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 「リコ、デート行こう」

 「待っとくから準備しておいで」


 今日も今日とて、突然やってきた双子はそう言って店の看板を勝手に『閉店』にした。丁度、客がいなかったので閉店にするのは良いのだが、突然過ぎていつもの如く私はぽかーんとしていた。


 「デートって……どこ行くの」

 

 我に返った私が訊くとオーフェンが悪戯っぽく笑った。


 「さーて、どこでしょう」


 にやにやと笑う姿に私は半眼になる。


 「せめて行き先がわからないと、どういう格好したら良いかわからないんだけど」

 「え〜、どんな格好でもリコちゃんは可愛いよ」

 「……そういうのいいから」

 「普通の格好でいいよ。格式張った所じゃないから」


 埒があかないと思ったヴィクトルがオーフェンの後ろから教えてくれる。あっさりと裏切られたオーフェンは舌打ちしていた。

 オーフェンの横に並んで身を屈めたヴィクトルが私を覗き込む。


 「でも、俺の為にうんとお洒落して? 可愛いリコを見たい」


 蕩けるような笑顔で言うものだから私は思わず赤面になった。ぱたぱたと熱を逃すもオーフェンまで私に近寄って耳元に口を寄せてきた。


 「ヴィクトルだけじゃなくて俺の為にも着飾ってよ。目一杯お前を可愛がりたい」


 フッと吐息が耳に掛かって私は飛び上がった。自分でもわかる。顔はもう見せられないほどに赤い。


 「〜〜〜ッ!! 覗いてこないでよ!!」

 「わーってるよ」

 「ゆっくりでいいぞ〜」


 ニヤニヤとこちらを見てくる二人を置いて、私は顔を隠すように二階へと上がった。遊ばれているとわかっていても、怒る気にはなれない。二人の笑顔を脳裏に浮かべながら私は自室のドアを閉めた。



 ◇ ◇ ◇



 双子に言われたからではないが、綺麗めの、他所行きの格好に着替えた私は小さなバッグを持って一階へと下りる。

 

 「お、バッチリだな」

 「リコちゃん、かぁいい〜」


 私に気付いた二人は可愛いベッド行きたい好き抱きしめたいなど、途切れること無く褒め言葉とセクハラを繰り返す。それを適当にあしらい、どこに行くのかと問えばオーフェンとヴィクトルが私の手を握ってきた。


 「行き先は海の向こう、太陽の国カラナン」

 「え」

 「しっかり握ってろよ」

 「え、え」


 手を握ったまま二人は私の方へ身体を寄せる。一般人の私には読めない文字の羅列が足下から浮かび上がって私達を取り囲んだ。何度か経験したことあるが、これは転移だ。

 どちらかがグッと私の腰を支える。瞬間、眩暈のような浮遊感がして目を閉じる。すぐに室内ではありえない風と太陽の光を感じて目を開ける。


 そこは見たことのない景色だった。

 石造りの建物が並び、少し訛りのある聞き取り難い言葉が飛び交う。薄着の彼等は皆笑顔だった。ジリジリと太陽に焼かれて暑くなる。

 周りを見ると上着を脱いで袖を捲って歩く人がチラホラ居たので、私も同じように上着を脱いだ。それだけでサッと吹き抜ける風が熱を冷ましてくれて涼しく感じる。


 「もう脱ぐの?」


 脱いだ上着を抱えるとヴィクトルが自然な動作でそれを取っていった。


 「あ、ありがと……だって暑いじゃない」


 取られた上着の行方を視線で追う。ヴィクトルが何もない空間に向かって何かを開ける動作をしてそこに上着を突っ込んだ。


 「もうちょっと暑がるリコちゃんを見たかったなぁ〜」


 消えた上着を見ていたら、後ろからオーフェンがぎゅっと抱きついてきた。


 「やめてって! 暑い!」

 「俺は暑くないもーん」

 「俺もにーちゃんも冷却の魔法掛けてるからな」

 「ずるい」

 「ま、ここは解除しとくか。暑い方が美味しいし」

 「俺も上着脱ご」


 そう言ってオーフェンとヴィクトルは上着を脱いで何もない空間にしまう。襟元を緩め、袖捲りまでした二人に連れられてやってきたのは行列が出来てる店だった。


 「あいすくりーむ……べりーちぇ?」

 「そ、最近出来た店」

 「甘くて冷たくて子供から大人まで大人気」

 「ここの暑い気候にピッタリの菓子屋ってとこだな」

 「へえぇぇ……」


 店の看板を見ていると双子が説明してくれた。

 客席を見ると子供から老夫婦まで幅広い層の客がいる。地元の人も多いが服装を見るに観光客が大半を占めていた。

 

