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第六の言 西の都──マリ・マリカ

 レ‐ラームは 中程の縊れた上半身肥大の太めのZを、赤道よりやや南半球を中心に描く二つの大陸。

 二大陸の北の果てにある険しい山(ハーン・キリエ)の先に見出された、未大陸。

 穏やかな太陽と、静かな月がそれぞれ一つ。

 空の交差(クロス)と呼ばれる垂直に交わる二つの小衛星輪(リング)を持つ世界である。

 中央に赤道と横に走る山脈を持つ北の大陸(ハーン・アッシュ)と、南半球の中程に位置する南の大陸(ソーン・アッシュ)

 その二つの大陸の縊れにある沼地と山脈に接する二大国の南大陸側の国、エル・マリカ。

 エル・マリカは、交易を中心とする軍国で、レ‐ラーム中三番目に広大な地を支配している。

 最大の面積を擁するのは、内海を挟んで向かい合う位置のエル・クォード。

 エル・クォードは、豊かな鉱脈を背景にする商業の盛んな強大な軍国である。

 二番目の国は、南の大陸最南端に位置する、稀宝玉(きほうぎょく)を産する、聖獣と言織り発祥の地、フォン・ノエラ。

 最南端の寒地に有りながら、横に長い形で、南に高き山脈、北に温暖な赤道海流と西風海流それに偏西風と言う大地の恵みを受けた穏やかな四季を持つ。農耕を中心とする文化国のこの国には、南の大陸中の他の四国も従臣こそしないものの、親交は深い。

 エル・マリカはこの国に、強いられてでは無く従臣の礼をとっている。




   *




 幼い頃に、エル・マリカの西の辺境に流れたエリアにとって、辺境を出たのは初めての経験だった。

 今まで行ったことがあるのは、せいぜい大き目の街までだ。

「人が、多いですね」

 びっくりしたようなエリアの声に、護衛隊の隊長が笑う。

「そーいえば、お前たち、辺境以外で同行したのは初めてだったなぁ」

「はい。だいたい、西の辺境周辺で仕事をしていたから……」

 エリアは、きょろきょろと周囲を見回しながらも、傍らに居るカティをしっかりガードしている。

 カティは、目隠しをした顔を、ゆっくりと周囲を探るように右に左に向けている。

 晶琴は、今は、竪琴に偽装されて、背負われているので、西の都(マリ・マリカ)の街中にもかかわらず、人目を引いていない。

「ダビィの旦那は、ここで、西の辺境で仕入れた品物を売りに出すんだ。辺境の商品は、安いのに質がいいから、高く売れるんだぜ。それを元手に次に行く北の辺境で売る商品を仕入れる」

「旦那さまは、裕福な商人なのに、なぜ辺境の商隊について回るんですか?」

「旦那も、最初から豪商だったワケじゃない。最初は、お前らと同じ辺境出身の流れの商人だったそうだぞ。辺境の大変さが身に染みてるから、初心を忘れないように、タイミングを見つけては、辺境に行くようにしているみたいだ。お前が居ると安心だからって、西の辺境には、良く行ってたんだがな。居なくなるのは、俺も寂しいよ」

「申し訳ない。マリ・マリカでの仕事までは一緒するから」

「いやいや、気にするな! 今まで西では、楽をさせてもらってたからな。本当に助かったんだよ」

「外でも、……俺の腕でやっていけるでしょうか?」

「いけるいける! 旦那に紹介状も持たせてもらえるんだろう?」

「はい。封印石のを作ってもらえるそうです」

「そりゃあ、いい。旦那の封印石の紹介状なんて、護衛任務に就くなら、最上級のもんだ。仕事には困らないだろうよ」

「そんなに? 俺、……物知らずでしょうか?」

「う~ん。それは、ちょっと否定してやれないかもな。辺境を出なかった分、ちょっと偏ってるから」

「どうしよう……。カティを養っていかなきゃならないのに──」

「エリア、大丈夫。いざという時は、私が吟遊詩人(バード)として歌うから」

 カティの申し出に、エリアがぺそりと眉を下げる。

 これでは、どちらが養っていくのかわからない。

「お前らは……相変わらずだなぁ」

「だめか?」

「だめです?」

 揃った問いに、苦笑する。

 ぽすん、と二人の頭を撫でる。

「いいや。お前ら、これからも二人でいるんだろ?」

「はい」

「うん」

 またも揃った答えに、破顔する。

「なら、その方がいい。とりあえずは、俺たちと一緒に宿に入れ。旦那は、護衛隊の分は負担してくれる方だから、金の心配は要らない。マリ・マリカに居る間は、甘えてろ。お前ら、まだ子供なんだからな」

