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 天気の良い昼下がり、本日の営業は終了と外出していた私は向こうから歩いてくる警備兵に気付いた。

 刀を帯刀した、軍帽を被った二人組だ。凝視していたのが駄目だったのか、彼等と目が合ってしまった。


 「すまない、お嬢さん」


 真っ直ぐこちらに来た二人は私の前に立ち塞がった。


 「最近、この付近に若い魔術師の男二人を見かけなかったか?」


 その問いにすぐに彼等の捜している人物がオーフェンとヴィクトルだと気付いた。

 王家の影として勤めてからすぐに辞めてしまった彼等は王家の情報を外に出してはならぬと命を狙われている。オーフェン達は相手にもならないとさして気にしていないが、こうして指名手配されて捜索されている場面に出会すと現実なんだなと何故かしみじみしてしまう。あまりにも彼等が普通に会いにくるから私の感覚も狂ってしまった。


 さて、そんな指名手配の彼等の所在を教える訳にはいかない。いや、教えても彼等なら問題ないかもしれないが。


 「すみません、覚えがありませんね」


 眉を下げて、申し訳なさそうに返すと警備兵の一人が目を細めた。


 「そうですか。よく若い女性を連れて歩いているという目撃情報がありまして……そう……貴女のような年頃で背丈も丁度同じ……」


 鋭い眼光で私を睨む警備兵に思わず冷や汗が落ちる。

 そこでふと思い至った。

 普段からオーフェンとヴィクトルは認識阻害を掛けているから彼等の目撃情報なんてあるはずないのだ。


 アッ、これはもしかしなくても私が関係者だとバレている……!

 どうする?

 どうする!?


 内心焦る中、不意をついて走れば逃げ切れるだろうかと思考の端でそんな事を考える。


 「詳しく話を聞きたいので屯所まで来てもらえますかな」

 「あ……えっと……」


 ガシッと肩を掴まれた状態で両脇に立たれてしまった。これでは逃げるタイミングがない。

 グズグズしている私に痺れを切らした警備兵が手に力を込める。指が食い込み、あまりの痛さに眉を顰めた時だった。


 「ちょっとちょっとぉ〜女の子相手に乱暴なんじゃなぁい?」

 「そうそう。彼女痛がってるじゃない。それでも町民を守る警備兵なのかしらぁ」

 「なっ、何だお前達は!」


 突如として現れた美女二人が警備兵を私から遠避ける。掴まれて痛い肩を一人の美女がそっと優しく撫でた。


 「可哀想に……男二人に囲まれて怖かったでしょう?」


 垂れ目でグラマラスな美女が私の頬を包む。

 妖艶。

 まさにその言葉に相応しい色香を纏っている。ふわりと香る甘い香水と豊満な胸、キュッとした括れが同性から見ても美しい。美しすぎて嫉妬すら起きない。

 もう一人の美女もスタイル抜群で妖艶というよりは愛らしい顔立ちだが、しゃんと立つ姿はなんとも凛々しく惚れ惚れする。ピチッとしたスカートのスリットから見える足は引き締まっていて健康的だ。

 見惚れて反応の無い私に美女が顔を近付ける。


 「あら〜? どうしたのかしら?」


 鼻先同士がくっついてキラキラとした藤紫の瞳が私を覗き込む。同性だとわかっていても胸の高鳴りは止められなかった。


 「はわ……」


 そのまま前に出ればキス出来る距離だ。


 「オイ! いい加減にしろ!」


 業を煮やした警備兵が美女の肩を掴む。瞬間、美女は振り向きざまに掴んでいた警備兵の頭を鷲掴んだ。


 「な、何をす」

 「お黙り」


 有無を言わさぬ迫力を纏って美女の瞳孔がキュッと細まる。

 もう一人の警備兵は可愛い方の美女に拘束されていた。警備兵の首に腕を回して頭が動かせないように押さえている。胸が当たっているのか若干警備兵の顔が緩んでいる。しかしその表情も苦しげなものへと変わった。


 「目を離すとすーぐこれだな」

 「にーちゃん、記憶盗めた?」

 「ばーっちり」


 嬉しそうに目を細めた美女達から聞こえるのは男の低い声だ。聞き覚えありまくりのその声に私は驚きの声をあげた。


 「オーフェン! ヴィクトル!」

 「せいかーい」

 「気付くの遅ぇよ」


 美女達の姿が陽炎のように揺らめくと豊満な身体はがっしりとした体格に変わっていく。服も華やかなものから、いつも彼等が着る上品なものへと変わった。


 「んーこりゃコイツの記憶弄ってもどうしようもないかもな」

 「何? 面倒臭そうな感じ?」

 「他の奴等の記憶弄りながら組織一個潰す感じ」

 「うへぇ……俺、それ苦手」


 舌を出しながらヴィクトルが嫌そうに顔を顰めている。オーフェンが掴んでいる警備兵は目が虚な状態で口から泡を吹いていた。いつもの如く誰も二人の存在に気付かない。気絶した警備兵にも。

 潰すだ何だと会話を続ける二人に声を掛け辛く、じっと見守っていると私の視線に気付いたヴィクトルがふと表情を和らげて頭を撫でてきた。


 「怖かったろ? もう大丈夫だからな」


 オーフェンも気付いたようで私の横髪を掬うと耳にかけた。


 「今日はもう俺達の家に泊まりな。用事があれば済ませといてやるから……ヴィクトルが」

 「俺かよ。いいけど」

 「でも……」


 私は警備兵を一瞥する。


 「ああ、お前が気にする必要ねぇよ」

 「そうそう」


 オーフェンもヴィクトルも掴んでいた警備兵を離す。


 「寂しがり屋なリコちゃんの為に三人で帰るとしますかね」

 「だな」


 するりと繋がれた手に引かれて、私は歩き出した。



【終】


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