映し出された映像
曲り角ペペと川本さすおは同時に安らぎと癒しのゆきあかり@温泉旅館に戻ってきた。
直ぐに大部屋に行くと部屋の真ん中であぐらをかいたキャプテン・ミルクが目を閉じて瞑想をしていた。
「キャプテン・ミルク?」と曲り角ペペは小さな声で言った。幼なじみといえどもキャプテン・ミルクの静謐な姿、微動せずに瞑想するフォルムに神々しさを感じていた。曲り角ペペと川本さすおは薄目のままで落ち着き払ったキャプテン・ミルクの瞑想を見て、エモーショナルな気持ちになっていた。
キャプテン・ミルクは静かに目を開けた。
「ペペに川本さん。急に呼び戻してすまない。さっそく、ガラス容器に入っている『陰り銀蜘蛛』を調べてみてくれ」キャプテン・ミルクは立ち上がってペペと川本さすおにガラス容器を差し出した。
「確かに陰り銀蜘蛛だ。よく見るタイプの偵察マシンだよ」とペペは言ってガラス容器を揺らした。陰り銀蜘蛛は四方八方にぶつかって弾け飛んた。
「このタイプは古いな。14、5年間前くらいのマシンだろうか?」と川本さすおはガラス容器を覗き込んで言った。
「いや、10年前のモデルだと思う」と曲り角ペペは言ってガラス容器の蓋を開けようとした。
「待て」とキャプテン・ミルクは言って曲り角ペペの手を押さえた。
「なんだよ!? どうした? キャプテン・ミルク?」と曲り角ペペは驚きの声を上げた。
「急に起爆したりしないか? 爆発したりとか?」
「しない。これはプロトタイプの第1代目のマシンだ。起爆装置の陰り銀蜘蛛は第5代目だけに装備されている。この50年間で「陰り銀蜘蛛」が作られた機種は全部で5種類ある。特に4代目の陰り銀蜘蛛が高性能で最高傑作と言われているんだ。4代目は数が少なくて、全大宇宙で約870個だけしか生産されていないんだ。このガラス容器の陰り銀蜘蛛が1番普及した第1代目のタイプだよ」と曲り角ペペは言った。
さすがは頭脳明晰な幼なじみだ。
「起爆できるように改造されているかもしれないよ」と川本さすおは言って曲り角ペペの手からガラス容器を取った。
「どれどれ調べてみよう。う~ん。よし、他の部分で細かい改造はされているが、起爆装置は見当たらないな、ということで大丈夫です」と川本さすおは言ってキャプテン・ミルクにガラス容器を渡した。
「偵察マシンだから、ここに撮影カメラが付いているのが確認できる。なっ、ここに小さなカメラがあるだろう? ペペよ、撮影された映像は見れないか?」とキャプテン・ミルクは言ってガラス容器を曲り角ペペに再び手渡した。
「見れるよ。見てみようか?」とペペは言って扉の前にいるレッド明凜を呼んだ。
「レッド明凜、この偵察マシンの中にある映像を見たい」と曲り角ペペは言ってガラス容器から陰り銀蜘蛛をつまんで立ち上がるとレッド明凜の後ろ回り込んで、なにやら仕事を始めた。
「これでよし。ちょっとキャプテン・ミルク、カーテンを閉めてもらえるか?」と曲り角ペペは言ってレッド明凜を壁に向かせて立たせた。
キャプテン・ミルクは扉の横にあるスイッチを押した。カーテンは閉められた。部屋は薄暗くなった。
「今からレッド明凜の目から映像が出てくる。そこの壁がスクリーンの代わりだ」と曲り角ペペは言って壁を見た。
「わかった」とキャプテン・ミルクは言って一言も発しないレッド明凜を見つめた。
レッド明凜の目からレーザービームのような光が溢れて一気に白い壁に照らし出した。
映像が始まった。
「キャプテン・ミルク、この映像は約50時間分収録されていますが、重要と思われるシーンだけを取り出します。時間は大幅に削られて約8時間分になりました。そこから更に精査して4時間分まで削ぎ落としました」とレッド明凜は言って壁に写し出された映像の調整をした。
「ワシが映っているかな? あっあー。あーあー。あーあー。ただいまマイクのテスト中です。『女の子のオッパイが大好きでーす。オッパイパイパイ大好きでーす。この大宇宙で女の子のオッパイだけがあればいいのだ。ふはっ、ふはっ、ふははははは! ワシはジャム将軍だぞ! 悪の手先と言われたり、悪の親玉って言われたりもするジャム将軍だ!』これでよしと。映像をチェックしよう」とジャム将軍の顔が大きく写し出されてすぐに消えた。
「映像、音声、バッチグー。後はアレを見付けるだけだ」とジャム将軍は言って陰り銀蜘蛛を離した。
どうやら陰り銀蜘蛛は、この一機しかないようだ。
ジャム将軍はTHE・部座魔の扉を開けた。陰り銀蜘蛛は銀バエに変幻したようだ。やたらと羽音がやかましい。
映像は階段を上がる陰り銀バエの視界になっていた。
ピンク・ゆきあかり@温泉・夢子と受付中の明白涼子の姿が写し出された。宿泊客と談笑していた。陰り銀バエの羽音が邪魔でピンク・ゆきあかり@温泉・夢子と涼子と宿泊客の会話は鮮明だが、多少、途切れ途切れに聞こえてきた。
