迷っちゃう
「なるほどね。涼子さん、そういう経緯があったんですね。ジャム将軍は女に嫌われるタイプで究極的なうんこみたいな男だよな。あはははは」とキャプテン・ミルクは笑いながら床に仰向けに寝そべって足を組んだ。
それを見た乗組員たちやゲストたちも床に座ってリラックスし出した。
「キャプテン・ミルクさん、この話にはまだ続きがあるんですが、聞きますか?」明白涼子はまたカウンターから出て1階ホールをぐるぐると周りながらキャプテン・ミルクの返事を待った。
「聞きたいです」キャプテン・ミルクは体を起こして胡座をかいた。
「本当に聞きたいですか?」涼子の声が微かに震えていた。
「ええ、何かジャム将軍について詳しく分かるかもしれない」キャプテン・ミルクはジャム将軍の人間性、マインドについて更に知る必要があると考えていた。
「少し話が長くなるかもしれませんよ」涼子の声が一段と低くなり声が躊躇うように、か細くなった。
「大丈夫です。構いませんとも」
「辛くて途中で話を止めるかもしれませんよ」涼子は迷っているようだった。
「涼子さんに任せます。俺は涼子さんの気持ちを優先していますので話せる範囲で構いませんよ」
「話の途中で勝手に切り上げるかもしれませんよ」涼子は迷いにさ迷い続けて、深い森の中で迷子になったサスカッチのように狼狽えていた。
「その場合は難しい決断をした涼子さんを尊重します」
「私、話している途中で喉が渇いたら、もしかしたら、水か、黒酢か、お味噌汁か、「泣きながら乳同士」というアンダーグラウンドから売り出されている不味い牛乳か、炭酸水か、豆乳か、ガラナか、イチゴジュースか、お茶漬けか、豚汁のどれかを飲む恐れありでも?」
「飲みなさい。水分補給は大事です。宇宙は夏なんです。夏の宇宙で水分補給をしないのは良くないです。飲みなさい。大いに結構。飲んで喉を潤しなさい」
「キャプテン・ミルク、水分を取るとトイレが近くなる私を受け入れてくれますか?」
「涼子さん、そうなったらトイレに行っといれ。迷わずに行っといれ」
「大の方で時間がオーバーしても?」
「ただただ俺は待ちます。涼子さんのウンコが終わるのを待ちます」
「言葉が詰まって話が出来なくなったら?」
「俺が涼子さんの背中を叩いて喉から言葉が溢れるように致しましょう」
「話していて黙り込む事があるかも」
「黙る事も大切です。無駄に言葉を消費するよりも、沈黙の中で聞こえてくる言葉にこそ真実があるものなんです」
「キャプテン・ミルクさんは素敵な考え方をしているんですね」
「いやぁ、それほどでもないですよ。あはははは」
「分かりました。思いきって話しちゃう!」
「それはよかった」
「長い話になっても構いませんよね?」
「涼子さん、大いに結構結構コケコッコー」
「はっ!?」
「えっ!?」
「キャプテン・ミルク、コケコッコーって何ですか?」
「赤い鶏冠の鶏くんの鳴き声をデフォルメしたものです」
「鶏はコケコッコーなんて鳴きませんよ」
「じゃあ、何て鳴くんですか?」
「『ソメシコッキーナ、ソメシコッキーナ』って聴こえません?」
「涼子さん、それは勘違いじゃないですか?」
「いや絶対に鶏は『ソメシコッキーナ、ソメシコッキーナ』って鳴いています」
「いやいやいや。コケコッコーですよ」
「『ソメシコッキーナ、ソメシコッキーナ』ですって!」
「いやいやいやいや。涼子さん、コケコッコーですよ!」
「『ソメシコッキーナ、ソメシコッキーナ』ですってば!」
「ソメシコッキーナ? コケコッコーだと思いますよ」
「キャプテン・ミルクさん、じゃあ犬は?」
「ワンワン、です」
「違うと思う。犬は『サンザルブラジャリバボン、サンザルブラジャリバボン』って鳴いています!」
「涼子さん、絶対に絶対に絶対にワンワンですって!」
「『サンザルブラジャリバボン、サンザルブラジャリバボン』って鳴いてます!」
「『サンザルブラジャリバボン』? いやぁ、涼子さんの勘違いですって。鶏が『ソメシコッキーナ』で犬は『サンザルブラジャリバボン』?」
「そう鶏は『ソメシコッキーナ』ですって! 犬は『サンザルブラジャリバボン』です」
「犬種によって鳴き声が違っているのかな?」
「キャプテン・ミルクさん、犬はどれも『サンザルブラジャリバボン、サンザルブラジャリバボン』って泣くものなんです!」
「う~ん、了解です。勉強になりました」(説明しよう。今回、キャプテン・ミルクは早い段階で完璧に折れた。折れたが前向きな折れ具合いだった。ポジティブな折れ方は未来に繋がるのだ。女子は時に理不尽な話や行動で男子を戸惑わせたり試されたり迷わせたりする高度なコミュニケーションを披露したりする事があったりもしちゃうのだ。そう、それは厳しく激しい修行でもあるのだい。女子とのコミュニケーションは素晴らしい発見の連続なんだい。わっははは。読者の皆さんも明白涼子の悩み苦しみながら葛藤した姿を御覧頂けたであろう。涼子は怯えちゃってるのだ。ジャム将軍に怯えちゃってるのだ。恐れる訳を話すべきか話さぬべきか、どうか? それが分かれば苦労しないっちゅーの)
「キャプテン・ミルクさん、猫の鳴き声は?」
「にゃお~ん、か、ニャーニャーです」
「違いますって。『ヤラマチカー、ヤラマチカー』って鳴いています!」
「涼子さん、了解です。『ヤラマチカー』でよろしくお願いいたします」(説明しよう。キャプテン・ミルクは大人なのだ。女子の言葉に立ち向かうのは危険な状況に成りかねないと判断しているのだ)
☆続いちゃう