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第十の言 初めての酒

お酒は、二十歳になってから。

妊娠中、授乳中の飲酒には、気を付けましょう。女性は、何くれとなく色々気をはらわないといけなくて大変ですね。ありがとうございます。

「よう、エリア。おまえ、今日誕生日だって?」

 護衛隊の隊士の一人に声をかけられる。

「はい。それが?」

 昼食を、カティに食べさせながら、エリアが答える。

「いくつになったんだ?」

「十六です。今度の年始に、成人の儀に参加します」

「おお、一人前か!!」

「今日から、酒が飲めるぞ!!」

「俺の秘蔵の酒を出してやるよ!」

「飲もう! 飲もう!!」

「カティは歌を歌っている間は、酒が飲めないのでお断りします」

「固いなぁ、エリアは──」

 断ってくるエリアを放棄し、カティの方を篭絡することに決めたらしく、問い先が替わる。

「カティ、エリアに酒飲ませたくないのか?」

「いえ。私は構いませんけど?」

「俺が構うの!! 飲むなら、カティと一緒がいい!」

 前のめりで言われて、カティが身を引く。

「なんだ、カティも一人前なのか!?」

「……たぶん」

「たぶん?」

「……自分の誕生日を知らないので。エリアと一緒にしています」

「……そうか、そうか! じゃあ、夕飯の歌が終わったら、おまえたちも飲むんだぞ!」

「はい。よろしくお願いいたします」

 二人揃った返事。

「固い! 固いぞ、おまえら!!」

「もう、一月経つんだぞゾ! もっと打ち解けろ!!」

「おまえら、甘えるの下手だな!」

「成人って言っても、なり立てなんだから、まだ甘えてろ!」

 ガヤガヤと構われる。

 ダビィ商隊といい、フォレル商隊といい、気のいい隊士が多い。

 辺境にまで足を延ばす商隊自体、構成員の年齢は高めになるが、そんな商隊の護衛隊の隊士は、更に年齢が高い傾向にある。

 その中に混じって、若いながらも高い才能を見せて活躍しつつ、そこに溺れるでなく常に謙虚で控え気味のエリアは、大人たちの保護欲をたいそう刺激するらしい。何かというと構いまくられる。

 エリアの方は、エリアの方で、構われてもどう返していいかわからず、戸惑いながら馴染もうと努力している最中だ。

 カティの方も、エリアの反応を基に周囲と馴染んでいるのか、エリアの態度故に、中途半端な状態である。




「さぁ、飲め!!」

 ずい! と、杯を差し出されたエリアが、とりあえず、それを退ける。

「まずは、カティに腹ごしらえさせてからです!」

 夕飯の間の歌の提供が済んだばかりのカティに、取り分けていた分を食べさせる。

 もちろん、夕飯の前にも食べさせてはいるが、商隊の面々を満足させるだけの歌を終えたカティは、空腹の極致であり(使っているのが竪琴でなく、晶琴だからだ)食べさせるのは、他の何よりも優先度が高い。

「おまえ、どんだけカティを甘やかせば気が済むんだ?」

「カティは、俺の『拾い主』だから、俺は拾ってもらった恩を返すのが当たり前なんですよ」

「『拾い主』?」

「死にかけてた俺を拾って助けてくれたのがカティです」

「エリア……語弊」

「本当のことだろ? あの時、カティに拾われてなかったら、俺は死んでた」

「エリア……。もう五年以上前のことだよ? 時効だよ」

「なんだ、なんだ。おまえら、そんな前から一緒だったんだ?」

 興味を惹かれたらしい相手が、食い下がってくる。

「幼馴染ってヤツなのか?」

「……ナイショ」

 カティが、唇に人差し指を添えて、にこりと笑う。

「内緒って、それもかよ!? おまえら、隠し事多すぎだぞ!!」

「俺たち、正真正銘の『流れ者』だから、ね?」

 エリアが、ふふ、と笑う。

「天下のダビィ商会のオーナー直々に作られた、封印石の紹介状なんてのを持ってる『流れ者』が居るかよっつ!!」

 むくれる隊士に、二人が笑う。

 『流戦士』と『吟遊詩人』。

 確かに『流れ者』だが、腕がそこらの流れ者レベルではないのだ。

 未だ成人前だと言うのに、商隊の列の最前列を占めることの出来る能力を持つ『流戦士』。エリアがそこを占めるようになって、フォレル商隊が襲撃される率は、目に見えて下がった。

