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森のパスタ屋さん外伝  作者: おあしす
1/6

1話 巨大なハチ

スズメのさえずりが聞こえる穏やかな朝。

<森のパスタ屋さん>と書かれた看板のある店の裏側にある家の庭で、髪を後で束ね、両手で何本かワインのビンを持った男がいた。

男は庭の風景の穏やかさに負けずとも劣らずといった感じののんびりとした声でつぶやいた。

「あ~イイ天気だな~。こんな日はひなたぼっこだよなぁ。」

軽く手を上げて伸びなんかもしてみる男に声がかかる。

「こじろー。こんにゃトコでサボってていいのかにゃ?」

ツッコミに反応して高山小次郎は振り返った。

その視線の先には男でも女でもなく一匹の黒猫がいた。

「おう、ルリ。おはよう」

「おはようじゃニャいニャ。こじろーはもう少し早く起きた方がいいニャ。」

あきれたといった表情で黒猫のルリが言う。

その言葉に苦笑を浮かべながら少々キザっぽい口調で、軽くポーズまでつけて言い返す。

「最近依頼がないからな。ちょっと気が抜けてるだけさ。」

「こじろーが気が抜けてるのはいつもの事にゃ。」

冷ややかな視線つきでルリにそう言い返されてポーズのまま固まる小次郎。

「まあこじろーの朝寝坊はどうせ治らないから今はいいにゃ。そんな事より、こんにゃトコでサボってていいのかにゃ?」

「いいんだよ。どうせ今は開店前だし、ほら、こうやって仕事もしてるだろ?」

そう言って両手のワインのビンをルリに見せる小次郎。彼は今ワインを店から倉庫にしまいに行く途中なのだ。

「そんニャ事言って、こんなトコでボ~としてる時点でサボろうとしてるのがバレバレにゃ。涼介に見つかったら怒られるニャ。」

ルリが言う涼介とは小次郎も働くパスタ屋<森のパスタ屋さん>の店長兼料理長の大下涼介の事だ。

「いやそんな事は断じて無いし、大体涼介は・・・」

等とルリに言い訳をしようとした途端、小次郎の背後から噂の涼介の怒声が響き渡った。

「くぅおらぁぁぁああぁぁぁ!!!小次郎!!!どこいったぁぁぁっ!!働けぇっ~~~!!!」

「ひぃっ、涼介!?ご、ごめんなさい!」

ビクつきながら反射的に謝って、振り返ろうとした小次郎の手からワインのビンが3本こぼれ落ちた。

「あ・・・」

小次郎と後ろから現れた涼介が同時にそう言ってる間にもビンは落下。そして地面に落ちると共にパリンと割れた。

しばし二人と一匹の間に沈黙が流れた後、ゆっくりと涼介の右手が懐に滑り込み、引き抜かれたその手にはフライパンが握られていた。

そのフライパンを振り上げ、涼介の先ほどよりも大きな怒声と共にそれは振り下ろされた。

「この、ド阿呆がぁっ!!」

迷い無く振り下ろされたフライパンは黒き閃光となって小次郎の脳天に直撃、小次郎を沈黙させた。



小次郎が涼介のフライパンの制裁を受けた数時間後。

<森のパスタ屋さん>と同じ商店街の一角にあるお店で電話が鳴った。

「はい、スズキモータースです。はい?あっ、少々お待ちください。店長!・・・じゃなかった、局長~!」

バイトの青年が電話に出るが、すぐに店長を呼ぶ。

奥にいた白いツナギに黒いゴーグル、無精ひげを生やしたいかにもガンコそうなオヤジがゆったりとした足取りで出てきた。

彼の名前は鈴木源太。皆からゲンじぃの愛称で親しまれている。

モーターショップ<スズキモータース>の店長であり、<ハンターオフィス スズキ>の局長でもある。

「んあ?ハントの依頼か?」

「はい、そうですよ」

それを聞くとくわえていたタバコを近くにあった灰皿でもみ消し、青年から受話器を受け取る。

