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第八の言 エリアがんばる

「遅い!」

 ノルトの厳しい声に、エリアの身体が揺れる。

「申し訳ございません」

「謝る前に、先を視ろ!」

「はい!」

 エリアの気配がさらに広がり、商隊のより前方へと向かっていく。

「フォレル商隊は大きい。止まれと言われて、すぐに止めることは出来ない。指示が早く出せるように、先に先にと視るんだ!」

「はい!」

「ファン!」

 フォレル商隊の護衛隊の隊長を呼ぶ。

「エリアの感知した魔物を掃討してくれ! 隊は止められん」

「はい。エリア、来い」

 ファンの指示に従って、エリアが商隊の先頭を離れる。

 それをカバーする人間が代わって入る。

「エリア、何体だ?」

「前方五十ニイヅ(約80メートル)、十六匹。左方森の中五十二ニイヅ(約85メートル)、三十四匹。左の森の奥からまだ続いています」

「種類は?」

「前方に居るのは、低級から中級。種類は結構色々です。左は、中級……以上でしょう。こちらも雑多な種類が居ます」

「多いな……魔物がここまで群れるなど、普通じゃない」

「ええ。率いている奴が居るでしょう」

「見つけられるか?」

「前方の先だと思うので、前の魔物を抜けられれば」

「お前の速さなら抜けられるだろ?」

「先行して大丈夫ですか?」

「魔物は任せろ。術司(じゅつし)を頼む」

「はい。では、先に行きます!」

 エリアが、剣を抜き放ち、両足に力を入れる。

 前方の魔物の隙を見切り、走る。

 ひゅ! ひゅ! ひゅん!!

 薄刃の剣が、進路の邪魔になる魔物を切り裂く。

 同時に、魔物の壁を抜ける。

 そのままの速度で、先へと走る。

 全方位に、気配を広げる。

 捉えた気配は、一つ。

 左の森へ入る。

 十ニイヅ(約15メートル)先。

 木々の間を、走り抜ける。

──見つけた!

 ()術司の姿を認めるが、速度は落とさない。

 複数の風の刃が向かって来る。

 剣では防げないので、最低限の動きで避ける。

「遅いよ」

 ひゅん!

 無防備な頸動脈を、一閃。

 そのまますれ違い、噴き出す血を避ける。

 倒れた術司に近寄り、その懐を探る。

 身元を示すような物を全て抜き取り、商隊の方へと戻る。

 ()術司の影響が無くなり、魔物の壁が崩れている。

「まずは、道を塞ぐ奴らを森へ追い立てるか」

 森とは反対に移動する。

「死にたく無ければ、逃げろよ!!」

 吼えると同時に、気配に殺気を載せる。

 それだけで、魔物たちがパニックに陥る。

 そこに、殺気に圧を掛ける。

 それで魔物たちが、森へと一気になだれ込む。

 それに釣られて、森の中に居た魔物たちも森の奥へと向かいだす。

「エリア! 良くやった!!」

 魔物の対応をやっていた護衛隊から、歓声があがる。

「お前、本当に気の使い方巧いな!」

「気に、殺気載せるのって、どうやるんだ?」

 ガヤガヤと囲まれる。

「あの……え、と……申し訳ないのですが、俺、隊長と旦那さまと話さないといけないことがあるので──」

「え~」

 食い下がってくる隊の者に、エリアはすっかり押されてしまって動けなくなってしまう。

「お前ら、仕事しろよ! 退けたからって、気を抜きすぎだぞ!」

 たむろっている隊員たちを隊長が散らす。

「エリア。話ってのは、なんだ?」

()術司が持っていた物です。旦那さまと一緒の方が良いと思います」

 先ほど倒した()術司の懐から失敬してきていた物を見せる。

「ほぅ? その年で、そこまで頭が回るか──」

 隊長が笑う。

「よし、行くか!」

 隊長が、エリアを伴ってノルトの所へ向かう。

「片付いたかい?」

 ノルトの問いに、隊長が答える。

「はい。()術司をエリアが始末したので、魔物は散りました」

「それで?」

「エリアが、()術司から持ってきた物があります」

「ふ……ん」

 ノルトに目線で問われて、エリアが答える。

「普通は、あまり手がかりになるような物は持たぬハズですが、持っていたので……」

「余程腕に自信があるか、馬鹿だね」

「手応え的に、後者かと」

 ほぅ、とノルトが笑う。

「自分の手がかりはありません。ただ、依頼者を推察できるような書面を持っていました」

 エリアから差し出された書面を見る。

「ふ……ん。二の兄上からの妨害ねぇ」

 思案するノルトに、エリアが問う。

「信じるのですか?」

「信じたくは無いね」

「もし真実なら?」

「早めに対処しないと不味いね」

「…………俺とカティを、途中で放り出したりしませんか?」

「何を今さら?」

「カティは、…………吟遊詩人(バード)だけじゃないです」

 静かに言ったエリアの言葉に、ノルトと隊長が考え込む。

「なぜ、今、言う?」

「同道するようになって一月、ずっと視てきましたから。そして、今きちんと判断しないと、俺とカティも危ないかもしれない」

「自分が関わっているからか。理由としては、真っ当だね。で?」

「カティは、……言織りです」

「なるほど、それでフォン・ノエラに行きたかったわけだ。確かに歌発祥の地でもあるけど、理由として苦しかったね。言織りなら、納得だ。…………ここで言うってことは……()言織りの能力持ちか?」

 目を見張るノルトに、静かにエリアが頷く。

「カティは、封術司です。今言織りの力が無ければ、封術は(つか)えないのです」

「それは、朗報だね」

「カティの契約金、アップしてもらえますか?」

「……言織りの能力を使った時に、臨時金」

「基本給()アップ。待機してるのと変わらないでしょう?」

()、かい。本当に、ダビィから聞いていたけど、細かいな」

「フォン・ノエラの国境を越える時の資金を貯めたいので」

「う~ん。基本給五%アップ。臨時金は、確認したい内容に()るから、都度話そう」

 どう? と、問われて、エリアが考え込む。

「臨時金を潤沢にしてくれるなら、五%で手を打ちましょう。今回は、案件としては、上ですよね? いくら出します?」

「う~ん。今後の方針にもろに影響するから、特上だね」

「嬉しいですね。で?」

「がんばって、三〇〇マク(300万円)

「えぇ!? そんなにっつ!?」

「特上だぞ。これからのフォレル商隊一五〇人超の二ヶ月以上に影響あるんだぞ。この額だろ?」

「うわ……。俺、こんなに大きな商隊初めてだから、適正価格がわからないっつ!!」

「適正価格だ。他の商隊に会った時に聞いてみろ。私は恥ずかしくないぞ。それにお前らは、ダビィから預かったからな」

「うわ、うわ……。だって、基本給は五%止まりなのに?」

「適正価格だ。お前、本当に、いろんな意味で偏ってんな」

 傍で聞いていた護衛隊の隊長が、笑いながら混ぜっ返す。

「わかりました。では、今夜、消灯後に」

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