訳の無い混乱最中に立ち合いまして
「豆子、天井に背を向けてくっ付くぞ!」とトムは言って豆子の手を握ると背面で宙に浮かび上がり、そのまま天井側に背を向けてくっ付いた。
扉の後ろから慌ただしく階段を駆け下りてくる足音が響いてくる。階段は100段もあるのだ。地下に着くのに幾らかのタイムラグがあるから妙に間延びして足音が聞こえてきた。
「ランニング巾着沈棒様! ランニング巾着沈棒様ーっ!!」と怒号に近い呼び声が響き渡った。
「ランニング巾着沈棒様! ランニング巾着沈棒様ーっ! どうなされたので御座いますかーぁっ!! 大丈夫ですかーぁっ? 私の声が聞こえますかーぁっ? ランニング巾着沈棒ーっ!!」男の悲痛な呼び掛けだった。
「ランニング巾着沈棒様!! お気を確かに!! どうされましたか? ちょっと脈を取らせて頂きます」と激しく動揺した声の後に沈黙が続いた。
「あーっ、脈がない! 心音も呼吸もない! し、し、し、死んでる!!」男は絶叫した。
「はぁ、はぁ、はぁ、あっ、恐れ入ります。私、泡武良みどりです。えっ? 女? いやいや、みどりという名前ですが男です。河川敷マラミラ隊長は居ますか? はい、待ってます」泡武良みどりは呼吸を乱しながら大声で誰かに話していた。これだけ声が筒抜けだと扉が薄っぺらすぎるというのが分かった。
「あっ、河川敷マラミラ隊長ですか? 泡武良みどりです。河川敷マラミラ隊長、大変です! 食事の時間だったので白ピーマン基地にある地下室に行きましたら、ランニング巾着沈棒が階段の下で死んでいました。首が折れているみたいです。えっ、死亡推定時刻? 分かりませんが、まだ体が温かいです。えっ、今から河川敷マラミラ隊長がこちらに来てくださる? はい分かりました。待っています。あっ、私の携帯黒電話はですね、支払い料金を滞納しているので、あと1時間ほどで黒電話会社から止められてしまいます。なるべく早めに連絡下さい。すみません。はい、ちゃんと支払いに行ってきます。あっ、はい、待っています」泡武良みどりは話を終えると扉を開けて中に入ってきた。
「まさかランニング巾着沈棒様が死んだなんて。足を踏み外したんだろうな。情けない死に方だな。遺体はあのまま階段の下でいいのだろうか? マズイよな。どうしたら良いのやら」と泡武良みどりは言いながら部屋の中をグルグル回り続けていた。
トムと豆子は天井から泡武良みどりを見ていた。
「何だか人の気配があるような」と泡武良みどりは言って階段の下で死んでいるランニング巾着沈棒を見た。
「やっぱり死んでいるな」と泡武良みどりは悲しい声を出しながら手を合わせた。
慌ただしく白ピーマン基地の100段階段を駆け下りてくる音がしたと思ったら、直ぐに地下に着くと叫び声が聞こえてきた。
「ランニング巾着沈様!! ランニング巾着沈棒様!! おい、起きろバカヤロー、ハゲ!!」と死んでいるランニング巾着沈棒を揺すり続ける男の姿が見えた。
「河川敷マラミラ隊長、その辺で止めておきましょう。ランニング巾着沈棒様は死んでしまったのです」と泡武良みどりは言って河川敷マラミラ隊長の肩に手を置いた。
「何故、こんなことに。我輩の上官であるランニング巾着沈棒様が死ぬなんて!! 私を助けてくれた偉大な先輩」河川敷マラミラ隊長は悲観にくれながら部屋に入ってきた。
「泡武良みどり、ランニング巾着沈棒様の遺体を動かしていないな」
「はい。動かしていません」
「後で現場検証するためにジャム将軍専用の個人軍隊『informationヤッタリヤス隊』が来るから」
「はい。分かりました」
「泡武良みどり、お前がランニング巾着沈棒様を殺したんだろう?」河川敷マラミラ隊長は泡武良みどりに殴る真似をしながら言った。
