら俺の顔を覗き込んでくる小悪魔。

 いい性格してやがる……。


「せぇんぱぁあい!アタシをむししないでくださいよぉ~!」

「待て待て!その状態で擦りつくな!?制服が!」


 涙声になりながら顔をごしごしと擦り付けてくる沖田。

 

「あっはっは。いやあ朝から面白いものを見せてくれた。何?夫婦漫才でも始めたの?」

「きゃっ、夫婦だなんてそんなホントの事言われちゃいましたねえ先輩」


 白の冗談を真に受け、上機嫌に体をくねらせる沖田。

 先ほどの涙はどこへやったのやら、女心と秋の空とはよく言ったもんで、俺にはてんで理解ができない。


「んんっ!双方落ち着いたところで、自己紹介をしようか。」


 頃合いを見て俺は手を叩いた。

 このままなぁなぁで学校についてしまえばこの柔らかお口の小悪魔ちゃんがとんでもないことを吹聴するに違いない。ここで釘を刺しておかねば。


「はいっ!アタシ、『今』は沖田栞と申します!どうぞ良しなに!」


 大変元気なあいさつでよろしい。何故『今』という言葉を挟みそれを強調したのかは問わずにスルーしよう。


「僕は結城白。しろとかはくとか、色々呼ばれちゃいるけど……特にこだわりないからなんとでも呼んでくれていいよ。あ、あと君の彼氏(仮)とは幼馴染ってだけだから気にしないでね」

「なぁんだぁ、幼馴染さんだったんですね!それは良かった!」


 自己紹介を終えて、すっかり仲良しの雰囲気になった二人。

 

「アタシはてっきりカップル成立早々破局の危機かと思いましたよぅ。横恋慕なんてしたくありませんし……」


 沖田の言葉に俺はむせる。

 横恋慕って、彼女は白を俺の彼女だと思っていたということか。確かにひいき目なしで美少年ではあるが……。

 

「あっはっは!横恋慕なんて現実で耳にするとは思わなかったなぁ。安心して、僕は男だからね」

「え?!そうなんです?!え、でもメイクしてません?!」

「おや、目敏いね。そうとも、僕は僕の魅力を最大限ひけらかして生きていたいからね、メイクも当然するのさ」

 


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