「よ、っと。あー、もしもし・・・」

ゲンじぃは表情をやや鋭くしながらしばらく会話を続けた。



森のパスタ屋さんは昼時を迎え店内は大忙し。そんな中電話が鳴った。

「もしもし。森のパスタ屋さんだにゃ」

営業中は電話番をしているルリが電話に出た。何故、ネコであるルリが電話に出られるのか。答えはシンプル。専用インカムを小次郎と涼介が制作したからである。

「おう、俺だ。ゲンだ。小次郎はいるか?」

「ちょっと待つにゃ」

ルリは慣れた様子で小次郎を呼びに行く。

「コジロー、電話。ゲンジジィだにゃ」

「分かった。すぐ出る」

ウェイターをやっていた小次郎は厨房の涼介に一声かけてから電話に出た。

「もしもし」

「小次郎、仕事だ」

「ん。で、今回のターゲットは何だ?」

「ハチだとよ。超巨大なスズメバチ」

その言葉を聞いた途端、それまで淡々と事務的に話していた小次郎の口調が変わる。

「え~~~。パス」

「なんでだよ?」

「俺、ハチ嫌い」

小次郎の答えが予想出来ていたのか、ゲンじぃは声音一つ変えずに続けた。

「あっそ。まぁ無理にとは言わん。他の奴に回せばいいだけの事だしな。ただなかなかいいギャラなんだが・・・」

いいギャラ―その言葉に小次郎が反応した。

「・・・いくらなんだ?」

「キャッシュで150万」

「行く行く!絶対行くっ!!いつ行けばいい?」

今までのやる気の無さはどこへやら。やる気満々の声でそう返す小次郎にゲンじぃは呆れながら、

「分かった分かった。まったく、現金なヤツめ。今夜資料を渡すから店に来い」

「了ー解ー」

そう言って小次郎は電話を切った。

「仕事か?」

涼介が小次郎に厨房から顔を出して聞いてきた。

「ああ、夜ちょっと出かける。はるかも連れてくぞ」

はるかとは涼介の義理の妹である大下はるかの事だ。

はるかの両親は涼介の両親と共に演奏家として活動していたが、海外へ同じ飛行機で移動中不幸にも事故に遭い2人とも亡くなってしまった。

特に身寄りもなかったはるかを涼介が『一緒に暮らさないか?』と誘い、はるかもそれを承諾し今に至る。

「はいはい。じゃあ、今は店の仕事をしろ」

「え~~~。仕事も入ったんだし休ませてくれても・・・」

「それとこれとは別だ。ウダウダ言わずに働け。」

「え~っ?安月給での重労働はんたーい。」

小次郎はブツブツと文句を言いながらもフロアに戻っていた。



その夜、小次郎ははるかと共に約束通りゲンじぃの店を訪れた。

「うぉ~い。来ーたぞ~」

「こんばんわ」

二人がそう声をかけると、店の奥からゲンじぃが出てきた。

「おぅ。まぁそこに座れ」

イスに座りながら、小次郎が催促する様に切り出した。

「で、資料ってのは?」

「ほれ。FAXで送られてきたやつ」

ゲンじぃは小次郎に紙を渡すとたばこをくわえて火をつけようとした。

「おいおいゲンじぃ、はるかやさくらの前ではたばこを吸うなって涼介に言われてるだろ?」

小次郎が資料を見ながらそれを慌てて注意する。

小次郎自身は別に構わないと思っているのだが、涼介はよしとしていない。むろん、パスタ店は完全禁煙である。

ちなみにさくらとは涼介の本当の妹の大下さくらの事だ。はるかと同い年で現在高校3年生、クラスは別だが同じ高校に通っている。

「涼介がいないんだしよ、バレやしないんだからいいだろ別に・・・」

ゲンじぃが不満そうにそう言うとはるかが

「あ、でも服とか髪ににおいがつくからバレちゃうよ?」

と言ったので、さすがのゲンじぃもしぶしぶたばこを吸うのを諦めた。

「お?結構近いな。これなら日帰りで行けそうだ」

「ホントに行くのー?わたしヤだよぉ、ハチなんてぇー」

