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五話 ハンティングハンティング

 ラーゼスは【影の道具箱(シャドーボックス)】から、初戦闘で手に入れた黒色の長剣を取り出す。


 黒色の長剣を手に取って地面に立てると柄がラーゼスの胸辺りまで来たのでかなり長い剣だと分かる。剣の幅は人の拳と同程度。柄を両手で持ち適当に振ってみると、木の枝を振っているかのように非常に軽いとラーゼスは感じた。これは錬気による身体能力向上の恩恵だ。これなら片手でも扱えそうだが、流石に実戦で使うのはまだ早いとラーゼスは思う。


 ラーゼスのクラスは近接クラスの【騎士】だが、あの獰猛なヘルスケルトンナイトを相手に切り結びたいと今は思えない。いつかは武器のみで戦ってみたいとラーゼスは思うが、まずは安定して倒せることを優先にする。


(剣に【属性付与(エンチャント)】はできるだろうか?)


 ラーゼスが闇属性の魔力を流し込むと黒色の剣は闇のオーラを纏い、土属性の魔力を流すと黄色のオーラを纏った。


(良し、いい感じだ)


 今のラーゼスでは【属性付与(エンチャント)】は一つのものに対して一属性しかできないため、土属性を使用していなかった。そもそも、【属性付与(エンチャント)】は一属性しか付与できないのだが、この時点のラーゼスは当然知る由もない。


 土属性の特性は堅牢。物理耐性の増加やものが壊れにくくなる能力である。【浸色領土(イロ―ジョン・ソイル)】は土属性を【属性付与(エンチャント)】すれば強度は上がるが、それよりも闇属性を付与した方が戦術の幅が広がるとラーゼスは考えていた。そんなことがあって、ラーゼスは闇属性の【属性付与(エンチャント)】を好んで使用していたのだった。そして、黒色の剣に魔力を流してみてラーゼスは確信めいたものを感じていた。


[この魔力の流れる感じ……もしかしたら、この剣に土魔法を使えるかもしれない]


 土魔法を使ってこの剣を様々な形状に変化させるのではと、ラーゼスは直感的に把握したのである。ラーゼスは大地に土魔法を使用する要領で黒色の剣に土魔法を発動させた。イメージするのは球体。すると、黒色の剣はすぐさま球体に形状を変えた。


(本当にできたぞ! いや、喜ぶのはまだ早い。確認のためもう一度……)


 ラーゼスは高鳴る胸の鼓動を抑えて再度土魔法を発動する。今度は板をイメージすると、黒色の球体は板状に姿を変えた。


[これは、もしかして凄いことになったんじゃないか……?]


 土魔法は土だけでなく金属にも作用することが判明した。地球の文明は金属とともに発展したといっても過言ではない。初めは青銅製の武器や防具に始まってその後、より性能の高い鉄が現れた。いつの時代でも金や銀は富の象徴であった。近代では金属でできた超大型戦艦が海に浮かび、金属製の飛行機が空を飛び、金属の弾が飛び交っていた。現代ではリチウムなどの金属がエネルギーデバイスとして使用されていて、金属は人間たちに様々な恩恵をもたらしてきた。地球の現代を生きていたからこそラーゼスは金属を自在に操れることに大きな衝撃を受けたのである。


(これは面白くなってきたぞ)


 ラーゼスは【影の道具箱(シャドーボックス)】から黒色の鎧と盾を取り出して検証を始めるのであった。


 黒色の金属をいじくり回して、分かったことがある。まず、この金属は何でできているかは不明である。地球の金属である鉄はFe原子の集合体であるが、アイシアに原子が存在していることが不明であり、現状組成なんて調べられない。なので、ラーゼスは金属の組成を調べるのを早々に放棄した。


 形状については土魔法でどんなものにも変えられた。球体から棘を出したり、紙のように薄くしたり、液体のようにしたり、粉末状にしたりなど思いつく限りの形状は全てできた。金属自体に柔軟性があるので土と比べると、圧倒的に形状の自由性があった。また、元の剣や盾の形にも復元できた。元になる形状に魔力を流すとその姿形をラーゼスは保存することができるようであった。ラーゼス自身正確な形状は覚えていないが、元の剣の形を何となくイメージすると魔力がそれに合わせて元の剣の形にしてくれるのである。