 どれほどの歌を収めているのか、どんな歌でもリクエストに応えることが出来る『吟遊詩人』。フォレル商隊は、それなりにたくさんの吟遊詩人を抱えてきた経験があったが、これほど多岐にわたるリクエストに応えることができた吟遊詩人はかつて居なかった。

 商隊主のノルトにも、護衛隊の隊長ファンにも、目をかけられている。

「……美味しい?」

 発酵酒(エール)を初めて口にしたエリアは、首を傾げながら素直に発言した。

「その疑問形はなんだっつ!?」

「だって……美味しいと思えないです」

「このお子さまがっつ!!」

「この美味さが分からんとはっつ!!」

「だって、なんか……苦い?」

「じゃあ、こっちはどうだ?」

 蒸留酒(ウイスキー)の水割りをエリアの杯に注ぐ。

「……なんか、(けむ)い?」

「この野郎! 俺の秘蔵酒をっつ!!」

 別の人間が、ミル(オレンジ)酒を注ぐ。

「うわ……あっま! これ、美味しいの?」

 びっくりしたように、思わず杯を口から離す。

 周囲の大人たちが、じっとりと互いの顔を見合わせる。

「文句の多いヤツだな~」

「苦いもスモーキーも甘いもダメなのかよ~」

「こいつは?」

 カカル(ゆず)酒を注ぐ。

「あ……甘いけど酸味があっていいかも?」

「ほどほどに甘くて酸味があるといいのか。ん~、まだお子さま口だな」

「カカルがイケるなら、こっちも大丈夫だろ」

 ルルワ(すもも)酒を注ぐ。

「こっちも、甘酸っぱくていいかも?」

 杯を干しながら、傍らに目をやる。

「何飲んでるの?」

 すでに何杯か重ねているような様子のカティに訊く。

「アリエ酒。とっても美味しい」

 答えるカティの口もとが、ご機嫌な笑みを浮かべている。

「カティは、アリエの実が好きだから、薦めてみた」

 横で、女性の隊士が、ガッツポーズをとっている。彼女が薦めたのであろう。

「なんだ、カティも甘酸っぱい系がイケるのか?」

 エリアの方に薦めていた隊士が、覗き込む。

「そうみたい。酸味が美味しい」

 満足そうに答えるカティを見て、エリアに向き直る。

「おまえも飲んでみるか?」

 訊かれて、エリアが杯を空ける。

 空いた杯に、アリエ酒を注ぐ。

「うん。これ、美味しい」

 エリアの口もとにも、笑みが浮かぶ。

「よし! どんどんいけ!!」

 空けろ空けろと囃し立て、エリアとカティの杯に、次々とアリエ酒が注がれる。

 口当たりの良さに、二人は限度を超えて杯を重ねてしまう。

「ん~~~。カティが二人居る~~?」

 エリアの(つぶや)きに、カティがカラカラと笑う。

「エリアだって、四人居るじゃない~~」

 その言葉を聞いて、ようやく周りが二人に飲ませ過ぎたことを知る。

「エリア! もう止めろ!!」

「カティ! ストップ、ストップ!!」

 二人の手から、杯が取り上げられる。

「おかわり~~~!!」

「もっと欲しい~~~!!」

 取り上げられた杯に手を伸ばす二人から、周囲がそれを死守する。

 そばに居た隊士が、完全に出来上がった二人を、身につけていたマントでくるむ。

 別の隊士が、少し離れた所に素早くマットを敷くと、マントにくるまれた二人を転がす。

「もっと~~──」

 二人はもごもご呟きながらも、あっと言う間に睡魔に呑み込まれる。

「……良かった。酒に呑まれる前で──」

「明日、……大丈夫か?」

 すぅすぅと抱き合って眠る二人を見下ろして、青くなる。

 エリアが商隊の最前列から抜けたらと考えると、ノルトとファンの怒った顔が脳裏に浮かぶ。

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