怪しい言葉
「ではキャプテン・ミルクさん、引き続きお話し致します。咳払いを1つ、コホン。実はジャム将軍が宿泊した「THE・部座魔」という部屋は、正式には、窓1つない湿気だらけの物置小屋なんです。ジャム将軍が部屋に移動した直後に、女将のピンク・ゆきあかり@温泉・夢子ちゃんがジャム将軍から受け取ったヘンドリモンドリの札束を確認しようと手元を調べてみたら……」
「手元を見てみたら? どうしたんです?」
「ヘンドリモンドリの札束ではなくて『そこだけはウフフフフなのよ』という青少年向けのカジュアルなスケべ気味な雑誌、定価550ヘンドリモンドリ(説明しよう。ジャパンゴールデンウィークの円だと500円くらいとみて良いよ~う。あはははは)なんですが、その雑誌の切り抜きで作った偽札だったんですよ! 雑誌は6月号と確認できましたぁ!」明白涼子は1階ホールをランニングしながら1人で話していた。思い出した怒りを静めるためにした行動であった。
「あたたたたた。そりゃマズい」キャプテン・ミルクは左手で顔を覆った。
「『あの野郎~。人をおちょくりやがって。涼子、あのヒゲ野郎をぶっ飛ばしてくるから、受け付けのお仕事をお願いするわねぇ。マジで頭に来ちゃうわ!』と女将のゆきあかり@温泉ちゃんが言って腕を捲ってから手のひらにブッと唾を吐いて揉み手をすると走ってエレベルタルリィーンに向かいました」
「ゆきあかり@温泉ちゃん? ああ、女将さんのミドルネームの事ですよね」
「そうです」
「で、どうなりましたか?」
「『女将さん、あのオッサン、ヒゲ野郎じゃなくてヒゲに似た鼻毛野郎じゃないかしら?』と私は独り呟いてゆきあかり@温泉ちゃんを見送りました」
「涼子さん、ちょっと待ってください。あれっ? おかしいな。ジャム将軍は鼻毛なんて出てましたっけ?」キャプテン・ミルクは腕を組んで目を閉じた。薄れ掛けていたジャム将軍の風貌を思い出そうとしていた。
「間違いなくヒゲのように見える鼻毛でした」明白涼子は自信を持って答えた。
「ああ、思い出した思い出した。確かに鼻毛を出していました。もう1つ特徴があるとすれば、確か簾ハゲじゃなかったかな?」キャプテン・ミルクはフサフサの髪の毛をかきあげた。
「キャプテン・ミルクさん、そうです。真っ赤に染めた簾ハゲです。その後、私は直ぐにゆきあかり@温泉ちゃんが戻って来たのでビックリしたんです。5分くらいで戻って来ました。『どうしたんです?』と私が聞くと『涼子、ヒゲ野郎がいない!』と言うではないですか。『あれは鼻毛なんです。居ないなんて、そんなはずないですよ』と私は狼狽えました。階段から上がる姿を見ていないし、もちろん1階にも来ていないし。『涼子、鼻毛野郎はフロントに来た? 私、スレ違ったのかしら』とゆきあかり@温泉ちゃんは言って辺りをキョロキョロしていました」
「間違いなく1階には来ていないと?」キャプテン・ミルクは考え込むように額に手を当てながら言った。ジャム将軍の怪しい行動を推理しようと試みていた。
「はい、来ていないです」
「う~ん。涼子さん、で、どうなりましたか?」
私も一緒に「THE・部座魔」に行きたかったのですがゆきあかり@温泉ちゃんの許可なしで職場を離れたらダメなのでフロントで地団駄を踏んでいました」
「うーん」キャプテン・ミルクは再び床に仰向けになると天井を見つめた。
「キャプテン・ミルクさん、話を続けても良いですか?」涼子はフロントに戻って椅子に座った。
「ええ、どうぞ」
「その後、フロントの電話が鳴ったんで出たんですよ」
「誰からです?」
「今は言えないです。誰からの電話は省いて良いですか?」
「いいですが、話に支障がでませんか? 大丈夫ですか?」
「大丈夫です。きめ細かく思い出しているので正確に当時の状況を伝えております」
「涼子さん、了解です」
「ゆきあかり@温泉ちゃんと私はしばらく話して宇宙警察に電話をして被害届を出そうと決めました」
「良い判断です。宇宙警察は受理しましたか?」
「いや、電話を掛けようと思ったら、なぜか階段からジャム将軍が上がって来たのです」
「ほほう」
「ゆきあかり@温泉ちゃんは『ちょっとお客様、お話があります。今、御部屋に伺いましたが居ませんでしたよ。どちらにいたんですか?』とジャム将軍に言ったら、『ちょっとそこまでチラッと少しだけ様子を見に行こうかなぁ~と思って、部屋から出ようとしたけど、一旦、踵を返す前に気持ちを落ち着かせてから、ゆっくりとした足取りで歩くようにした方が足には負担が掛からないから、身のこなしは十分に御満足頂けるかと思いましてねぇ~。ふはっ、ふはははぁー。あっはははははは。ぶわっははははは』とジャム将軍はあやふやな妙な言い方をしたんです」
「全く、何を言いたいのか分からないですよね」キャプテン・ミルクはジャム将軍の怪しい言葉を細かく分析していた。
『おそらく、ジャム将軍は何かしらの目的や考えがあって混浴温泉惑星に来たに違いない。「安らぎと癒しのゆきあかり旅館」に宿泊する理由とは一体何か? 考えを絞るとこの一点に限られてくるよな』とキャプテン・ミルクは推理していた。
「『お客様、もう1つ大事なお話があります。先ほど頂いた宿泊代ですが、偽札じゃないですか! 宇宙警察に通報しますよ!』とゆきあかり@温泉ちゃんが怒りを抑えて言ったら、私だけしか聞いていないんですが、ジャム将軍が小さな声でこう言ったんです。『アレを強めにか』とね。私は首を傾げて図りかねていました」涼子は立ち上がってフロントの隣にある休憩室の冷蔵庫からなめ茸ジュースを出して飲んだ。
「うーん。そうですか。うーん」キャプテン・ミルクは目を閉じた。
「ジャム将軍は『女将さん、よく札束を確認しましたか?』と言ってゆきあかり@温泉ちゃんの手元を指差しました。ゆきあかり@温泉ちゃんが手元を見てみ
ると、なんとビックリ、本物のヘンドリモンドリの紙幣になっていたんですよ」
「うーん」キャプテン・ミルクはある一定の考えが頭に浮かんでいた。
「私もゆきあかり@温泉ちゃんも動揺しましたが、実際に、この目ん玉で偽札を確認しているので、事実は曲げられません。あの鼻毛野郎は何らかのトリックをしたんだと思います」
「同感です。俺もそうだと思います」
「キャプテン・ミルクさん、話はここからが本題なんですが、聞きたいですか?」
「もちろん」
「私の話を信じると約束できますか?」
「できます」
「信じられない話を馬鹿にしたりしませんか?」
「しません」
「話を再開します」
「涼子さん、よろしくお願いいたします」
☆続いちゃう