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四話 魂の救済

 ラーゼスは通常時よりも錬気を高めて、いつでも敵から全力で逃げられるようにする。ある程度接敵したところで、ラーゼスは土魔法でこぶし大の土を固めるとヘルスケルトンナイトにそれを投げつけた。死角からの投擲であったが、ヘルスケルトンナイトは振り向き様に盾でラーゼスの投擲を防ぐと、低いうなり声を上げながらものすごい速度で走ってきた。


 ラーゼスも全速力で走ったが、距離がどんどん縮まり相手の地面を踏み砕きながら走る音が徐々に大きくなる。


[やべぇ、やべぇ、やべぇ、速すぎだろあいつ!]


 ラーゼスは魔力をさらに供給して錬気を最大限高めて身体能力を底上げする。なんとか一定の距離を保ちつつ逃げていると目的の地点が見えてきた。ラーゼスは目的の地点を超えるとその場で急ターンし、敵を真正面に見据える。


 盾を構えながら突進してくるヘルスケルトンナイトが眼前に迫ってくる。異世界で初めての戦闘、それも強大すぎる敵にラーゼスは怖気づきそうになるが、なんとか気持ちを奮い立たせる。そして、ヘルスケルトンナイトがラーゼスの目と鼻の先に来た瞬間、ラーゼスは土魔法を発動させる。


[良し、今だ!]


 土魔法が発動するとヘルスケルトンナイトの真下にあった地面が崩れ去り、ヘルスケルトンナイトは四角い穴に落ちていく。ラーゼスが穴をのぞき込むと落とし穴の底には煉獄の炎が轟々と燃えており、ヘルスケルトン・ナイトは煉獄の炎に焼かれもがき苦しんでいた。


[やはり煉獄の炎は効くようだな。さて、仕上げといくか]


 ラーゼスは土魔法で落とし穴の幅を狭めて、もがき苦しむヘルスケルトンナイトの動きを封じ込める。


[敵の肉体を貫け、【浸色領土(イロ―ジョン・ソイル)】]


 ラーゼスが魔法名を口ずさむと、地面の底から黒色の棘が無数に生えてヘルスケルトンナイトのスカスカな体を貫く。黒色の棘の何本かは鎧の隙間から上半身に入り込む。


[分岐して、ズタズタにしろ]


 上半身に入り込んだ黒色の棘からさらに無数の黒色の棘が飛び出す。さながら一本の木からいくつも枝が伸びるように棘が突き出るのであった。突き出した黒色の棘はヘルスケルトンナイトの肩当ての隙間や首からも飛び出す。煉獄の炎で燃えていることもあいまって、ヘルスケルトンナイトはまるで不気味な芸術作品のような風貌になった。そして、もがき苦しんでいたヘルスケルトンナイトが唐突に動きを止めると、骨が崩れ去り残るのは装備品と黒色の粉末のみとなった。どうやら、ラーゼスの狙い通り黒色の棘がコアを貫いたようだ。


[なんとか倒せた……、まじで怖かった。自分でやっといてなんだが、コレえげつねぇやり方だな]


 ラーゼスが怖い思いまでして敵を引き付けたのは、罠にはめる確率を上げるためである。追いかけているものは自分が優位に立てていると思い込み、周りへの注意がどうしても散漫になるものだ。とは言っても敵の様子を見る限り知性は感じられなかったので、罠に誘導しなくても大丈夫かもしれないとラーゼスは思うのであった。ラーゼスが視界に入っていれば目の前の落とし穴に気づかずに突進してきそうである。


[今後はもう少しシンプルに戦ってみるか]


 ラーゼスがそんなことをこぼしていると、地面の底から黒く揺らめく炎が上ってきた。


(なんだこれ?敵の最後っ屁か? おい、なんか近いてくるぞ)


 ラーゼスがそんなことを考えながら後ずさりしていると、黒い炎は粒子状になり、ラーゼスの中に吸収されてしまった。


(何だったんだあれ? とりあえず、体には今のところ影響はなさそうだが……。それよりも、とっととここから離れた方がいいな。いつ敵が襲ってくるか分かったもんじゃない)


 ラーゼスは土魔法で落とし穴を急いで元に戻すと、ヘルスケルトンナイトの装備品と一応黒い粉末も【影の道具箱(シャドーボックス)】に回収し、その場を後にした。


 ラーゼスがしばらく歩くと、煉獄の炎で囲まれた場所にたどり着いた。ここは、ヘルスケルトンナイトを倒せなかった場合を考えて設営しておいたエスケープポイントである。煉獄の炎は魔物を寄せ付けないからだ。設営といっても煉獄の炎をただ円状に並べただけであるが、あるとないとでは雲泥の差である。落とし穴にも使っていた通り、ラーゼスは煉獄の炎を【影の道具箱(シャドーボックス)】に何個も収納していて、必要に応じて使用している。先ほどの戦闘でラーゼスは煉獄の炎の有用性は身をもって体験している。今後も大いに役に立ってくれるに違いない。



[本当に、本当に良くご無事でした。ラーゼス]


 今にも泣きそうな顔でアンリが出迎える。


[そんな顔すんなよ。約束通り、無謀ではないことを証明しただろ]


[ええ、そうですね。ここからあなたの知恵と勇気ある戦いを見ていましたよ。まさか、初めての戦闘でしかも一人でヘルスケルトンナイトを倒してしまうなんて。もし、現世でしたら英雄の如く皆から称賛されたことでしょう]


 ここまで言われると流石にラーゼスもむずがゆさを感じる。ラーゼスは敵を罠にはめてあらかじめ置いておいた煉獄の炎で炙りながら、黒色の棘で身体を串刺しにしただけである。


(うん、普通に鬼畜だな。知恵も勇気もなにも無い、ただの卑劣かつ外道の所業だな。あんな戦い方をここまで称賛してくれるアンリはやっぱり邪悪な女神なんだろう)


 ラーゼスはアンリの邪悪な感性を垣間見た気がして、褒められてこそばゆい気持ちが急に冷めていく。


[こうして勝利できたのもアンリが俺に祝福と魔法を与えてくれたからだ。ありがとう、アンリ]


(あいつに勝てたのはなんだかんだアンリのおかげだからな、まじで感謝)


 そして、ラーゼスは本題を切り出した。


[それと、さっきの戦いであいつの骨が崩れ去った後に黒色の炎が近いてきて、俺の中に入ってきたんだ。何か分かるか?]


