沈黙の会話
キャプテン・ミルクは黒電話を取った。
「はい、もしもし。御電話どうもありがとうございます。安らぎと癒しのゆきあかり……」
「黙れ! あひゃひゃひゃひゃ。そんな茶番は止めろ。貴様はキャプテン・ミルクだよな。ふざけた真似ばかりしやがってよ!」ランニング巾着沈坊は薄気味悪い話し方になっていた。
「何の用だ? ランニング巾着沈坊とやらよ」
「キャプテン・ミルクよ、お前の仲間にエンゼルという男がいるよな?」
「エンゼル? 知らない」
「あひゃひゃひゃひゃ。嘘を言うな! ルナーアスの洞窟でエンゼルとテレパシッただろうがよ!」
「エンゼルなんて男とテレパシーなんかしていない」
「じゃあコイツは一体誰なんだよ? おい貴様、電話に出ろ!!」キャプテン・ミルクは耳を澄ませた。受話器の向こう側で体を地面に引きずるような強く擦れた音が聞こえてきた。
「ほら、エンゼル、受話器を持てよ。早く持て! この野郎!」キャプテン・ミルクは気持ちを堪えた。受話器から肉体を殴り付ける重々しく鈍い音が聞こえてきた。
「も、もひ、もひ?」
「誰だ?」
「えんせるれす」
「えっ!?」
「(キャプテン・ミルク、受話器越しから内発声テレパシーを送ります。トムです。早口で話します。キャプテン・ミルク、すみません。油断してしまいました。ルナーアスの洞窟にある洞窟用のトイレでキャプテン・ミルクにテレパシーを送った直後にランニング巾着沈坊に襲われてしまいました。顔は腫れ上がっているし、歯も5本折られました。歯が折れているので話しにくいです。上半身全体が痺れています。体が麻痺したみたいに痺れています。ここが何処かは分かりません。地下のような気がします。部屋の中は異常に暑いです。喉が渇いていて今すぐ水が欲しいです。水が飲みたい。天井にある小さなランプが点滅していて不安定な状態なので、ここの大きさが分からないです。両目の瞼が腫れていて目が見えにくいです。耳鳴りが酷いです。キーンという高音の耳鳴りがしています。上半身の痺れが気持ち悪い。ちくしょう、痺れを止めてくれ。腕と足には手錠と鎖がはめられています。口の中が切れていて血が止まりません。目覚めたらここにいた事に気付いたので、ルナーアスの洞窟、または、安らぎと癒しのゆきあかり@温泉旅館からどれだけ離れた位置に自分がいるのかは全く分からないです。とにかく水が欲しい。キャプテン・ミルク、助けてください)」
「おい、エンゼル、挨拶だけかい? 他に何か話せよ! 黙ってないでキャプテン・ミルクに何か話せよ! 助けを乞えよ! あひゃひゃひゃひゃ。ほら、これをくれてやる」ランニング巾着沈坊は注射器を出して薬を入れるとトムの肩に射した。
「(キャプテン・ミルク、今、肩に注射器で何か打たれました。寒い、急に寒くなってきた。動悸がしています。キャプテン・ミルク、気持ち悪いです。動悸が止まらない。胸が苦しくなってきました。キャプテン・ミルク、怖いです)」
「あひゃひゃひゃひゃ。エンゼル、この薬はなぁ、シビアな薬だ。あと50分でお前は意識不明に陥る。あひゃひゃひゃひゃ。楽しみだな。あひゃひゃひゃひゃ」ランニング巾着沈坊は受話器を取ろうとした瞬間、トムは「(キャプテン・ミルク、今までどうもありがとうございました。御世話になりました。皆に宜しく伝えてください。死ぬ前にSugar桜子ちゃんと結婚してSugar桜子ちゃんにキスしたかったです)」
「(トム、『居場所通信サービス・システム・M3・フリー・厳密・局地的・テクニカル・メカニズム』がトムの左手の小指の爪に装着されているはずだ。確認してから直ぐに起動させろ)」キャプテン・ミルクは万が一の時ために、仲間たちが危機的状況に陥った場合いを考えて、この『居場所通信サービス・システム・M3・フリー・厳密・局地的・テクニカル・メカニズム』を装着するように義務づけていた。これさえあれば物の2秒で居場所が確実に分かるのだ。
「(さすがキャプテン・ミルク! すっかり『居場所通信サービス・システム・M3・フリー・厳密・局地的・テクニカル・メカニズム』の存在を忘れていました。確認してみます。……。キャプテン・ミルク、今、左手の小指を見ようとしたけれども、目が腫れていて見えません。ググッ)」トムのテレパシーは泣き声になっていた。
「(焦るなトム。左手の小指を鼻の穴に入れてみろ。鼻の穴と小指の爪に違和感があれば『居場所通信サービス・システム・M3・フリー・厳密・局地的・テクニカル・メカニズム』が間違いなく装着されている事が分かるはずだ。早く小指を鼻の穴に入れろ)」キャプテン・ミルクは冷静沈着に対応をしていたが、キャプテン・ミルクが冷静沈着になった場合の多くは敵に対して相当にブチキレているということの証明でもあるのだった。
「(キャプテン・ミルク、鼻の穴と左手の小指の爪に違和感ありです! 『居場所通信サービス・システム・M3・フリー・厳密・局地的・テクニカル・メカニズム』を確認しました。初めて起動させることになりますが、どうすれば良いですか?)」
「(軽く触れてから『ここは何処? 私はトム』と『居場所通信サービス・システム・M3・フリー・厳密・局地的・テクニカル・メカニズム』にテレパシーを送れば完了だ。ここで、一旦、俺とトムの内発声テレパシーは終了させるぞ。トム、とりあえず、ランニング巾着沈坊に受話器を返せ。トム、頑張るんだぞ!)」
「おいおい、エンゼルくんよ、早く受話器を返せよ、いつまで耳に当てているんだよ! 全くよ、あひゃひゃひゃひゃ。受話器を耳に当てたまま、ずっと無言なんて、まず有り得ないね。あひゃひゃひゃひゃ。ほら、受話器をよこせ!」ランニング巾着沈坊は受話器を取った。
「あひゃひゃひゃひゃ。エンゼルくんはキャプテン・ミルクと話したくないんだってよー。あひゃひゃひゃひゃ。エンゼルくんはキャプテン・ミルクの仲間なのかい?」
「ランニング巾着沈坊よ」とキャプテン・ミルクは言った。
「何だ? キャプテン・ミルク?」
「死ね」とキャプテン・ミルクは言って一方的に黒電話を切った。
キャプテン・ミルクは旅館を出るとファンタジー・ドラゴン号に向かった。
☆続いちゃう☆
執筆ハイペースです。疲労困憊ハイペースなり。読んでくれてありがとうございました!
おやすみなさい✨