写真立て
(作画 ひだまりのねこ様
(作画 七海 糸様)
(作画 茂木多弥様)
マラカス貴子の体は震え上がり、歯がカチカチなって、背中に冷や汗、脂汗が流れ、動悸もしてきて立っているのがやっとの状態だった。足元がフラついて、目眩で視界がグルグルと回転し出してもきた。生理痛もあった。昨日から生理痛が始まっていたのだ。それでもマラカス貴子は黒電話の受話器を離さなかった。『離してたまるかよう』という思いがあった。何しろ10年だ。恐ろしく長い月日だ。かつてハープ・マサカズお爺ちゃんは家族に10年間コンタクトレンズを変えずに使用してきた実績を嬉しそうに自慢して話した事があった。『10年間という時間に何か縁があるのかもしれないな』とマラカス貴子は思った。
黒電話も黒電話だ。既に379回も鳴り響いていた。『しつこいにも程があるわよ。一体誰からなんだろう?』とマラカス貴子は思っていたが、黒電話の相手も『一体、いつになったら出てくれるのかな〜?』と思っているはずだ。
マラカス貴子の体がビクッと痙攣した。緊張からか体が強張っていたようだ。体が右に傾いて倒そうになったが椅子に掴まって持ち堪えた。それでもマラカス貴子は黒電話の受話器を握っていた。
『今の私って受話器は離せないし相手と話せないしで、てんてこ舞いになってるし。ちょちゅね、相手と話せないのに受話器を離したくない、この不思議な気持ちって一体何故なのかしら? いつもなら受話器なんて取らずに見ているだけだったのにさ。お願い、もう諦めてくださいよ。黒電話よ、もう鳴らないで。もうさ、やめてけれ、やめてけれよ。私は、まだ箱入り娘なんです。男を知らないピュアな売れないアイドルなんです。必死になって乙女を守ってきたんです。女の子の操をガードしてきたの。カテナチオみたいにさ。「あなたに仕事をあげるよ。その前に、ほら、ラブホテルのホテル・カルフォルニアの7962号室のキーだよ。一緒に熱い夜を過ごそうよ。グヘヘへ」とプロデューサーの汚らしいジジイから言い寄られても乙女を守ってきたんです。私は汚いジジイに抱かれてまで有名になりたいとは思いませんでっす!! 私は汚いジジイの顔に防犯スプレーをぶっ掛けてめちゃめちゃフカしまくり、股間を蹴り上げたら、うずくまってしまった。私は急いでテレパシーで初恋だった不良の友達のレッド・ジャケット・滋味くんに連絡をしたら、なんとモノの3分で彼が来てくれちゃった。私は少し胸がキュンとしちゃったわ。レッド・ジャケット・滋味くん、くわえタバコの煙に目を細めながら、プロデューサーの汚いジジイのスボンとパンツを脱がすとアソコに『これこそ俺のソーセージです。俺のソーセージはウィンナーではない』とレーザー光線銃で入れ墨みたいに書いてくれちゃったんだぁ〜。レッド・ジャケット・滋味くんは汚いジジイをうつ伏せにしてね、背中にも『14月57日。晴れ。今日から夏休みだーい。僕ちゃん、早速、朝顔にエサをやりました。朝顔のエサは汚染水です。何だか急激にウンコがしたくなってきちゃったなぁ〜。本当はね、今日から冬休みでした〜。テヘヘヘヘ』と同じくレーザー光線銃で背中にも彫っちゃってた。レッド・ジャケット・滋味くん、『このレーザー光線銃、イカすだろ。絶対に消せないから』とタバコの煙を吐くと『今から何処かに行こうか。表に俺のバイクが停めてある。マラカス貴子、行こうぜ』と言ってね、レッド・ジャケット・滋味くんは私の手を引っ張ったの。ムフフフフ。二人で夜の海を見に行ったんだぁ〜。レッド・ジャケット・滋味くんは私に手を触れなかったわ。彼ってジェントルマンなのよ。私は黙っていた。彼も海を見つめて黙っていた。夜の潮風ってね、とても切ないのよね。私は胸がドキドキしちゃってた。たぶんね、たぶん、レッド・ジャケット・滋味くんもドキドキしていたと思う。私は静かに涙が出ちゃってた。『マラカス貴子、そろそろ帰ろう。今度からは気を付けろよ』と言ってね、私の頭を優しく撫でてくれた。『大変な仕事だよな。また何かクソ野郎に言い寄られたら、俺を呼びな。いつでも助けに来るからな』と私の初恋、レッド・ジャケット・滋味くんは言ってね、優しくおでこにキスしてくれたんだよ。『うん』としか私は言えなかった。帰りの彼のバイクで彼の背中にしがみついて乗っていた時、私は心の中で『好き……』って何度も言ってた……。レッド・ジャケット・滋味くんはね、彼はね、彼は……、今から3年前にね……、バイクの事故で亡くなっちゃった。私は涙が枯果てるまで泣いたわ。もう私には涙なんか一滴も残っていないの』とマラカス貴子は初恋のレッド・ジャケット・滋味くんを思い出して黒電話の受話器を握りしめたまま床に座り込んでしまった。
「レッド・ジャケット・滋味くん……。お願い、返事をして……」とマラカス貴子は机に飾っているレッド・ジャケット・滋味くんの写真立てを見て呟いた。
☆切ないけど続いちゃう☆
(作画 七海 糸様)
マラカス貴子、そんな悲恋があったとは……。