「一度、この安らぎと癒しのゆきあかり@温泉旅館に泊まりたかったんですよ~」と宿泊客の若いカップルは嬉しそうに話した。
「嬉しい御言葉をどうもありがとうございます。素晴らしい旅館なんですよ。気に入って頂けたら幸いです」 と 明白涼子は言って頭を下げた。
「何でも結構ですので、何かありましたら遠慮せずに私に申して下さいませ。いつでも大丈夫ですよ。よろしくお願いいたします」と涼子の隣にいる女将のピンク・ゆきあかり@温泉・夢子は言った。
「どうもありがとうございます。女将さん、温泉は何時まで入浴可能ですか?」と女性は言った。
「お客様の好きな時にです。いつでも入浴できますよ」とピンク・ゆきあかり@温泉・夢子は言った。
「うわーい。嬉しい」と女性は言って彼氏と腕を組んだ。
女将のピンク・ゆきあかり@温泉・夢子は喜んで見つめ合っているカップルの視線から離れて陰り銀バエを睨んだ。
「ちょっとお客様、失礼致します」とピンク・ゆきあかり@温泉・夢子は言ってフロントから出ると、右手に隠し持った年期の入った青いハエたたきで陰り銀バエを叩き落とした。
レッド明凜の目から出ている映像は真っ暗になった。
再び映像が始まった。
フロントを掃除しながら談笑しているピンク・ゆきあかり@温泉・夢子と明白涼子が写し出された。
「涼子、団体のお客様が来るから、しっかりと応対してちょうだいよ」
「女将さん、分かりました。お客様の数は10名様ですよね? 毎年来てくれて嬉しいですよね」
「そうよ。『お花を愛でる会でない会』という絵画サークルの方々です。混浴温泉惑星はたくさん花があるからね、素敵な絵を描かれているサークルなのよ。毎年、来てくれて嬉しいわよ」とピンク・ゆきあかり@温泉・夢子は言って陰り銀バエの姿をとらえた。
「ちょっと涼子、最近さぁ、銀バエが飛んでこない? なんなのよ、銀バエの野郎!」とピンク・ゆきあかり@温泉・夢子は言って青いハエたたきを持って陰り銀バエの真下に来た。
「本当だぁー。なんで銀バエなんか来るんだろう?」と涼子は言ってピンク・ゆきあかり@温泉・夢子を見守った。
陰り銀バエは狼狽えていた。画像が左右に揺れている。
「銀バエめ! くたばりやがれ!」とピンク・ゆきあかり@温泉・夢子は言って青いハエたたきを振りかぶった。
画面が途絶えて真っ暗になった。
再び映像が写し出された。
フロント内や受付けを掃除しながら話しているピンク・ゆきあかり@温泉・夢子と明白涼子の姿が写し出された。
「涼子の好きなタイプはどんな感じなのよ?」とピンク・ゆきあかり@温泉・夢子は床の雑巾がけをしながら言った。
「やっぱり優しくて話が合う人が良いかな~」と窓ガラスを拭いている涼子は言った。
「涼子、男はね優しい人が1番だよ。愛情深い人は優しいものなのよ。涼子、自己中心的でね、わがままな男だけは止めときなさいよ。嫌な感じで変に苦労するから。賢くて優しい人がいいわよ」
「確かに。女将さん、前に付き合っていた男性なんかね酷かったんですよ」
「どうしたのよ?」
「真夜中に寝ていたらいきなり叩き起こされて『涼子、今から一緒に蒸発しよう。仕事を休んで蒸発しよう』って言ってきたり。またある日の真夜中には『涼子、今から一緒に熱湯風呂に入って二人だけの我慢大会をしよう。仕事が落ち着いたら一緒に蒸発しよう』って言ってきたり。極めつけはある真夜中に『涼子、僕さ、仕事を辞めてきたから、しばらく蒸発したい。だから涼子と一緒に蒸発しよう』と言ってきたんです」
「涼子、なんなのよ、蒸発、蒸発ってなんなのよ、その男はさ」
「女将さん、よくよく彼氏の話を聞いてみたら蒸発という言葉をずっと長いこと勘違いをして覚えていて、蒸発じゃなくて旅行と言いたかったみたいなんです」
「男って、たまにそういうとこがあるよね」
「『蒸発じゃなくて旅行のことだよね?』と彼氏に言ったら、『蒸発だよ、蒸発。一緒に何処かへ出かけたり、彼女と楽しい思い出を作ったりする旅の事を蒸発っていうんだよ!』と彼氏が怒鳴って意味が分からないことを言ってきたんです。『それが旅行だってばさ!』と私が言い返したら『今まで友だちに一緒に蒸発しようぜと言って蒸発してきたけども、28年間、特に何も言われなかったぞ?』と彼氏が言った時に、一気に私の中で何かが崩れ落ちたんです。『あっ、この人、バカなんだ。もう別れよう』ってね」
「ある。男ってそういうとこがある」とピンク・ゆきあかり@温泉・夢子は言って陰り銀バエと目が合った。
「涼子、まただよ。銀バエめ。何処から入ってくるんだろう?」とピンク・ゆきあかり@温泉・夢子は言って青いハエたたきを取り出して銀バエを叩き落とした。
画面が真っ暗になった。
「俺は何を見せられているんだ?」とキャプテン・ミルクは呟いた。
いつもありがとうございます!