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「リコちゃん、何やってんの?」
店兼自宅の二階で作業をしていたら背後からオーフェンの声が聞こえた。
振り返ろうと思ったら、彼は間を置かずに私の背後に乗り掛かって体重をかけてくる。グッと押される背中に彼の体温が伝わってくる。抱き込むように私の手元を覗き込んできたオーフェンは、広がったノートや紙の束を見て、ああと頷いた。
「帳簿かぁ」
「そうよ。だから邪魔しないで」
「リコちゃんのくせに生意気〜」
オーフェンの大きな手が私の両頬を掴んで押してくる。痛いからやめてと手を叩けば案外あっさりと離れていった。
「もうっ、何しに来たの」
彼が先触れも無しに我が家に来るのはいつものことなので怒りはしないが、作業を邪魔されるは勘弁願いたい。サクッと終わる用ならさっさと終わらせて帰らせようと尋ねるとオーフェンはきょとんとした様子で首を傾げた。
「別に? 強いて言うならお前の顔を見に?」
その返答にガクッと項垂れた。
そうだった。彼等はこういう性格だった。
そう思い至ったところでもう一人居ないことに気付いた。
「そういえばヴィクトルは?」
「ん〜? 害虫駆除してんじゃない?」
「何で疑問系なの……」
「いやぁ、俺も手伝おうかって言ったんだけど、一人でやるって漲っててさぁ。お兄ちゃん寂しいわけよ」
「だからって私のとこに来なくても」
「いいじゃん。それとも何? 俺とは一緒に居たくねぇって?」
スッとオーフェンの瞳が細められ、纏う空気の温度が下がる。身の危険を感じた私は慌てて首を振った。
「そんなわけないでしょ」
「だよな〜」
否定したらオーフェンはにっこりと笑って再び抱きしめてきた。
「なぁ、早く俺とヴィクトルんとこ来いよ。お前一人余裕で養えるし」
「……気が向いたらね」
「強情だねぇ……ま、今はこれで許してやるよ」
私の顎に手をかけオーフェンが覆い被さるように顔を近付けてくる。そのままオーフェンは私にキスしてきた。唇を舐められて私の呼吸さえも飲み込まれるように貪られる。
オーフェンは満足したようでキスから解放された私は息も絶え絶えな状態でぐったりとオーフェンに寄りかかった。
「ヴィクトルが戻ってきたら三人で楽しもうな」
ぼんやりとする意識の中、オーフェンの楽しそうな声がよく聞こえた。
【終】