小次郎が喜びの声をあげる一方、はるかが金色の髪を両手でいじりながら不満そうに声をあげる。

「俺だってあんまり好きじゃねえよ。でも今回は払いがいいんだ。がまん、がまん」

「払いがいいってどのくらい?今度は赤字にならない?」

不安そうにはるかが聞いた。何故かいつも二人のハントはわずかに赤字になってしまうのだ。

そんなはるかに小次郎は苦笑を浮かべながら言った。

「ならないならない。現金で150万だ」

「ホント!じゃあ早く行こう!」

赤字にならないと聞いてはるかが嬉しそうにそう言った。

「う~ん、明日は日曜で店が休みだし・・・。よし、涼介に運転させて明日行くか」

「え、ホント?やった~!兄さんと一緒!兄さんといっしょ~!!うふふふ~」

小次郎の言葉を聞き、はるかは先ほどよりももっと喜んで背中から小さな天使の羽根を出すと、辺りをパタパタと飛びはじめた。

そんなはるかを横目に見ながら今まで黙っていたゲンじぃが口を開いた。

「よっし、決まったようだな。じゃ後は任せた。俺は明日は将棋の大会に出るから行かんぞ」

「きゅ、急に年寄りくさくなりやがって。まぁ、いいよ。軽くひねってくる」

ゲンじぃに軽く呆れつつ、決意も新たに小次郎はそう言うのだった。



日曜の朝。パスタ屋の地下にあるガレージ内。ここには涼介のクルマ、バイクの他にハント用のトレーラー、

小次郎のための射撃訓練所と武器弾薬庫がある。

「おい小次郎。ハンドガンのマガジンはグロック22だけでいいのか?」

「ん~、他は作らないし・・・。あとは適当にマグナム弾があればそれでいいぞ。」

「じゃあ5、6本ぐらいでいいか。」

小次郎と涼介がトレーラーの前で確認し合いながら今日のハントの準備を進める。

「・・・それにしても火薬だけは作れない、ってのも微妙に不便だなぁ。」

涼介は何気ない口調で独り言の様に言ったのだが、小次郎の耳にはその言葉がはっきりと聞こえていた。

「仕方ないだろ?作れないものは作れないんだし。今は・・・な。」

どこか思い詰めた表情で言う小次郎に、つとめて涼介は明るい声で返した。

「まぁ、いいけどさ。で、他に持っていくものはないのか?」

「う~ん。奮発してロケットランチャーでもいくか!」

涼介が気を使ったのが分かったのだろう。小次郎もニヤリと笑いながらおどけた口調でそう言った。

「え~?でも高いよ、あの弾」

二人の手伝いに来たのだろう、はるかが横からそう言った。

「撃たなきゃゼロだ。それに、もしも、ってのがあるだろ?」

「もしも?」

「あまりにも堅すぎてお前が斬れない、とか。そんな時に困るだろ?」

「うっ。まぁ、そうね」

「よ~し積み込み完了。行くか」

はるかが小次郎の説明に納得している間に涼介が準備を終わらせ、小次郎がそう言った。

「じゃあさくら。行って来る。留守番頼むな」

涼介がガレージの入り口に立ってるさくらに声をかけた。

「うん、気をつけてね。はるかちゃん、無理しちゃダメだからね?」

涼介が運転席に着き、さくらに見送られながら小次郎達は出発した。



「で、今回はどうなんだ?」

涼介は運転しながら助手席に座る小次郎にそう聞いた。

「やっぱハチは恐いが、まぁ、何とかなるよ」

気楽そうに小次郎がそう答えた。

「結構でかいんだろ?刺されないように気をつけるこった」

「刺されるのはカンベンしてほしいなぁ。痛そうだし」

緊張感に欠ける小次郎が気になるのか、涼介はチラリと小次郎を見て何かを言おうとしたが、小次郎よりもさらに緊張感の無い声がそれを阻んだ。

「ねぇねぇ兄さ~ん。早く終わったらどこかに連れてって~♪」

涼介は軽くため息をついてから、切り替えて答えた。

