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七話 漆黒の鎧

 さて、【暗黒騎士】の特性は闇属性魔法の適性と剣技の向上である。とりあえず、剣技を確認しようと思いラーゼスは自分の影に【影の道具箱(シャドーボックス)】を発動した瞬間、目の前に腕一本入りそうな円形の黒いゲートが現れた。


(これもしかして、【影の道具箱(シャドーボックス)】か?)


 ラーゼスは黒い空間に手を突っ込むとお目当ての黒い長剣を取り出せた。今までは影を介してでしか発動できなかった【影の道具箱(シャドーボックス)】が、影の縛りがなくなったようである。これは明らかに【暗黒騎士】の恩恵といえるだろう。


 この後【影の道具箱(シャドーボックス)】を検証したところ、以前よりもできることが増えていた。まず、【影の道具箱(シャドーボックス)】に腕を突っ込まなくても物を取り出せるようになった。例えば、剣を取り出そうと思って空中に【影の道具箱(シャドーボックス)】を発動すると、ゲートから剣が吐き出された。【影の道具箱(シャドーボックス)】内にある黒死鉄を操作して、ゲートから棘を突き出す技もできるようになった。ゲートは地中からでも開くことができて、そこから黒死鉄の棘を突き出すような芸当もできた。以上が検証内容で、結果としては【影の道具箱(シャドーボックス)】の利便性が格段に向上した。今後、【影の道具箱(シャドーボックス)】を使用した戦術が活躍することは間違いないだろう。


 次にラーゼスは剣技を検証したが、結果としてはよく分からなかった。ラーゼスの剣技の基準は高校の授業で剣道をやった程度であるので、剣を適当に振って良し悪しなど分かるはずもなくといったところだ。ところが、剣に闇属性の【属性付与(エンチャント)】をして振ってみると円弧形状の黒色オーラが目の前に飛んでいったのである。


[なんだこれは?]


 ラーゼスは土魔法で壁を作るとそれに向かって、剣を振り円弧形状の黒色オーラを飛ばす。黒色のオーラはそのまま壁を突き破り、真っすぐに飛んで行った。突き破った壁の断面を確認すると、土が削れた形跡は無かった。つまり、相当切れ味があるもので切られた痕跡があったのだ。


[どうやら、闇属性のオーラを刃として飛ばせるようになったらしいな]


 以前はこのような芸当をラーゼスはできなかったので、これも【暗黒騎士】の恩恵といえるだろう。そうなると、ある程度闇属性のオーラの形状を操作できるのではないだろうか? ラーゼスは長剣の刃先からさらにオーラを伸ばすように集中すると、刃先が延長されたかのように黒色オーラが伸びた。長さは元々の二倍程度まで伸ばせた。延長した刃先の部分で土の壁を振りぬくと、きれいに土壁を切断できた。


(これは便利だな)


 これによって近接武器の攻撃範囲が広くなったのである。剣道を授業でやった程度の人間でも流石に間合いの重要性は理解している。お互い剣で戦うなら剣の長さを長くして相手の間合い外から一方的に攻撃できる方が圧倒的に有利なのは明らかである。また、最初は剣を延長せずに戦って相手に間合いを錯覚させた後、剣を延長するなどの奇襲攻撃も悪くないかもしれない。いずれにしろ、剣を使用した戦いに幅が広がったのは間違いない。早く実戦で試してみたいものだとラーゼスは思うのであった。


 しかし、実戦に行く前に暗黒騎士に必要不可欠なものがある。それは黒の鎧だ。いや、暗黒の鎧か? 漆黒の鎧も悪くない。ともあれ、暗黒騎士を暗黒騎士にたらしめているのは黒色の鎧と言っても過言ではないだろう。想像してほしい、暗黒騎士が普通の鉄色の鎧を身に纏っていたらそれは暗黒騎士だろうか? いや、それはただの騎士だ。断じて、暗黒騎士ではない。幸い道中で何体もヘルスケルトンナイトを屠ったため、ラーゼスは黒死鉄をかなりの量を所持していた。故に、ラーゼスは黒死鉄で鎧を作り始めるのであった。


