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人助けラヴァーズ  作者: 鯱眼シーデン
疑似ラヴァーズ

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17/28

16:期末ラヴァーズ

 七月第二週、期末テスト初日。


 沈黙の中で、みんなが鉛筆を走らせている。

 この空気は、嫌いじゃない。

 

 余計な会話も、妙なイベントもない。

 ただ、問題と向き合って、時間が過ぎていくだけ。

 ――平穏だ。実に、平穏だ。


 静けさで包まれた教室に、少し早く目覚めた蝉の声だけが響いていた。


「だぁ、つっかれたぁ!」

「まだ初日、しかも二限目だぞ。今日だけでもあと2つもあるし明日もある。充電切れにしちゃあ早いんと違うかぁ~?」

「うるへえ、俺のキャラじゃないんだよー。俺ぁ力仕事担当だ、頭脳担当は白や委員長に任せるぜ~」


 脱力しきった神崎に活を入れて、俺も自分のテスト勉強に戻る。次は苦手な英語の為、ぎりぎりまで詰め込みたい。あの性格の悪い英語教師の事だ、いやらしい問題をこれでもかと入れているに違いない。


 夏休みは貴重な休みなんだ、赤点なぞとって補修など食らおうものならそれを無駄に浪費してしまうからな、それは何としても避けたい。


 リーディングはまだ何とかなるんだが、ライティングがなんとも……。精進せねばならんなあ、しかも沖田がいる手前何とか見えを張りたいというしょうもない男心もある。


 俺はため息とともにお手製ノートに目を落とした。



 *


「ふゥ~……」

 

 放課後。

 校舎裏のベンチに腰を下ろし、教科書を閉じた。

 夕方の風は少し湿っていて、少し遠くで鳴いている蝉の声を聴いていた。


 空を見上げた時、軽い足音が近づいてきた。


「先輩、おつかれさまです!」


 振り向けば、息を弾ませた沖田が立っていた。

 肩までの髪が、少しだけ汗で張りついている。


「おまえもテストか」

「はいっ!でも英語が全然だめで……泣きそうです」


 教師の性格が悪いのは、学年共通のようだ。

 

「俺も似たようなもんだよ。あんな長文、読む気が失せる」


 互いに苦笑いを浮かべる。

 それだけの、他愛ない会話。


 でも、その短い時間の中にどこか懐かしいような、安堵にも似た温度があった。

 

「ねえ先輩」

「なんだ?」


 短く沖田が声をかけてくる。


「もう、一学期が終わりますね」

「そうだな」


「夏休み、どうしますか」


 彼女の問いの真意を、探る。


 先の文化祭での一幕についてか、それとも単純にスケジュールを聞いているだけか。あるいはもっと先――俺との関係性を指しての言葉か。


 俺は考えを巡らせて、そのすべてが同じ回答となることに気が付いた。


「まだ、決めてないな。」

「そうですか。じゃあ色々、できますね。」


 沖田はそれだけ言って、笑った。

 その笑顔は、少し大人びて見えた。


 夕暮れがゆっくりと校舎を染めていく。

 金色の光の中、彼女の影が長く伸びて俺の足元に重なった。


 それでも、俺はそれを気づかないふりをした。沖田は気づいたのだろうかは分からない。聞くこともしない。踏み込むには、まだ早い。

 

 けれど、離れるには少し遅すぎる。


 そんな距離感のまま、夏が始まろうとしていた。

 


「じゃあ、帰りましょうか」

「あぁ、そうだな」


 *


 テストはごく当たり前に終わって、俺達学生は夏休みに入る。


 その結果に一喜一憂する奴も多いが、俺は別に気にしない。自分が満足する点数を取れればそれでいい、それ以上は求めない。求めても手に入らないものは往々にして多くある、それを求めるのはストレスになるだけだ。


「先輩、結果どうでした?」

「別に答えるほどの出来栄えでもないし、そこでおんおん泣いてる馬鹿程酷い結果でもない」

「うるせぇ!お前になあ!分かるかあ!?あの先生の哀れみとも諦めともつかない微妙な表情で答案を渡されるときのあの気持ちが!」


 テスト初日でグロッキーになっていた神崎は案の定補修を食らい、数少ない夏休みのうち数日を奪われてしまったらしい。身から出た錆とはいえ、ここまでわかりやすく落ち込まれると可哀そうに思えてくる。先生はこんな気持ちだったのだろうか。

 


「まあそれも青春だ、頑張りな」

「物は言いようだ、ほら、持ち前のポジティブシンキングで乗り越えて見せろよ」

「くそったれめ。あぁわぁーった!甘んじて受け入れてやらぁ……!だがなァ!補修だけでは終わらねえ!海!夏祭り!川釣り!山!花火!夏のイベント網羅するまで俺の夏はおわらさねえぞぉ!」


 指折りで夏のイベントを挙げていく神崎。よくそんなぽこぽこイベントが思い浮かぶな、その頭の回転の速さを別のところに流用できればいいんだろうけれど、難しそうだ。


「おうおう、その意気だ。ふぁいとふぁいと」

 

「他人事みてぇにしてんなよ善!勿論全員一緒でだ!なんなら沖田ちゃんも一緒に遊ぶべ!な!」

「え、私も?!良いんです?男同士の方が楽しいんじゃ」

 

「気にしないで沖田ちゃん、勗は人が多ければ多いほど楽しみが増すと思ってる単細胞だから」

「へえ、まあわかる気がします」

「分かる口だな!その通りだ!」


 白の悪口をまったく聞かずに沖田の肩をバンバンと叩く神崎。

 こいつ、相手が女子であろうとお構いなしだな。俺らとほぼ同じように接してやがる。


 去年はこいつのせいでいろんなところに連れ出され大忙しだったな、今年はトラブルメーカーが二人になった分、凄いことになりそうだ。


「先輩?どうしました?私の顔見つめて、キスします?」

「するかバカタレ、今年の夏は喧しくなりそうだと頭を抱えてただけだ」


おもしろい、つまらない等、どんな感想・評価でもいただければ私はとてもうれしく思います。


もしよろしければぜひともお願いいたします。

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