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キャプテン・ミルクの機転

 挿絵(By みてみん)

https://31064.mitemin.net/i781956/(作画 茂木多弥様)


 挿絵(By みてみん)

 (作画 ひだまりのねこ様)

 

 挿絵(By みてみん)

 (作画 七海 糸様)

 

 挿絵(By みてみん)

 (作画 茂木多弥様)





ムササビ・ジュニア号の入り口が閉まるとキャプテン・ミルクは船内の様子を静かに確認してみることにした。相変わらずムササビ・ジュニア号の船外から変質者の喘ぎ声のような金属的な響きが船内にも届いていたが、それとは別に周りには誰もいないため奇妙な静寂が漂っていた。


1フルフッー


2フルフッー


3フルフッー


4フルフッー


5フルフッー


6フルフッー


7フルフッー


8フルフッー


9フルフッー


10フルフッー


11フルフッー


突然、入り口の左側の壁に掛かっていた鳩時計が飛び出してきて鳴き声を出したのだ。今の時刻は鳩時計では午前11時のようだ。


キャプテン・ミルクは動揺せずに鳩時計の鳩を見つめた。鳩時計の鳩は故障のせいか右側にヨロけて落ちそうになっていた。


「おいコラーッ!!」


突如、怒鳴り声がした。


キャプテン・ミルクは全く動じずに振り向いた。


「おめえ、何処っから入ってきたんだべ?」青のツナギを着た老人が突っ立っていた。老人はバケツを右手に持っていて左手にモップを持っていた。ツナギに名札があった。『フクラハギさとし』と書かれてあった。老人の掛けている丸眼鏡を鼻先まで落ちていて顎の所にサビオが貼られていた。サビオは通な人には判る製品名に属すとだけ言っておく。


キャプテン・ミルクは持っていたバッテラを後ろに隠すと心の声による『空間片隅KISS』という非常事態になった時に使える魔法を唱えた。


『空間片隅KISS』とは空中を利用したバッグみたいな魔法なのだ。つまり、空をバッグ代わりにして空に物を保管したり、空に物を埋めたり、空に物を飾ったり、空に貼ったりできるという超高度な魔法なのだ。好きなだけ保管できるのだ。キャプテン・ミルクはムササビ・ジュニア号を取り抜けてバッテラを空に保管した。


「あんた、誰だい?」フクラハギさとしは言った。


「ア、アルバイトの面接に来ました」とキャプテン・ミルクは思わず言った。


「あっ、ひょっして、あんたは卓也くん? ヘルニア卓也くんかい? 皿洗いの面接に来た? ヘルニア卓也くん? なっ、ヘルニア卓也くんだなっ?」


「そ、そうです。はじめまして。ヘルニア卓也です」


「あーっ、そうだったのか。ごめんね、怒鳴ったりしちゃってさ。ワシはね、ムササビ・ジュニア号に勤務している用務員のおじさん兼、料理人兼、保健室でも働いているし、この宇宙船のメンテナンスも担当するフクラハギさとしです。はじめまして。ここの宇宙船のね責任者の代理を任されていてね、アルバイトの面接もしてんのよ」とフクラハギさとしは右足の脹ら脛を擦りながら言った。


「あっ、どうもです」とキャプテン・ミルクは言って頭を下げた。


「じゃあね、ここでなんだからね、今から用務員室に行って面接を開始します」とフクラハギさとしは言ってバケツの中にモップを入れると先を歩いた。


キャプテン・ミルクは黙ってついて行った。


フクラハギさとしは振り返ると「履歴書持ってきた?」と言った。


「いや、えっ?! 履歴書ですか?」


「履歴書忘れた?」


「すいません」


「履歴書を忘れたんなら忘れたんだから、もう忘れなさい。ただしだ、自分の経歴を忘れたらいかんよ。あへへへへ。君にも過去の栄光があったなら過去の栄光にすがりなさいよ。過去の栄光にしがみつくのも悪くない。人生というのは思い出を大切にしないとさ」とフクラハギさとしは言うと歩き出した。


キャプテン・ミルクは唇を噛み締めながら歩いた。


「用務員に履歴書があるからさ、そこで改めて履歴書を書き直してよ」とフクラハギさとしは言った。


「誰にだって忘れ物のひとつやふたつはあるからね。ワシなんかさ、若い頃にさ、物干し竿のアルバイトの面接でさ、上だけ背広で下はミニスカートだったことがあるんだよ。あへへへへ。なんかスースーするなぁとは思っていたんだけどもね、遅刻しそうで急いでいたからね。全速力で走っていたんだよ。そしたらよう、周りにいた若い女たちがさ、今となってはアレは怪訝な目でワシを見ていたんだよな、ワシはそれを勘違いしちゃってさ、自意識過剰でさ、決め顔してさ、自分はモテているんだなと思ってやんの。参るよね。あへへへへ。アホすぎるよだねぇ」


「フクラハギさとしさん、下半身丸出しに近い状態だったんですか?」とキャプテン・ミルクは言った。


「いやいや、どちらかと言えば、ちょっと意味合いが違うかな」


「えっ?」


「比重としては結果的に馬鹿丸出しの方なのさ。下半身丸出しじゃないから。ちゃんとミニスカートを履いてるから。ミニスカートを履いただけなら、まだ自分を責めて反省を込めて耐えられるけれども、長い人生、馬鹿丸出しの方だとさ、結構耐えられないものだからさ。馬鹿丸出しは人生のレッテルになるだろう? 物干し竿の面接官はワシを『馬鹿丸出し』と言って面接で落とされたからね。馬鹿丸出しだと思う。ワシは馬鹿丸出しなんだと思う。いや、どう見ても馬鹿丸出しなんだと思うなぁ〜。あの日は暑かったからね、ミニスカートで過ごしてたんだ。それをスッカリ忘れてたワシはお馬鹿さん」とフクラハギさとしは言った。





 ☆続いちゃう☆






 挿絵(By みてみん)

 (作画 七海 糸様)


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