正式ラヴァーズ(仮)
結局叔母さんを追い出すことはできずに、これまでの経緯を説明した。
「なーるほどね……」
「あはは、なんだか申し訳ないですね~……」
明らかに無理をして笑顔を作っている沖田。
「さぁて、これ以上は君たち二人で話し合ってもどん詰まりの袋小路。ここは大人の力を与えたもう!」
パン、と手を叩いて沈黙を破った叔母さんは、改めて俺から聞いたことを並べた。
「双方、相違ないね?」
「はい」
「右に同じだ」
叔母さんは俺と沖田の顔をじっと見つめる。
「おきちゃん、ぜっちゃんの気持ちはわかってくれるかな」
「はい、勿論です。全部アタシが勝手に起こしたことですから」
「よろしい。ではぜっちゃん。君はおきちゃんの好意には応えられるかな」
「無理だ」
叔母さんの問いに間髪入れず応える。
確かに彼女を傷つけたのは俺だ。だからと言ってここで意見を曲げるわけにはいかない。心を傷つけたのだから、俺はそれに対して責任をもつ義務がある。
「正直言ってぜっちゃんに非はないと思う私だけど、それじゃああまりにもあんまりだと思う気持ちもあるの。だからね、これは私からの提案。」
「提案?」
「うん。彼女に時間をあげたい。いいかな善ちゃん」
いつになく真面目な顔で俺に問うてくる叔母さん。
俺の罪悪感、沖田の好意。双方に納得のいく着地点をよくもまあこの短時間で見つけたものだ。
「お手上げだよ、俺からは何も言うまい」
「ありがとね。じゃあおきちゃん!貴女は短期間で見事ぜっちゃんのハートを射抜いてみせてごらんなさぁ~い!」
叔母さんの提案とは、期間限定で俺と沖田が付き合うようにして、その期間中に俺が絆されれば俺の負け、もし心を許さなければ沖田の負けというもの。
沖田の恋心を恰もゲームのように取り扱うのには若干の罪悪感が生まれたが、当の本人がウキウキとしているので是非もないだろう。
「それに、そ~した方が絶対おもしろいしね~?」
「ね~?」
沖田と叔母さんが一緒になってぴょんぴょんと跳ねる。
「いいことぜっちゃん!おきちゃんの事はしっかりと彼女として扱うこと!そしておきちゃんもぜっちゃんの嫌がることは基本的にしない事!」
「わっかりましたぁ~!」
そう言いながら俺に抱き着いてくる沖田。
「まて、言動が一致してないぞ。俺は過度に触れられることは好かん」
「まぁーまーそーいわずにぃ」
「おいこら擦りつくな鼻水を俺でかむなァ!」
未だに鼻水が出ていた沖田は俺の制服のすそでそれをぬぐいやがった。
「えへへへぇ」
「泣き止んだかと思ったらいきなり前の調子に戻りよって……」
「いいのよ、女の子は笑顔が一番似合うんだから」
こうして、俺と沖田との疑似的な交際がスタートしたのだった。
*
「御父さんは認めませんよそんなこと!」
「何言ってだこの人」
叔母さんと一緒に家へ帰って、唐突に俺に怒鳴ってきた叔父さん。
恐らく叔母さんが帰る前に連絡を取っていたのだろうが、どんな風に経緯を伝えたのか、かなり曲解されている気がする。
「皇さん?何言ってんすかアンタ」
「文ちゃんから聞いた。私に許可なく女性を誑かしたそうじゃあないか。おいたん、善君をそんた誑しに育てた記憶はないよ!」
「なんだか身に覚えのない罪状が出てきたなぁ?!」
今朝からなんやかんやでずっと突っ込みのポジションになっている気がする。おかしい、俺はそんなキャラじゃないのに。
「どんな伝え方したのさ、叔母さんは」
「ありのまま伝えただけよぉ~?いいことぜっちゃん、女の子が一世一代の告白をしたのよ?それはそれはすごい事件なんだから」
「善君はまだ子供なんだぞう、お付き合いなんておいたん認めません!」
好き勝手言ってくる仲良し夫妻を無視して、俺は部屋に戻った。
今日はとんでもなく疲れたので、課題は適当にして早々に床につこう。夕食は先ほど茶店で軽く済ませたので、問題ないだろう。
部屋に行くまでリビングで叔父さんが何やら言っていたが、それを律儀に聞く気力はもはや残っていなかった。
*
朝。部屋に戻り課題を片した後、シャワーを浴びてすぐに眠った。
21時前には寝たから、かれこれ8時間程寝たことになるのか?
寝すぎて眠いわ。
「あら早いね、まだ六時過ぎだよ?」
リビングに行くと、まだ叔母さんが出かける準備をしているところだった。いつもは7時過ぎに起きるので、俺が起きるころには二人とも出てしまっている。故にこうして朝顔を合わせるのは中々に新鮮な気持ちだ。
「あ、そうだ。皇さんね、ちゃんと話し合いたいって。面倒だと思うけどちょっと時間作ってあげてね」
「そこまでか。わっかりましたよ。三者面談でも何でもしてやりますよ」
「ありがと、彼喜ぶわ」 「それぐらいなんてことないさ」
身寄りのない俺を引き取って育ててくれてるのだ、これぐらいしても返しきれないほどの恩がある。喜んでもらえるのなら、願ってもないことだ。
「じゃあ私出かけるね」
「あぁ、行ってらっしゃい。」
少しいつもとは違うが、また日常が始まる。