「う~ん、まぁ時間次第だな」

涼介の答えにはるかが歓喜の声をあげる

「ホ、ホント!?やったぁ~!よ~し、がんばるぞー!ハチでもクマでも何でもこーい!!」

「お~お~、たのもしい限りで」

気合の入りまくっているはるかとは対照的に、イマイチやる気の見えない小次郎が、はるかの分かりやすいリアクションに呆れながらぼやくのだった。



とある山中。涼介が車を止めて降りてくる。

「資料によると、この辺なんだが・・・」

「木がわりと少ないね。ここなら闘いやすいよ」

はるかがまわりを見渡しながらそう言って車から降りてきた。

「とりあえず探すか。デカイハチっつってもせいぜい2~30cmぐらいだろ」

「それでも大きいよ~」

小次郎もはるかと言い合いながら車から降りてまわりを見渡した。

「まぁ、細かい事は気にしない。おい、涼介。双眼鏡くれ」

手をブラブラさせながら催促する。

しかし涼介はそれに答える事はなく、逆に驚きの声をあげる。

「な、なぁ、小次郎」

「なんだ?見つけたのか?」

「あ、あぁ。た、たぶん。ホラ、あれ」

驚きの表情のまま涼介が指さす。

小次郎とはるかが涼介の指さす方を見ると同じく驚きの表情になる。そこには2mを越えるハチが悠然と飛んでいた。

「で、でかっ!!!!」

「いいっ!?お、大きすぎだよ!」

「やっべ!こっちに気付いた!」

ゆったりと飛んでいたハチが急にスピードをあげて迫ってくる。

「近づいてきてるよ、こじろー!」

「うえっ?ひ、ひとまず逃げるぞ!トレーラーに乗るんだ!」

涼介はすばやく運転席に滑り込み、小次郎とはるかが荷台に乗ったのを確認すると、急発進する。

「お、追いかけてくるよ?」

「ま、普通そうだわな。なんか150万では割に合わない気がしてきた。」

涼介がぼやく様に言う間にもトレーラーとハチとの距離が縮まっていく。

「ちいっ!涼介!マガジンは!」

「黒いケースだ」

涼介の言葉に小次郎が素早く反応。黒いケースを見つけて開ける。

「あった!うっし!精製っ!」

小次郎がそう叫ぶ。すると両腕の肘から先が紫の光で覆われる。その腕を空間を切り裂くように振ると

同じ色に光る空間の裂け目が現れた。その中に右腕を差し込み、グロックの形をイメージする。

そこから一気に腕を引き抜くと、その手には小次郎の能力でつくり出された『本物の』グロックが握られていた。

これが小次郎の能力『クリエイト』-その名の通り、モノをつくり出す能力である。

その銃にケースから取り出したマガジンをセットして、ハチに向かって撃つ。

「くおのぉぉぉぉっ!!デカイだけの昆虫野郎がぁぁぁぁ!!」

次々と吐き出されていく銃弾。しかし一発も当たらない。

「小次郎のヘタクソ~~~。ちっとも当たらないじゃなぁぁぁい」

「うるせーっ!荷台からじゃ揺れが激しすぎてうまく撃てねぇーんだっ!」

「降りるか?」

「ああ」

あうんの呼吸で意見交換をした小次郎と涼介。涼介がトレーラーを岩場に止めると小次郎が荷台から飛び降りる。

「わたしも行く!兄さん、いつもの太刀は?」

「かどっこに掛けてないか?」

はるかが素早くトレーラーの中を見渡す。

「あった!いくよぉぉぉぉぉ!!」

太刀を手にとり一気にさやから引き抜くと、はるかも小次郎の後に続く。

小次郎が銃を撃つ横を駆け抜け、低空飛行をしながら追いかけてきていたハチに一気に肉薄する。そのタイミングに合わせて小次郎も銃を撃つのを止める。

「ええぃ!」

気合一閃。一気に振り下ろすが、ハチは急上昇してこれをかわす。

「空に逃げたからって、わたしからは逃げられないよ!」

はるかの背中から天使の羽が広がり、ハチを追いかけ舞い上がる。

