哀愁の女
https://31064.mitemin.net/i781956/(作画 茂木多弥様)
(作画 ひだまりのねこ様)
(作画 茂木多弥様)
「姿、形が違っても愛を持って飼い続けるのが飼い主としてのプライド、誇りなんじゃないのか? 山奥に捨てるだと!? よくもそんな酷いことが言えるな! 今すぐにここで死にたいか?」とキャプテン・ミルクは鬼のように顔をしかめながら言ったのさ。
「俺のファントム幸子ちゃんは土佐犬だ! 何処から見ても土佐犬だ! 絶対に土佐犬だと信じている! ペットショップの店員の若いギャルが『土佐犬っすよ。間違いないっすよ』って言ってたもんね!」とチンゲリラ哲也もイキりだって言い切った。チンゲリラ哲也も引かなかったのだ。
「よし、そこまで力説するならばファントム幸子ちゃんは土佐犬だと信じて最後まで飼い続けろよ! おそらくだ、土佐犬のファントム幸子ちゃんは頑張って努力しているとだけは言わせてほしい」とキャプテン・ミルクは言ってチンゲリラ哲也の顔を軽くビンタした。
「また引っ掛かる事を言いやがって! ファントム幸子ちゃんはペットショップの若いギャルの店員のお墨付きだ!!」チンゲリラ哲也は地面を蹴って抗議した。
「ファントム幸子ちゃんと話したい。何処にいる?」とキャプテン・ミルクは言った。
「俺の部屋だ。ムササビ・ジュニア号の2階にいるよ。でも部屋には入れない。俺は見知らぬ他人を部屋には入れない主義なんだ。テレパシーなら良いよ」
「よし、ファントム幸子ちゃんとテレパシーさせてくれ」
「わかった。ファントム幸子ちゃん、元気にしてまちゅか? 飼い主のチンゲリラ哲也だよ」
「ワンワン、ワンワン、ワンワン」
「偉い子ちゃんでちゅね。俺は犬語を話せない。あんたは犬語を話せるのか?」
「ああ、話せる」
「よし、じゃあ話せ」
「ファントム幸子ちゃん、はじめまして。キャプテン・ミルクです」とキャプテン・ミルクはファントム幸子ちゃんにテレパシーを送った。
「はじめまして。ファントム幸子です。ご用件は?」
「ファントム幸子ちゃんは土佐犬じゃなくてマルチーズですよね?」
「えっ!? ……。」
「ファントム幸子ちゃん、どうかしましたか?」
「な、な、な、何故、私がマルチーズだと、マルチーズだとわかったんですか?」
「チンゲリラ哲也さんに写真を見せてもらいました」
「お願いです! チンゲリラ哲也さんに私がマルチーズだとは言わないでください! お願いします! お願いします! お願いします!」
「ファントム幸子ちゃん、一体どうしたんですか?」
「私、今まで飼い主に土佐犬と言われて育てられてきたんです。実は私は土佐犬を見たことも聞いたこともなくて全く土佐犬を知らないのです。土佐犬は強いと言う事だけは飼い主に聞かされてきたので、それなりに強いフリをしてきました。どうやって強いフリをしたかというと、頻繁に飼い主に噛みついたり、飼い主にウンコをしたり、飼い主の大切な物を噛みついて破壊したり、やさぐれてドッグフードをブチまけたりもしました。たまに家出したりもしました。食べた物を吐く事もしたし、飼い主の食べた物の中にウンコをした事もあります」
「うーむ」
「頑張って強いフリをして『自分は土佐犬なんだ。私は土佐犬になるんだ』と無理矢理、自分に言い聞かせて洗脳をしてきたんです。が、しかし、次第に見たこともない土佐犬に恐怖心が生まれてしまってね、拒食症になってしまったんです。『これ以上、土佐犬のフリをするのは辛い』と思い始めた頃に知り合いのイリオモテヤマネコさんの由里子ちゃんに『飼い主に「私はマルチーズです。土佐犬ではないんです」と正直に伝えてみたらいいんじゃないの?』とアドバイスをされまして、2週間前から必死に飼い主に話し掛けてきたのですが……。私の飼い主は犬語を話せなくて……」
「なるほど」
「キャプテン・ミルクさん、犬ってね、飼い主の喜ぶ顔が見たいし、飼い主が幸せになってくれたら嬉しいという一途な生き物なんですよ。飼い主のためならなんだってする」
「よくわかります」
「だからチンゲリラ哲也さんには私がマルチーズだって言わないでほしいのです。私はこれからも土佐犬として生きていきます。土佐犬として強い女になります。土佐犬として生涯を全うする所存です」
「なるほどね。うーん。そうですか。よし、わかりました」
「ありがとうございます」
「飼い主にはマルチーズだって言いません。ただ……」
「ただ? なんですか?」
「土佐犬だと貫き通して頑張って生きてくださいね!」
「はい! キャプテン・ミルクさん、どうもありがとうございます。私、ファントム幸子はマルチーズなんだけど、土佐犬です! 私は、私は、私は、と、と、と、土佐犬、土佐犬なんです。私は強い女、強い女なんです。私は土佐犬なんです。うっ、うっ、ぐすん、ぐすん」とファントム幸子ちゃんは土佐犬宣言をして泣き崩れてしまった。
◇続いちゃう◇