 アンリは思案顔をして顎に手を添えた。そして、ラーゼスをまじまじ見つめると得心が行ったのか微笑んだ。普通の一般人なら顔芸にしかならないが、この女神は隔絶した美しさを持っているため、ちょっとした表情の変化が本当に様になる。


[その黒色の炎は元人間であったヘルスケルトンナイトの魂です。本来ならば解放された魂は天に上り浄化されるのですが、過酷な環境で魂が崩壊しそうになっていたのでしょう。恐らく、魂が完全に崩れる前にせめて自分を解放してくれた人に寄り添いたいと思ってラーゼスの中に入っていったのだと思います]


 アンリは両手を胸に置いて涙を流した。


[名もなき魂よ、本当に、本当にごめんなさい。ラーゼス、名もなき魂を救済してくれて本当にありがとうございます]


 どうしてアンリが泣いているのか、そして謝っているのかこの時のラーゼスには分からなかった。ラーゼスはどう接すればいいのか困惑して、涙を流すアンリをただ見ているしかなかった。


[ごめんなさいね。感極まってしまって泣いちゃいました。えへへ]


 いつものアンリに戻ったようでラーゼスは胸をなでおろす。あのままだと流石に調子が狂うというものだ。


[俺に魂が入った理由は分かったけど、体に悪い影響とかないのか?]


(現世で罪深かったから地獄で魔物として彷徨っていたんだろ。そんな魂が俺に入ったら絶対悪影響出るだろ。そう思うとすごい嫌だな)


 ラーゼスは少し不安な表情を浮かべながら質問する。


[安心してください。ラーゼスに入った魂はあなたの魂と完全に同化し浄化されています。そして、同化した魂はあなたに大きな力を授けてくれるでしょう。あなたの中にある魔力を感じてください。以前よりも、多くの魔力を感じませんか?]


 そう言われてラーゼスは己の中の魔力を探ってみる。そこには戦闘前の比じゃない程、増加した魔力を感じられたのだ。これなら通常時の錬気の強度をさらに上げても問題なさそうである。ただし、回復力の方はどうなっているか分からないため検証は必要かもしれない。


[お気づきになったようですね。魔力は魂から生み出されるので、強大な魂ほど多くの魔力を生み出すことができるのです。ですので、多くの魂と同化することでより一層強くなることができます。ここで彷徨っている魔物は救済されることを望んでいます。ラーゼス、どうかこれからも多くの魂を解放してくれませんか?]


[勿論さ。ただ、アンリには申し訳ないが俺は他者の救済が目的ではなく自己強化を目的に戦わしてもらうよ。生憎、俺はそこまで殊勝にはなれない]


 魂の強さが魔力の生産量に関係しているならば、今のラーゼスの魂の大きさは単純計算で戦闘前の二倍である。魔力の急激な増加にラーゼスは納得するのであった。


[どんな目的でも構いません。大切なのは行いなのですから]


 アンリは満面の笑顔を浮かべる。


 ここで、ふとラーゼスは疑問に思ったことがあった。強大な魂とはどんな魂なのだろうか? 聖人のように徳を積んだ高潔な魂だったり、今回のラーゼスのように魂の大きさなのだろうか? そもそも、他者の魂と同化したことで実際に魂は大きくなっているのだろうか? ラーゼスが考えるほど、疑問が湧いてくる。


(これ以上考えるとドツボにはまりそうだな。ここで重要なのは魔物を倒して黒色の炎を吸収すれば強くなれることだ。魂と魔力の関係なんて今はどうだっていい。過酷な地獄を生き抜くために、一刻も早く力を身に付けることが最優先だ)


 ラーゼスがそう決心して思考することに一区切りつけると、アンリが寝ぼけたことを言ってきた。


[それにしても、いろいろあったのでなんだか眠くなってきました]


[冗談……だよな?]


(ちょっと何を言っているか分からない。ここはスタート地点と違って何が起きるか分からない最前線だぞ)


 目をこすりながら、今にも寝てしまいそうな雰囲気でアンリが答える。


[まじです。ものすごく眠いです。別に眠ってもいいじゃないですか。ここは煉獄の炎で囲まれて安全ですし、そもそも私は魔物に襲われませんし]


(理屈は分かるが、ここで寝る必要ないだろ。地獄で睡眠は必要ないはずなのだが、そんなに怠けたいのかこの邪神は。むしろ、こんな物騒なところで寝れる神経に驚きだよ! さっきまでの真面目な雰囲気はどこ行ったんだ!)


[あ、もう限界なので、寝ますね。後はお任せしました。おやすみなさーい]


アンリは煉獄の炎の中で仰向けになると、スヤスヤと寝息を立て始めた。


[寝るの速すぎだろ……。こうなったらどうしようもないな。アンリを置いていくわけにはいかないし、俺も休憩するか]


 先の戦闘で得た戦利品の確認や魔力の検証をラーゼスは行いたかったのでタイミングは良かったのかもしれない。


[まずは戦利品の確認からするか]


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