 黒色の金属の球体を空中に浮かべて、自由に操作してみる。縦や横に動かしたり、その場で回転させたり、煉獄の炎をドーム状に囲ってみたりなどしたが操作性も十分であった。さらに、黒色の金属には【属性付与(エンチャント)】も可能であった。特に、闇属性の【属性付与(エンチャント)】がしやすかった。ラーゼスは闇属性を【属性付与(エンチャント)】して、黒色の金属を操作する魔法を【鉄血(アイアンブラッド)】と名付けた。


 ラーゼスが【鉄血(アイアンブラッド)】の修練をしていると、アンリが大きな伸びをして起きた。


[おはようございますー]


[おはよう]


 ラーゼスはアンリに顔を向けずに魔法の修練に集中している。もう一度アンリは伸びをして、ラーゼスが黒色の金属の球体三個を空中で同時に操作しているところにアンリが話しかける。


[何をなさっているんですか?]


[新しい魔法を開発したんだ。見てくれよ]


 ラーゼスは三個の球体を一つにしてアンリの目の前に移動させる。ラーゼスはそこで球体を様々な形状に変化させてアンリにお披露目する。


[ヘルスケルトンナイトの武器と防具に使用されていた金属を自由に操作できるようになったんだ]


 アンリは大きく目を見開いて、黒色の金属を手に取りまじまじと観察する。


[本当に金属を操作しているようですね。驚きました……、他の属性は全くダメでしたがまさか、ここまで土属性に親和性があるなんて。普通は土魔法で金属を操作すること自体が非常に難しいので、ここまで巧みに操作できるのは初めて見ました]


 アンリは頻りに感心していた。


 そんなことを言われ、少し気恥ずかしい素振りをラーゼスは見せる。褒められて素直に嬉しかったらしい。どうやら、ラーゼスは土属性に愛されていたようである。闇属性を除くそれ以外の属性はダメダメであるが。


[この金属についてなんだが、名前とか特性とか分かったりするか?]


 この金属について何も知らないので、ラーゼスはアイシアの住人であるアンリに聞いてみる。特性を知ることで違う使い方ができる可能性も大いにありえるからだ。


[これは黒死鉄こくしてつと言ってとても珍しい金属です]


[物騒な名前だな……]


(黒死って、地球だと黒死病を連想するんだけど。あれってたしか、中世のヨーロッパで大流行して1億人が死んだとかなんとかって病気だよな)


[名前には由来がありまして、鉄が長い間闇属性のオーラに晒されて変質したものが黒死鉄なのですよ。なので、亡者として彷徨っている騎士や戦士が所持していることが多いのでこの名前がつきました]


 (由来も物騒じゃねぇか)とラーゼスは思ったが、重要なことが分かった。これが元は鉄だということである。地球の鉄とアイシアの鉄は違うかもしれないが、少なくともアイシアにも鉄の概念はあって、鉄を使用した武器や防具があることも分かった。


[特殊な状況でしか生まれない金属なのは分かった。それで、普通の鉄とどういう違いがあるんだ?]


[違いはいくつかありまして――――]


 例の如くアンリが黒死鉄の特性を説明してくれた。


 まず、黒死鉄は強度が異常に高いこと。黒死鉄製の武器は切れ味が高く、防具は非常に堅牢だが、あまりにも硬すぎるので黒死鉄製の武器や防具の製作は非常に難しいらしい。


 二つ目は魔力保有量が高いこと。魔力保有量とは魔力を流せる量のことである。魔力保有量が高いと強力な【属性付与(エンチャント)】を付与出来たり、他にも魔法的な特性を付与しやすいのである。ちなみに魔力保有量が低い場合、武器に強力な【属性付与(エンチャント)】を使用すると魔力に武器が耐えられず壊れるらしい。