 まずはインナーからである。ラーゼスの装いは前世の病室で着用していたパジャマのみである。この上に鎧を着るとなると、普通に考えてよろしくないだろう。パジャマは寝るための服なので、鎧のインナーに求められるような機能性はあるはずもない。そこで、ラーゼスはダークヒューマノイドスライムが落としたゴムみたいな物質である暗黒弾性体(ラーゼス命名)でインナーを作ろうと考えた。


 暗黒弾性体は野球の軟式ボールのような弾力があったが、そこに魔力を流すと柔らかくなって非常に柔軟性のある物質に変化する特性があった。ラーゼスは下着姿になって、ズボンを履く要領で暗黒弾性体に両足を突っ込み、暗黒弾性体を手で引っ張って腰あたりまで持っていく。別の暗黒弾性体の中央に穴を開けて、カットソーを着る感覚で穴に頭を突っ込み両手も暗黒弾性体を伸ばしながら突っ込む。そうして、上半身も暗黒弾性体で覆ったら下半身と上半身の切れ目に魔力を流して繋ぐとインナーは完成だ。


 見た目は全身タイツそのものだ。正直、すごく恥ずかしい見た目であるが重要なのは機能性である。この全身タイツの着心地はまるで自分の肌のようで、これ程インナーに適したものはないかもしれないとラーゼスは思う程であった。流石に恥ずかしいのか、ラーゼスは全身タイツの上に脱いだパジャマを着るのであった。


 次は暗黒騎士の象徴である鎧の製作である。ラーゼスは黒死鉄を粘土のようにどのような形状にもできるが、当然鎧など作ったことはない。鎧には腕、胸、膝、足など複数の装甲がいくつも組み合わさった複雑な代物で素人にはどんな構造をしているか分かるはずがない。ヘルスケルトンナイトが所持していた鎧をラーゼスの体に合うように小さくしてもいいのだが、上半身しか鎧はないのであまり良い案とは言えない。


[さて、困ったな]


 ラーゼスは無意識に独り言をつぶやく。とりあえず、まずはやれることをやろうとラーゼスは考え黒死鉄で全身を覆ってみるが、蝋人形になったかのように全く体を動かせない。その状態でラーゼスはしばらく考える。


(まてよ、別に西洋甲冑のような複数の装甲を作らずとも、黒死鉄で全身を覆った状態で関節を動かせればそれは鎧なのではないか?)


 早速ラーゼスは実行に移ろうと思い、手を動かせるようにするため上半身の黒死鉄を元に戻す。まずは下半身から調整する。膝関節部分の装甲に切れ目を入れることで、膝は曲げられるようになった。当然だが、膝を曲げると今度は膝関節が装甲から露出した。膝関節を黒死鉄で覆いつつも曲げられる構造にしないといけないわけである。


 この問題はストローの構造を思い浮かべて解決した。円筒状の装甲同士を連続して浅く重ね合わせていけばいいのだ。重ね合わせる部分は円筒が可動できるようにピン留めする。そうすることで円筒状の装甲一つ一つが小さく可変してストローの蛇腹部分のように関節を曲げることができるのである。この構造を足首、手首、指、肩や腰などの主要な関節部分全てに施す。体の動きが鎧で阻害されないか、ラーゼスはその場でラジオ体操第一をやってみる。


(良し、いい感じだ)


 これで、全身を黒死鉄で覆いつつ違和感なく動けるようになった。しかし、関節部分は他の装甲部分と比べて脆弱だ。それに、どうせなら見た目もこだわりたいとラーゼスが思うのは男性なら当然であろう。ラーゼスは関節部分の上に装甲を被せ、鎧の機能を損なわない程度に形状を調整する。各装甲に溝や筋を入れるなどして意匠性も加えて、自分が理想とする鎧を作り上げていく。最後に頭部を黒死鉄で覆い形状を整え兜とする。


[よし、これで完成だ!]


