朝靄
トムは洞窟用のトイレに行くと直ぐにキャプテン・ミルクにテレパシーを送った。
「キャプテン・ミルク、今からランニング巾着沈坊を連れていきます」
「よくやった。油断はするなよ」
「分かっています。怪しげな小太りの宇宙人がランニング巾着沈坊と接触していました」
「トム、まだソイツはいるのか?」
「いるかどうか分かりません」
「念のためにも、その小太りの宇宙人をマークしろ。出来れば一緒に連れてこい」
「分かりました」
「トム、どれくらいで戻れるんだ?」
「怪しまれないように少しばかり時間を掛けてもよろしいでしょうか?」
「分かった。くれぐれも気を付けてくれよ」
「はい、キャプテン・ミルク」
トムはテレパシーを終えて振り返り、入り口に行こうとしたら肩を叩かれて飛び上がった。
「誰だ?」トムは後ずさるように動いて確認するとランニング巾着沈坊が笑いながら立っていた。
「ああ、ビックリした、ランニング巾着沈坊さん、驚かさないでくださいよ」
ランニング巾着沈坊はニヤニヤしながらトムを見ていた。
「さあ、行きましょうか」トムは洞窟用のトイレから出ようとした。
「行くって何処に行くの?」ランニング巾着沈坊はトムの肩を強く掴むと壁を目掛けて突き飛ばした。
「グッ」トムは背中を強く打ち上半身全体が痺れた状態になってしまった。
「何をするんですか! こ、声が」トムは喉にも異変が出てきた。あまりの痛さに喋るのも辛かった。
「今、誰とテレパシーで話していた?」ランニング巾着沈坊はトムの顔を殴り続けた。トムは反撃をしたいのだが上半身全体の痺れにより動かすのも儘ならない。
「だ、誰とも話していないですよ」トムはランニング巾着沈坊の激しいパンチを防げずにいた。顔全体が変形して、みるみると腫れ上がっていく。歯も5本が折れたようだ。
「ずいぶんと騙してくれたよな。まさかキャプテン・ミルクの仲間だとはな!」ランニング巾着沈坊はニヤニヤしながらトムを殴り続けた。トムは完全に意識が飛んでいて危険な状態になってしまった。
「バイブレータもっちゃんからの連絡が途絶えた。貴様が絡んでいるんだろう?」ランニング巾着沈坊はトムの頭を石で殴り続けた後に血まみれの口を抉じ開けると持っていたレーザービーム銃を突っ込み引き金を引いた。
「うん!? 運の良い奴め! クソッ!!」ランニング巾着沈坊のレーザービーム銃はレーザーエネルギーがゼロになっていた。レーザービーム切れだった。
「昨日、動物をハンティングしまくったからな。あひゃひゃひゃひゃ」とランニング巾着沈坊は言ってトムを肩に担ぐとルナーアスの洞窟から出ていった。
安らぎと癒しのゆきあかり@温泉旅館にいるキャプテン・ミルクはトムからのテレパシーを2時間も待ち続けていた。
椎名・ミッシェル・ローズ・ユズキはソファーで眠っていた。
不確実性に包まれた朝靄の中に紛れ込んだ怪しい気配が、時間をスライスしていくような無機質な冷酷と共に研ぎ澄まされた悲しみの色に満たされた天使の嘆きがキャプテン・ミルクの脳裏に木霊の如く反響を繰り返していた。
何度もキャプテン・ミルクからトムにテレパシーを送ってみたのだか返信はなかった。
キャプテン・ミルクは極めて深刻な事態にあるトムの行方について、並々ならぬ推理力と想像力と思考速度の回転を上昇させることを決意した。
まずキャプテン・ミルクはトムの命の行方を重点に取り掛かる事にした。
トムの最後のテレパシーはルナーアスの洞窟にある洞窟用トイレからだ。その後に何らかの緊急事態が発生した。つまりトムは油断をしたということだ。トムは油断しやすい。そこが難だが腕の立つ一流の攻撃型魔法使いでもある。キャプテン・ミルクはそこを買っているから自信を持ってトムを前線に送り込んできたのだ。今回も上手くいくはずだった。
『一体、トムに何が起こったのだろう?』キャプテン・ミルクは自ら動くしかないと思い始めた時にフロントにある黒電話が鳴った。
☆続いちゃう☆