「なんて事を! するわけないじゃないですか! 言い掛かりは止めてください!」
「いや、お前が殺したんだ!!」河川敷マラミラ隊長は泡武良みどりを殴り倒した。
「止めてください!」と泡武良みどりは怒鳴って立ち上がった。
「おい、誰が立ち上がって良いと言った? この野郎!! ふさげんな!!」と河川敷マラミラ隊長は怒鳴って、また泡武良みどりを殴り倒した。
「河川敷マラミラ隊長、止めてください! 止めてください!」
河川敷マラミラ隊長は倒れている泡武良みどりに股がってお腹に蹴りを入れた。
「グワッ、く、苦しい!」と泡武良みどりはか細い声で言うと床をのたうち回った。
「この野郎!! 泡武良みどりめ、お前がランニング巾着沈棒様を殺ったのは間違いないんだ!!」と河川敷マラミラ隊長は怒鳴って泡武良みどりの後頭部を蹴った。
泡武良みどりはうめき声をあげると口から血を吐いた。
「立てよ、泡武良みどり!!」と河川敷マラミラ隊長が無理矢理立たせると泡武良みどりの頬をビンタした。
「3流芸人並みのリアクションがオーバーなんだよ!! この野郎!!」と河川敷マラミラ隊長は泡武良みどりの耳元で怒鳴った。
「耳が痛い!! 止めてください、お願いします。止めてください!!」力なく立っている泡武良みどりは意識を失いそうになっていた。
「お前がランニング巾着沈棒様を殺したんだろう?」河川敷マラミラ隊長は激しく泡武良みどりを揺さぶった。
「違います、違います、止めてください!!」
「嘘つくな!!」河川敷マラミラ隊長は泡武良みどりのお腹を殴った。
「違います、違います」
「この野郎!! 白状しろ!! 殺人鬼めが!!」河川敷マラミラ隊長は泡武良みどりの首を締めた。
「苦しい、ち、違います、ち、違います!!」
「この野郎!! ナメやがってよ!! お前が殺したんだろう?」
「違います、違います。でも何となく」
「でも何となく、で、なんだ!?」
「河川敷マラミラ隊長、何だか自分がよく分からないです」
「お前だ、お前だ、お前だ、お前だ!! お前がランニング巾着沈棒様を殺した殺人鬼だ!!」河川敷マラミラ隊長は泡武良みどりの顎を強く殴った。泡武良みどりはしゃがみ込んでしまった。
「痛い、苦しい!! はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。は、は、は、はい。私が、私が、私なんですよね? 私がランニング巾着沈棒様を殺しました。いやいや違います、違います!! 分からないです」と泡武良みどりは混濁する意識の中で言ってしまった。
「もう一度聞く。泡武良みどり容疑者よ、お前がランニング巾着沈棒様を殺したのだ!!」
「は、はい、私がやりました。いやいや、でもねでもさ」
「本当だな?」
「は、はい。すみません。河川敷マラミラ隊長ごめんなさい。私がランニング巾着沈棒様を殺したんです。殺したんだと思います。殺すつもりはなかったんですが、殺しのかもしれないです。いやいや私がやりました! 私かな? ウフッ。私が殺したんだと思いますね!! 私だ、私だ、私だ、私が殺したんだーっ!! 私がやりましたーっ!! イエーイ!! ギャハハハハ!! お母さん、ごめんなさい!! 貴方の息子は悪い子ちゃんでーす!!」と泡武良みどりは、とち狂ったように泣きながら絶叫自白をした。
「どうやってランニング巾着沈棒様を殺したのか言え!!」
「分かりません」
「何だと!? ナメてんのか!」
「河川敷マラミラ隊長、すみません、すみません。私がランニング巾着沈棒様を殺したんです。私がやりました。私が、私が、私が殺したんですー!!」と泡武良みどりは叫ぶと意識を失ってしまった。
☆続いちゃうよお☆