はるかとハチを視界に入れながら拳銃を構え、いつでも撃てる準備をしている小次郎が苛立たしげに言った。

「くそっ!今撃ったらお前に当たっちまう!はるか!何とかがんばってくれ!」

「わかったよ!でぇぇぇぇいいいいい!!」

ハチを一気に追い抜くと共に旋回、気合一閃、はるかの太刀がハチの頭部に命中するが、鉄と鉄がぶつかり合う様な音がして弾かれてしまった。

「・・・い、いったぁ~。かったぁ~。こんな岩みたいなの斬れないよ~」

手がしびれて涙声になりながらも飛ぶはるかに、今度はハチが追いかけはじめた。

「ひゃあ!、こ、恐いよぉぉぉ!」

泣き言を言いながらもハチの体当たりをギリギリでかわす。

はるか一人では旗色が悪いと判断し、小次郎が指示を出す。

「一旦車に逃げろ!」」

「分かったっ。ひゃあ!針、飛ばしてきたぁぁぁぁ!」

体当たりだけではしとめられないと判断したのか、次々と針を飛ばしてきた。

はるかがなんとか針をかわしながら降下、トレーラーに降りるのを確認すると涼介が発進させる。

「くそっ!こうなったらロケットランチャーだ!」

「結局撃つんかい!」

やけくそ気味に言いながらロケットランチャーの準備をする小次郎に突っ込む涼介。

「うるせー、んな事言ってる場合じゃねぇよ!」

「じゃあ、私が斬りかかった時にブチ込んでよ」

「分かった。じゃあ、行くか。涼介、頼むぞ」

「あいよ」

低空飛行にきりかえたハチの針攻撃を巧みな運転でかわすと、すばやく停車。ハチがトレーラーの上を通過したのを確認すると、小次郎とはるかが再度飛び出す。

「うおりゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

再度天使の羽を広げ、はるかが舞い上がり、ハチの後方から斬りかかる。ハチは高度を上げてその攻撃をかわした。

「さっきから空ばっかり~」

軽く愚痴をこぼしつつ、気合を入れなおしてはるかも高度を上げてハチを追いかける。

「よし、セット完了!はるか、斬りかかれ!」

小次郎がロケットランチャーを肩に担ぎ、照準を合わせはじめる。はるかはそれを確認すると速度をあげて斬りかかる。

「これでどぉだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

気合と共に必殺の一撃のつもりで繰り出した一撃はハチに命中するものの、ハチの体にわずかな傷をつけることしか出来ず、逆に太刀の方が半ばから折れてしまった。

「わっ。げ、原人丸折れちゃった~・・・」

「よけろ、はるか!」

空中で嘆くはるかを無視して、動きの止まったハチ目掛けて小次郎がランチャーを撃つ。

「えっ!?きゃっ!」

はるかが寸での所でかわすが、ハチも一緒にかわしてしまう。

「馬鹿コジ!危ないじゃないっ!」

「うるせー。作戦なんだからしょうがないだろっ!」

一通り文句を言い合ってから、小次郎がぼやく様に言った。

「まいったな~。あれだけ素早いとランチャーは当たらないぞ」

「そんな、冷静に、判断してないで、なんとかしてよぉぉぉ!」

武器を無くしたはるかは反撃する事も出来ず、ハチの攻撃をかわしながら小次郎に訴える。

「う~ん。ひとまず戻って来い」

「ま、また~!?分かった~。ひゃっ!もう、針飛ばすのやめてぇ~!」

針に体当たりと次々と襲い掛かる攻撃をくぐり抜け、なんとかはるかがトレーラーに降りる。涼介はそれを確認するとまた車を発進させる。

「もう、わたしあのハチ嫌~~~~い」

「まあまあまあ。これからなんとかすっから、もう少しの辛抱だ」

開口一番文句を言い出すはるかを小次郎がなだめる。

