走れ!
「あんた、火掛かったまんまだよ!」と厨房からライム・金環・りえこちゃんは怒鳴った。
「あーっ、はいはい、ごめんなさいごめんなさい。今いきますぅ」とアンディ・ハニーは小声で言うと床に投げ付けた出刃包丁とフライパンを拾って厨房に走っていった。
『あららっ!? 尻に敷かれている!?』と店の中にいた全お客とキャプテン・ミルクとブルーバードAYAは思った。
高部鼻ソカシコはアンディ・ハニーが巨体を小さくして妻のライム・金環・りえこの命令に従う姿を不思議そうに見ていた。
「はい、5番の席のお客様、『大盛牛タン重』と『しょうが焼き』です。悪いけど取りに来て」とライム・金環・りえこちゃんは言って料理を再開した。
5番の席のお客はサラリーマン風の男性だった。男性は急いで厨房にダッシュした。
「ニップレス、トイレを借りるだっちょ」と高部鼻ソカシコは言ったがアンディ・ハニーは料理で忙しくて声を聞いていなかった。代わりにアルバイトの女の子がトイレを指差して案内をした。まだ川谷ゲリズチョンは気を失っていた。店内にいる全員が、死んでるかもしれないと思っているので無視されたままの状態だった。全く誰も助ける気はなかった。
高部鼻ソカシコがゆっくりとトイレに向かったのを確認したキャプテン・ミルクはブルーバードAYAに頷いて『じんわりボイス』を送った。
『ブルーバードAYAさん、俺が高部鼻ソカシコのあとを追って詳しく話を聞き出します。気絶している川谷ゲリズチョンを見張っていてください』
『分かりました』ブルーバードAYAは心の声で返事をした。
キャプテン・ミルクは静かに立ち上がると気配を消してトイレに向かっていった。
『りえこちゃん家のメシは美味いから来てみそ』のトイレは真新しくて綺麗だった。洗面所に薔薇の花の花瓶があった。クリーム色の照明が穏やかな印象を与えていて、ゆっくりと寛げる空間を演出していた。『これならリラックスしてウンコが出来るなぁ~。人間とトイレの関わりは大事だからね』とキャプテン・ミルクは思った。
高部鼻ソカシコは鼻唄を歌いながら小便をしていた。キャプテン・ミルクは隣に行って連れしょんをした。
「いやぁ~、大変でしたねぇ~」とキャプテン・ミルクは優しい口調で高部鼻ソカシコに話し掛けた。
高部鼻ソカシコは、ため息を吐きながらキャプテン・ミルクを見て、力なく笑った。
「別に玉ねぎを投げなくてもさだっちょ」と高部鼻ソカシコは虚ろな目で言って、左手で頭を撫でようとしたらバランスを崩してしまい、高部鼻ソカシコの小型ドリルが左脚の太股に向けられて小便が掛かって大きく滲みながら広がった。
「あはん、これは凄くヤバイ!!」と高部鼻ソカシコは言ってパニックからキャプテン・ミルクの方に小型ドリルが向けられた。幸いにも小便をしているフリだったキャプテン・ミルクは高部鼻ソカシコを突き飛ばした。仰向けに倒れたままの高部鼻ソカシコの小便は止まらなかった。
「汚いな!」とキャプテン・ミルクは言った。
「すまんすまんだっちょ」とゆっくりと起き上がる高部鼻ソカシコの小便の勢いは止まらなかった。立ち上がってキャプテン・ミルクに詫びても小便をしたままだった。高部鼻ソカシコは急いで小便器に小型ドリルを向けて一先ず落ち着いた形にしたが、それでも小便は止まらなかった。
「ずいぶんと出るんだね」とキャプテン・ミルクは言った。
「僕は昔から我慢強くてさ、ギリギリまで小便を貯めるクセがあるんだっちょ」
「ふーん」とキャプテン・ミルクは言うしかなかった。
「混浴温泉惑星は良いね」と高部鼻ソカシコは小便をしながら言った。
「本当に良い惑星だよな。観光で来たのかい?」とキャプテン・ミルクは言った。
「まあな」と高部鼻ソカシコは含みのある言い方をしてキャプテン・ミルクに笑いかけた。
「率直に聞いても良いか?」
「なんだっちょ?」
「ジャム将軍についてだ」
高部鼻ソカシコは質問には答えず前を向いたままの状態で小便をしていた。
「いつ頃、混浴温泉惑星を侵略しに来るんだ?」
「お前は誰だっちょ?」
「俺のことはどうでもいい。質問に答えろ」
「ジャム将軍に聞きな」
「言いたくないのかい?」
「知るかボケ!」
「あん!?」
「知るかボケって!」
「もう一度だけ聞く」
「いいって面倒くさい」
「ジャム将軍は何処にいるんだ?」
「知るかボケ!」
キャプテン・ミルクは指を鳴らした。
高部鼻ソカシコは浮き上がると小便をしたまま天井に背中を向けて張り付いた。
「き、き、貴様!?」
「早く答えろ小便小僧!!」
「貴様は誰だ?」
「キャプテン・ミルクだ」
高部鼻ソカシコの顔は真っ白になった。
「ジャム将軍は、明日、侵略に来ます。本当に本当に来ます」と高部鼻ソカシコはビビって吐いた。
「本当にか?」
「はい、本当に、明日の午前中には侵略しに来ます。侵略してワープだかなんだかを探すとか何だとか」
「そこにいろ」とキャプテン・ミルクは言ってトイレから出ようとした。
「待ってだっちょーん! 下ろしてだっちょーん!」
「大丈夫。30年後には降りられるから、頑張れ」とキャプテン・ミルクは言ってトイレを出ると席に戻ってテーブルの上にヘンドリモンドリを置いた。
キャプテン・ミルクは、直ぐ様、川谷ゲリズチョンの側に行き、体を肩に担いで持ち上げると躊躇なく店から出ていった。ブルーバードAYAは慌ててキャプテン・ミルクの後を追っていった。店のお客は、皆、料理に夢中で誰も何も気付いてはいなかった。ライム・金環・りえこちゃんとアンディ・ハニーは料理中でキャプテン・ミルクの一連の素早い行動には全く気付きもしなかった。アルバイトの女の子は伝票を見ていて気付かず、受付や料理を運ぶアルバイトの男の子は料理を運んでいる途中のために気付かなかった。
☆続いちゃう☆
ありがとうございました!✨