「俺、来月の誕生日で十六。数えで十七だから、今度の年始で成人です」

 むっとしたようにエリアが反論する。

「ぷ……。そんな所が、ガキだって言うんだよ。大人になったら、他人(ひと)に甘えるのは難しい。だから、今は甘えてろ、な?」

 ごしごしと頭を撫でる。

「はい。ありがとうございます」

「ついでに訊いていいか?」

「カティは、いくつだ?」

「……わからない。だから、今度俺と一緒に、成人の儀をする」

「……そうか。おめでとうな、二人とも」

 今度の年始じゃ、一緒に祝ってやれなくて、すまんな。と言いながら、二人の頭を撫でる。




「エリア。カティ。居るか?」

 部屋の外からの声に、二人が答える。

「隊長、なんですか?」

「晩飯までまだ時間がある。市場で食い物出している屋台に連れて行ってやる」

「食い物!?」

 ばん! と扉を開ける。

「なんだ、腹減ってたのか?」

「いや、俺じゃなくて──」

「カティか?」

「うん。晶琴と繋がってるだけで、力使うらしくって……」

 横に目をやる。

 きゅるる。きゅる~。

 鳴る腹を抱えて、カティが申し訳なさそうに立っていた。

「封術司ってのも難儀だなぁ」

 行くぞ。と、二人を連れて外へと出る。

「マリ・マリカの中央大通りから、左に二本ずれた通り。その名もまんま、食いもん市場。笑えるだろ? でも、ここで売ってるの、美味いんだぞ」

 ぐいぐい、と、二人を強引に引っ張っていく。

「とりあえず、肉だ、肉! 串焼き、美味いぞ~。タレもいいが、塩もいい。マリ・マリカは、新鮮な肉の持ち込みが多いから、塩だけでも食えるんだ。貴重だぞぉ、美味い鳥の串焼き!」

 目に付いたらしい串焼きの屋台で、塩の鳥の串焼きを六本買って、エリアとカティと自分で、二本ずつ。

「あ、代金──」

「俺の奢りだ、奢り! 今までお前らには世話になってたのに、お返しらしいお返し出来てなかったからな」

 食え食えと促されて、二人が口を付ける。

「うま……」

「美味し……」

 クロリ()の肉は、外はカリカリで、中はふっくらとしていて、そこに焼けた時の程よい脂と塩がまとっていて、熱々で確かに美味かった。

 はくはくと食べ進める二人の姿に、隊長が笑う。

「美味いか?」

 こくこくと二人の頭が勢いよく縦に振られる。

イルミ(イノシシ)も、タレで食うとまた違うんだが、せっかくマリ・マリカで食うんだから、熟成させないと美味しくないクオオ()のタレにするぞ」

 同じく、六本買って、二人にも渡す。

 一串に、大きめの塊肉が三個。外はやっぱりカリカリで、中はしっとりとしていて、絶妙の火加減で、レアな部分まで美味しい。甘辛いタレが、ちゃんと染みていて、大きめなのに、中までしっかり味わえた。

「うまうま」

「ウマウマ」

 次は、何にするかな? と、歩きながら物色する。

薄焼き肉(ピタカ)のパン包み……これなら、ちょっと腹にたまるかな」

 二個買い、二人に渡す。自分は、これ以上食べたら、夕飯が入らなくなる。

「これは、何?」

「塩こしょうして、卵に浸して焼いたクオオ()の薄切り肉を、カルク(トウモロコシ)の粉で作った薄焼きパン(トルティーヤ)で巻いた物だ。それなりに腹にたまるぞ」

 むぐむぐと美味そうに二人が食べる。

「次は──」

「美味しい果実水が飲みたい」

 エリアのリクエストに頷きながら、少し先にあった水の量り売り屋に行く。

ミル(オレンジ)の果実水を三つ」

 木のコップにもらい、その場で飲む。

「うま」

「美味し」

ここ(マリ・マリカ)は大都市だからな。ミル(オレンジ)も新鮮な物が入るから、果実水も美味い」

 ごくごくと飲み干し、ごちそうさま。と、コップを店に返す。

「出発する時、買えるなら買って行け。保存用の魔石を入れるんだぞ」

「保存用?」

「ただの水と違って、腐りやすいからな。だが、口先が変わって、旅の間は重宝するぞ」

「わかった。ありがとう」

「他には? まだ入るだろう?」

「アリエの実があれば、食べたい」

 カティのリクエスト。

「好きなのか? 今の時期ならまだあるだろう」

 こくこくと頷くカティを確認しながら、果物屋の集まっている所まで進む。

「ほれ!」

 薄紅の半透明な果実を二人に放る。

 少し厚めの柔らかな皮ごと、果肉を齧る。薄い膜に覆われた粒状の小さな果肉が、歯の間で弾けながら潰れてゆく。芳醇で、豊かな果汁が口一杯に広がる。

 二人は、目を細めながら、互いに目をやる。

 あまり美味そうに食べるものだから、他にもう一袋買って、旅立つ二人への餞別にすることにする。

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