「とはいえ、どうすっかなぁ。ちょっとでもいいから止まってくれないかなぁ」

はるかの前で大見得をきったものの、これといった具体案がある訳では無かった小次郎がそう呟くと、涼介が口を開いた。

「止まってるぜ」

「なにぃ!?いつ?」

驚きの声をあげる小次郎とは対照的に、涼介は冷静に答える。

「避けた直後。方向転換をする直前に一瞬、止まる」

「で、でもそんな時に攻撃する方法なんてあるの?」

はるかの質問に、涼介がしばし沈黙し、答える。

「う~ん。はるか、お前銃撃てるか?」

「無理だよぉ。肩が抜けちゃう」

「・・誰もシングルアクションで撃てとは言ってない」

涼介はにが笑いを浮かべながら言った。

「でも、うまく撃てるとは限らないし・・・」

自身の無さそうな声で答えるはるかに、涼介は代案を提示した。

「じゃあ、ナイフとかは投げれるか?」

「まぁ、銃に比べれば、まだナイフを投げる方が大丈夫かな」

はるかの答えに満足そうに涼介は小さな笑顔をみせる。

「よし。小次郎、投擲用のナイフを10本ぐらい作れ」

「え~?」

「ほぅ。文句があるのか。・・・代案でもあるのか?」

「いえ何も。・・・・・・できたぜ」

笑顔が一変し、ギロリと睨んでくる涼介に従って、小次郎はナイフを作り出した。

「どうすればいいの?」

小次郎からナイフを受け取りながら、はるかは涼介に質問した。

「いいか。そのナイフを上空からハチを狙って投げるんだ。はずしてもかまわん」

「当てなくてもいいの?」

不思議そうな顔をするはるかに涼介がうなづく。

「そうだ。当たればベストだが、とにかくヤツを動かす事だけ考えろ。後は俺がトレースして動きを取る」

「ランチャーの弾はあと1発しかない。失敗できんな」

「分かった。がんばるよ」

小次郎の言葉にはるかはうなずき、羽ばたいた。

はるかが飛んでくるのを理解してか、ハチの狙いがトレーラーからはるかの方に変わった。

それをすぐさま涼介は察知してトレーラーを止め、素早く外に出た。

「えぇ~~~い」

はるかが気合と共にナイフを投げるが、ハチは楽々かわす。

「小次郎、トレースするからまだ撃つなよ」

「分かった。任せる」

涼介が精神を集中、目を大きく見開く。すると、涼介の髪が銀色に変化し、体の周りを緑の光が回りだす。

キィィィィィ- ロータリーエンジンの高速回転時のような音が周りに響き、ハチの動きを目で追っていく。

涼介の能力『トレース』-相手の動きを3度見る事でその動き及び能力を自分でも使う事が可能になる。

また、それと同時にその動きの弱点をも見つけだす事ができる。

「えーい!当たれぇ~」

はるかが次々とナイフを投げていくが、全くハチには当たらない。

しかし、3度めの回避行動を見た涼介は確信を持ってはるかに指示を出した。

「よし、はるか!同時に残り全部を投げろ!小次郎!ヤツは前に向かって飛ぶからそこを!」

「おっしゃ!」

「いっけぇ~~~!!」

涼介の指示に二人がすぐに反応する。

小次郎はロケットランチャーを背負い、照準を合わせる。はるかは残りのナイフを両手の指の隙間に挟んで、一気にハチ目掛けて投げつけた。

涼介の予測通り、はるかのナイフをハチが前方に避けようと方向転換のために一瞬止まった。

「もらったぁぁぁぁぁぁっっ!」

小次郎が雄叫びと共にロケットランチャーを発射。その一瞬動きを止めた瞬間に命中し、見事打ち落とした。

「よっしゃぁ!」

涼介がガッツポーズをしている横で、小次郎は安堵の息を漏らす。

「ふぅ。何とか成功か」

「やったぁ!さっすが兄さん!弱点見切るの天才だね♪」

空から舞い降りてきたはるかがそう言いながら涼介に抱きつく。