 最後に闇属性との親和性が高いこと。闇属性の魔力を流すと増幅してくれるのである。なので、闇属性の【属性付与(エンチャント)】の効率が高く、魔法的な触媒としても使用されるらしい。ラーゼスが黒死鉄に闇属性の【属性付与(エンチャント)】がしやすいと感じたのはこのためだ。


 名前は物騒であるが黒死鉄は超有能な金属であった。黒死鉄は加工が困難であるが、ラーゼスは【鉄血(アイアンブラッド)】で克服しているので、どんな形状にもできる。早速、武器や防具を製作したいとラーゼスは考えるが、量が必要になってくる。また、【鉄血(アイアンブラッド)】を使用した戦闘もいろいろ試したいので、今所持している黒死鉄はあまり使いたくないともラーゼスは考えていた。そうなれば、やることは一つである。


[もっと黒死鉄が欲しいから、魔物を狩ってくる]


[早速ですね! お供しますよ]


[何が起きるか分からんぞ]


[大丈夫ですよ。私襲われませんし。それに、ラーゼスを信じていますから]


[責任重大だな]


(とは言っても、俺が死んだところでアンリは襲われないのだから、信用するもなにもないと思うのだが……)


 そう思うのは無粋なので、今はありがたくその言葉をラーゼスは受け取っておく。【影の道具箱(シャドーボックス)】に《煉獄の炎》を回収して、ラーゼスたちは出発したのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 ラーゼス達はエスケープポイントを後にしてからいくらか魔物に遭遇した。最も遭遇した魔物はお目当てのヘルスケルトンナイトである。ラーゼスは二体目までは落とし穴に落として【浸色領土(イロ―ジョン・ソイル)】の棘でコアを貫く戦法で倒した。これによって、ラーゼスは二体の魂を吸収して魔力が飛躍的に向上し、戦利品も入手したので黒死鉄の量も増えた。そこで、三体目以降は【鉄血(アイアンブラッド)】での戦闘方法を試みたのであった。ラーゼスはアンリにその旨を伝えておく。


[次からは【鉄血(アイアンブラッド)】を使用して戦おうと思う。落とし穴戦法よりも近距離で戦うから気を付けてくれ]


[承知しました。ラーゼスのご武運をお祈りします]


 お目当てのヘルスケルトンナイトがいたのでラーゼス達は馬鹿正直に敵に向かう。念のため落とし穴を作っておく。ラーゼス達の接近に気づいたヘルスケルトンナイトは盾を構えてものすごい速度で迫ってきた。


(ワンパターンのやつらだ)


 ラーゼスは錬気を最大まで高めて、魔法名を呟く。


[【鉄血(アイアンブラッド)】起動]


 ラーゼスは魔法を発動させて人間の頭位の黒死鉄の球体五個を空中に無造作に浮かべる。敵が眼前に迫ったところで、ラーゼスは黒死鉄の球体五個を使用して壁を生成する。黒死鉄の壁で相手の突進を阻んだ瞬間、大地を揺るがすほどの衝撃音が鳴り響いた。


[すげぇ音。強度は問題なしだな]


 黒死鉄の壁は四角いもので押されたように凹んでいたが、許容範囲である。紙一枚程ではないがこの壁は結構薄い、強度として十分だと言える。そのことにラーゼスが満足しているとヘルスケルトンナイトが壁を回り込んできた。相手はラーゼスを視認するとすぐさま剣を振り上げて、その凶刃を振るおうとした。しかし、その剣は振り下ろされることは無かった。


 ヘルスケルトンナイトの背後にある黒死鉄の壁から触手のようなものが生えていて、ヘルスケルトンナイトの右手首を枷のように覆っていたのだった。ラーゼスは黒死鉄の触手を操作して相手の手首を壁に固定すると同じようにして、左手首、両足首と首も固定した。


 敵を眼前にしてヘルスケルトンナイトは気が狂ったように暴れようとするが、その拘束が外れることは無かった。


[一歩も動かずにヘルスケルトン・ナイトを封じ込めるなんて……。流石ラーゼスです。私も女神として鼻が高いです]


[ありがとうな。だが、戦闘はまだ終わっていない。少し試したいことがあってな]


