ルナーアスの洞窟にて
「おい、トム。今からルナーアスの洞窟に向かえ。ランニング巾着沈坊が潜伏している。生きて捕まえてこい」キャプテン・ミルクはテレパシーを使ってトムに連絡をした。
「はい、キャプテン・ミルク。生きて捕まえてきますが、ボコボコにしても良いですか?」トムは月山コリーと並んで喧嘩が強くて腕っ節もヤバすぎるタイプのワイルド系な男だが、キャプテン・ミルクの信頼が厚い男でもあるのだ。
「トム、メッ! それはダメだい!」
「はい、了解しました」
トムはキャプテン・ミルクからのテレパシーを終えるとルナーアスの洞窟に向かって空を飛んだ。
混浴温泉惑星にあるルナーアスの洞窟は湯治の発祥地であり湯痔のメッカでもあるのだ。良い場所がメッカっちゃったという事なのでありますな。体全体を癒す効果が高い温泉のある洞窟でして、中でも頭痛、歯痛、前立腺肥大、関節痛、腰痛、膠原病、鬱病、生理痛、痔等を癒す確率がヤケに高いという結果が出てからはね、大宇宙にいらっしゃる全ての病人や痔主が憧れ目指す場所と言われているそうな。
(ここで説明しよう。長年、湯治をしているという349歳になったばかりの偉大な人生の先輩、ルナーアスの洞窟の常連中の常連、柑橘タマスカポンスケ社長さんにお話を伺った時の模様を御伝えします。柑橘タマスカポンスケ社長は温泉愛好家だ。
「たまたまだぁ、たまたま俺が働き詰めで痔を悪くしてよう、病院嫌いの俺がよう、たまたまだぁ、たまたま新聞紙で見たルナーアスの洞窟についての記事を見てよう、『よし! 混浴温泉惑星に行ってみるべか? 必ず痔を治したるでよ!』と、たまたま思ったに過ぎないだけだべよ。痔の出血多量で貧血起こしたりしていたからね。常に輸血=痔の出血=貧血=倒れる=輸血の繰り返しだったからね。
たまたまよう、連休があったからよう、家の家内と一緒によう、『自家用ファイティングロケット・SEVENパンツイーノ第3宇宙船』に乗ってよう、たった1700億キロの近距離にある混浴温泉惑星に行ったんだあ。ルナーアスの洞窟に着いたらよう、めちゃめちゃ混んでてな『帰りたいけど帰るには惜しいから帰りたくないかもね』という感じを維持しながら我慢して5日間並んで痔の治療を受けてきたんだあ。治療はよう、洞窟にある温泉に浸かるだけなのさ。湯船が48℃~49℃もあってさ、めちゃめちゃ熱いのさ。確か『癒し系魔法がたっぷり含まれている激熱湯ルナーアス』という痔専門の癒し系の魔法が注がれている湯船だったかなあ。ちなみによう、ルナーアスの洞窟はさ、最初は『ヘルス・カナ・ラ・ズ・ア・ナー・ル・オ・ナオスカラネ洞窟』という名前だったらしいよう。簡単に痔を直ぐに治す温泉だからね。もちろん、俺の痔は1発で治ったよ。痔が再発したらルナーアスの洞窟へようこそ、痔が悪化したらルナーアスの洞窟へようこそ、ってな動きを183年間も繰り返し続けているんだわ。完璧に痔を治しきってないのは仕事のせいさ。俺は大宇宙建築株式会社タマスカポンスケの社長なんだよねぇ~。めちゃめちゃ忙しいんだわ。社員が2万8000人もいる大所帯だよ。大宇宙にある全ての惑星で色々と建築しちゃってるからね。休むに休めなくて349歳になりましたとさ。チャンチャン♪ってな感じでお粗末様でした」と柑橘タマスカポンスケ社長がルナーアスの洞窟にある癒しの温泉『癒し系魔法がたっぷり含まれている激熱湯ルナーアス』のお墨付きをお話をくださった時の貴重なインタビューでした。
余談ですが、柑橘タマスカポンスケ社長の夫人も痔主でしたが今では回復しているそうです)
トムはルナーアスの洞窟に着く大行列に驚いた。脳髄に来る硫黄の匂いに胸がキュンとしたが、行列に並ぶ疲れきった宇宙人の暗い顔付きに釘付けになってしまった。
「凄い並んでいるな」とトムは呟いてルナーアスの洞窟の中へ入ろうとした。
「おいコラ! 後ろに並べ! 鼻くそ野郎!」とキツイ怒鳴り声が行列から聞こえてきた。
「あはっ、こりゃ、す、すみません」とトムは言って、後ろに並ぼうとしたが、どこまで並んでいるのか分からなくて戸惑ってしまった。
トムは歩いた。
歩いて歩いて
歩いて歩いた。
休みながら歩いた。
歩いて歩いて
休んで歩いた。
1キロほど歩くとようやく後列に辿り着いた。
後列の側にメガネを掛けたおじさんが白い看板を上げて突っ立っていた。白い看板には『ここが行列の最後です。速やかに大人しく並んでちょうだいよね』と油絵の赤い絵の具で文字が書かれていた。白い看板おじさんは無表情だった。
トムは黙って後ろに並んだが『早くランニング巾着沈坊を捕まえないとマズイな』と思っていた。
トムは仕方なく後列に並んで様子を見ることにした。ちなみにトムは痔主ではない。野菜を多く食べるタイプの男なのでクリーンなのだ。魚、野菜、果物をよく食べちゃうのだ。
『痔なんて手術で直ぐに治せるのにな。だがな、手術に失敗した例も中にはあるから判断が難しい所だよな』とトムは考えながら前に並んでいる男性のお尻を見た。男性のお尻は真っ赤に染まっていた。出血で染み出てきたようだ。
トムは目を閉じるとやるせない気持ちになってしまった。
『たかが痔、されど痔、という事だな。ちくしょう、痔のバカヤロー、痔のコンニャロー、俺たちの夢を痔に奪われてたまるかよ! 痔よ、我々は負けない! 痔なんて大嫌いさ!』とトムは思いながらせつなく歯を食い縛った。
「ワア~、ワア~!!」
前から騒ぎ声が聞こえてきた。
「なんだなんだ、どうした?」トムは顔だけ列から離れて前の方を覗き見た。
白い看板を持ったおじさんが慌てて前の方に走り出した。
白い看板を持ったおじさんは争いを止めようとしたら殴られたようで横にぶっ飛んでしまった。
ざわめきと悲鳴が辺りに響き渡った。
☆続いちゃう☆