 まさか一から鎧が作れるとラーゼスは思っていなかった。そのためか、ラーゼスの感動も格別である。鎧のベースは人体にフィットするようにしているので、見た目は細身でスマートな印象を受ける。そこに、棘や筋を入れることで魔物の外骨格を思わせるような有機的フォルムを形成している。

 この鎧でラーゼスが一番力を入れたのは、脊椎が背中から浮き出たように見える部分だ。この部位は飾りではなく、実際に人体の脊椎と同じ働きを担っており、人体と全く同じ可動域をこの鎧は実現している。このようにしてラーゼスは自身の知識と経験を総動員して、様々な試行錯誤をして鎧をデザインした。


 ただし、この鎧は物理的に脱ぐことは不可能である。なぜなら、装甲同士が完全に一体化していて、留め具や隙間は一切ないためである。勿論、視界や呼吸を確保する部分はある。なので、脱ぐときは破壊するかしかないのだが、ラーゼスは【鉄血(アイアンブラッド)】で簡単に鎧を脱ぐことができるため問題は無い。それに、一度魔力を通した構造をラーゼスは保存することができるのでいつでも鎧を装着できる。


(鎧の見た目や機能性にこだわっていたらつい楽しくなってしまった。フィギュアの造形をしている時はこんな気持ちなのかもしれない)


 しかし、ラーゼスはここで重要なことを失念していた。


[そうだ、マントが無い]


 暗黒騎士にマントは必要不可欠だ。暗黒騎士たるものマントをバサッと翻すものなのである。早速、ラーゼスはマントの製作に取りかかる。使用する素材は暗黒弾性体だ。これの形状を整えればマントっぽいのは作れる。しかし、それだけでは芸がないだろう。そこで、ラーゼスは暗黒弾性体に黒死鉄の粉末を混ぜ合わせることにした。


 狙いは二つ。一つ目はマントに金属光沢をだすこと。二つ目は暗黒弾性体に黒死鉄の機能を付与することだ。暗黒弾性体に魔力を流して柔らかくし、黒死鉄の粉末を入れ込む。そうしたら、手でこねつつ【鉄血(アイアンブラッド)】で粉末が暗黒弾性体の中に均一に混ざり合うように操作する。ある程度混ざったので、混合物を薄くのばし混ざり具合を確認する。


(いい感じじゃないか)


 実は、地球でこのような混合をするのは結構難しかったりする。例えば、水の中に油を混ぜようとすると、油だけが一か所にまとまってしまうだろう。これと同じでサイズが小さくなるほど粉末は粉末同士でまとまる傾向が強くなり、ゴムの中にうまく混ざってくれないのだ。そんな背景があって、ラーゼスは魔法の偉大さに感動していた。


 混合物に【鉄血(アイアンブラッド)】を発動すると自由に形状を変化させることができた。恐らく、暗黒弾性体中の黒死鉄の粉末を操作することで、形状を変形させているのだと思われる。こうして、ラーゼスはアイシアに存在しない新素材を開発してしまったのである。ラーゼスはこの素材をブラックメタルラバーと命名した。ブラックメタルラバーを適当な長さに裁断して、肩の留め具で鎧に取り付ける。ラーゼスは右手でマントを振り払うように翻した。


[完成だ……これで完成……。ふっふっふっふ、はっはっはっはっは……]


 圧倒的な達成感と満足感がラーゼスの全身を駆け巡る。ラーゼスは堪えようとしたが、あまりの嬉しさに変な笑いが漏れてしまうのであった。それでも、頬が吊り上がるのを止められない。パジャマ姿で不毛な大地を走り回っていた青年はここにはいない。目の前には漆黒の鎧とマントに身を包んだ暗黒騎士が堂々と存在していた。


折角鎧が完成したのだ。今から実戦に行きたいとラーゼスは思うが、アンリはまだ寝ている。


(いつまで寝ているのやら。だが、この充足感の余韻(よいん)を味わっているのも悪くないかもしれない)


 兜の下でニヤニヤしながらそんな呑気ことをラーゼスが考えていると、背筋にゾッとする悪寒が走るのであった。



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