 首をかしげるアンリをよそにラーゼスはヘルスケルトンナイトの鎧に【鉄血(アイアンブラッド)】を発動させるが、何も起きなかった。ラーゼスが土魔法を行使する時、対象物に魔力を供給する見えない線をつなげるのだが、それが弾かれた。


(そう簡単にはいかないよな)


 ラーゼスは暴れるヘルスケルトンナイトに近づいて直接鎧に手を置いて【鉄血(アイアンブラッド)】を発動させる。


(全然魔力が流れねぇ……)


 まるでパンパンに空気が入った自転車のタイヤに空気を入れているようだと、ラーゼスは感じる。ラーゼスはさらに魔力を流し込む。すると、僅かに魔力が入る手ごたえがあって鎧がカタカタと震え始めたが、それだけであった。これ以上は魔力の消費が大きすぎると判断して【鉄血(アイアンブラッド)】の発動をやめる。


 ラーゼスが今まで試していたことは相手の装備品に直接【鉄血(アイアンブラッド)】を発動できるかを確認していたのである。結果は御覧の通り、現実的ではなさそうだ。


[なるほど、そういうことですか]


 アンリがラーゼスの検証の意図を察して説明してくれた。基本的に相手の肉体や装備しているものに魔力を流して干渉することは難しいらしい。それは、相手の魔力がこちらの魔力を阻害しようとするからだ。なので、相手の体内に直接炎を生み出すなどの芸当は相当の実力差があって辛うじてできるらしい。一方で、精神に作用する魔法は比較的、魔力阻害を受けないためある程度発動させやすいとのこと。


[勉強になる。先に聞いておけばよかったな]


 流石、自称魔法を生み出した女神である。魔法については詳しい。


[これからは遠慮せずに何でも聞いてくださいね]


 検証は済んだので拘束されたヘルスケルトンナイトは用なしである。ラーゼスは黒死鉄の球体を相手の鎧の中に忍ばせ、球体の表面から無数の棘を伸ばす。コアは貫かれてヘルスケルトンナイトは灰になった。そして、現れた黒色の炎がラーゼスに吸収されるのであった。


 それから、ラーゼス達は山を目指す道中で三種類の魔物に遭遇した。一種類目はヘルスケルトンナイトで七回も遭遇し、七回とも【鉄血(アイアンブラッド)】で苦戦することなく撃破した。


 二種類目はダークヒューマノイドスライムである。この魔物は人をかたどった黒色の粘性体で、左胸にコアがあった。アンリが言うには粘液は強力な酸で人体や金属を簡単に溶かすらしいのだが、黒死鉄はそれの適用外だったらしい。ラーゼスは黒死鉄をドーム状にしてその中にダークヒューマノイドスライムを閉じ込め、ご多分に漏れず無数の棘で串刺しにして撃破した。撃破すると真っ黒のゴムみたいなものが残されたので、とりあえず回収する。ダークヒューマノイドスライムは合計で五体撃破した。


 三種類目はインフェルノマミーに遭遇した。この魔物の見た目は包帯をグルグル巻きにした人型の魔物で体中から黒い炎が噴き出ている。見た目に反して動きが俊敏で、中国拳法のような体術を仕掛けてきた。ラーゼスはダークヒューマノイドスライムと同様に、インフェルノマミーをドーム状の黒死鉄に閉じ込めた後、串刺しにして撃破した。撃破後、包帯が残されていたので一応回収する。インフェルノマミーは合計二体撃破した。


 以上がラーゼスの戦果報告である。目指している山は未だに遠いが、魔法を使用した戦闘には大分慣れてきたとラーゼスは実感した。


(そろそろ武器を使用した戦闘もしたいところだ。魔法は強力だが、戦闘のあらゆる事態を想定すると近接戦闘もこなせた方が良いに決まっている。むしろ、俺は近接クラスの【騎士】だから、近接戦闘の方が得意なはずなんだけどな)


 ラーゼスがそんなことを考えているとアンリから提案があった。


[ラーゼス、礼拝をしてみませんか?]


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