 暫くして私達の番になると店員が呼びに来た。案内された席に座り、メニュー表を見る。

 アイスクリームなんて初めてのものだからと迷っているとオーフェンがメニュー表を覗き込んでいた。


 「ヴィクトルは何頼む?」

 「んーチョコかな」

 「美味いよな〜俺はバニラにしよっかな」


 決まらないのは私だけと焦るとオーフェンがメニュー表に書かれている一つを指差した。


 「リコちゃんはストロベリーにしとけ」

 「え、う、うん」


 正直、ちょこもばにらもどんなものかわからなかったので、助かった。ストロベリーなら流石にわかる。

 ストロベリーは他国からの輸入品で貴族か一部の人間しか食べられないが、双子経由で何回か口にしたことがある。あの甘酸っぱさは病みつきになる美味しさだ。

 注文を取りに来た店員にヴィクトルが三人分頼む。数分もしない内にそれはやってきた。


 「お待たせしましたー! チョコアイス、バニラアイス、ストロベリーアイスでーす!」


 透明な器に薄ピンクの塊が山になって盛られている。同じようにヴィクトルの前には透明な器に焦茶の山が、オーフェンの前には白色の山が盛られていた。オーフェンもヴィクトルもスプーンでそれを掬って口に入れる。私も目の前の山を一つ掬って食べてみた。


 「…………!!」


 私は驚いて目を見開いた。最初は冷たさにびっくりしたが、口の中にあったそれがすぐに溶けてストロベリーの甘酸っぱさが口中に広がる。最後にクリームの甘みがじわじわときて、思わずにっこりと笑みが溢れた。


 なにこれ! おいしい! これがアイスクリーム! おいしい!!


 パクパクと夢中になって食べているとヴィクトルからスプーンを差し出された。


 「ほら、あーん」


 そう言って彼の持つスプーンにはチョコアイスが乗っている。


 「!!」


 ストロベリーでこの美味しさならチョコはどれほど美味しいのだろう。

 迷いなどなく、私は差し出されたスプーンに食いついた。


 「!!!」


 チョコは甘さの中に微かな苦味があり、大人な味だった。苦味はあるが気にするほどでもない。これなら子供でも食べられる甘さだ。


 チョコもおいしい〜!


 うっとりと味わっていると今度はオーフェンからスプーンを差し出された。


 「俺のも食べるだろ」


 オーフェンの持つスプーンにはバニラアイスが乗っている。私はすぐに食べた。


 「う〜ん!」


 他のアイスと比べて口に入れた時の甘い香りと味を強く感じる。花とは違う濃密な甘い香りを吸って、私は美味しい美味しいと頷いた。


 「く……くくっ……」

 「ふっ……」


 ふと声が聞こえて音の方を見る。そこには私の様子を見ていた二人が笑いを堪えていた。


 「……言いたいことがあるなら言いなさいよ」


 私はじとりと二人を睨んだ。ヴィクトルは笑うのをやめて目尻の涙を拭って息を整える。


 「わりーわりー」

 「ヒッー! 面白すぎんだろ!」


 オーフェンは未だに腹を抱えて笑っていた。失礼な男である。


 「リコ、悪かったって、むくれんなよ」

 「別に! むくれてません!」


 テーブルの下でオーフェンの足をげしげしと蹴る。するとようやくオーフェンの笑いが止まった。


 「ハァアア……久々に笑ったわ……」

 「まぁ、あんな目ぇキラキラさせてるリコ見ると笑っちまうよな」


 初めてのアイスクリームにはしゃぐなという方が無理だ。ケッとやさぐれているとオーフェンが頭を撫でてきた。


 「悪かった。な、お前のそれちょーだい?」

 「あ、俺も欲しい」

 「いや。あげない」


 断られると思っていなかったのだろう。少し不機嫌になった双子を尻目にパクッと自身のアイスを食べる。

 美味しい〜と堪能していると不意にオーフェンが私の顔を掴んでヴィクトルの方へ強制的に向かせた。

 何事と思っていればヴィクトルが私にキスしてくる。驚いて開いた口にぬるりとしたものが入ってくる。暫くそれに翻弄された後、離れていくヴィクトルがにやりと笑いながら唇を舐めた。


 「なっ、なっ」

 「アイスくれねぇんだから、リコを食べるしかないよな」

 「ヴィクトルー、次俺なー」


 間延びしたオーフェンの声に震えながら私は慌ててアイスを献上する。しかし遅かったようでスイッチの入った双子に私は翻弄されるしかなかった。せめてもの救いは彼等が私にも認識阻害をかけていたことか。

 店を出る時に真っ赤になった私の顔を見て、店員は首を傾げていた。


【終】


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