「ま、まぁ、見ていれば分かるしな」

涼介が軽く照れながらそう言い、はるかから離れる。

そんな二人を見ながら、小次郎がぼやく。

「・・・仕留めたの俺なんだけどな~~~」

もちろん二人には聞こえていない。小次郎は軽くため息をついてから、切り替えて言った。

「さて、帰るか。おっしゃ~!これで150万~♪」

ポーズを決めながら雄叫びを上げる小次郎。その言葉にはるかが声をあげる。

「あ、で、でも。私の原人丸折れちゃったよ?」

「そ、そうだったなー。涼介、出費はどの位?」

小次郎の喜びの表情が若干翳り、涼介に尋ねる。

「えーと。計算してみたら、赤字なんだけど・・・」

「なぬぅ!?新しい刀っつっても100万もしないだろ?」

小次郎が驚いて電卓を持った涼介に詰め寄る。そんな小次郎に涼介は冷ややかな視線と言葉で答える。

「お前、ランチャー全部売っただろ?あとガソリン代とグロッグの弾代、太刀の代金を足したら赤字だ」

「・・・あう。い、いくらの赤字なんだ?」

小次郎は先ほどまでの勢いなどあっという間に無くなって、やや引きつった顔で涼介に聞いた。

しばしの沈黙の後、電卓を前にに突き出しながら涼介が答えた。

「・・・2000円ぐらい赤字」

「に、にせんって…こ、細かいなぁ、おい!2000円ぐらいいいだろ、2000円ぐらいっ!!」

「・・・お前、一度でも黒字になった事あるか?ええ?」

小次郎の言葉に、今度は涼介が怒りの表情を浮かべながら詰め寄る。

「えっ!?あ、あ、うっ。じゃ、じゃあ、刀は次から俺が作るから。これで黒字だろ?な?」

小次郎が慌ててそう言うと、涼介の怒りの表情が収まった。

「まぁ、それでいいなら黒字だけど。でも!黒字分は店に使うぞ」

「なんでだよ!?」

「お前、おととい店のワイン3本割っただろ?代わりの新しいの入れなきゃならんだろうが」

「たったの3本だろ?そんなに高く無いじゃん」

涼介に睨まれながらも、今回はひかない小次郎。高山小次郎、現金な男である。

「まあ、確かに2本は4000円くらいのだから安いな。でも、残りの1本はロマネコンティだ。・・・給料から引こうか?」

「あ、あははは・・・。ゴメンナサイ」

それを聞いて素直に謝る小次郎。確かに現金は欲しいが、それ以上に明日のわが身の方が大事だからだ。

「はぁ。いつになったらさくらとはるかに服を買ってやれるんだ・・・」

涼介のぼやきに小次郎がすぐにツッコミを入れる。

「このシスコン兄貴!」

「う、うるさいっ!!かわいい妹達のために働いて何が悪い!お前も少しは2人に出せ!」

慌てて言い返す涼介の隣で、はるかが照れている。

「か、かわいいだなんて・・・」

「だいたいハントの金は俺のモンだ!」

今がチャンスと言わんばかりに大きく出た小次郎だが、その言葉を聞いて涼介の目がキラリと光る。

「じゃあ家賃払え、食費も払え、赤字分も自分で払え、この間お前が乗って壊したGSXの修理代払え」

「・・・今日はなんていい天気なんだろうな~~~」

「このヤロウ・・・」

思いっきり涼介から視線をそらし、そんな事を言う小次郎に涼介の背後からレインボーなオーラが。

某スロットで20連チャンいきますぜ、昇天させますぜ、な空気を出していた。

「に、兄さん。あの、太刀折っちゃってごめんなさい」

涼介の動きを察して、テレまくりモードに突入していたはるかが現実に戻って来て、話題を変える様にそう言った。

「いいんだよ。お前は何にも悪くない」

途端に涼介の顔が柔和になり、オーラも消え去っていた。

しかしそんな涼介の表情も長くは続かなかった。

「そうそう。悪いのはカタすぎるハチともろ過ぎるビンだ」

「お前のその神経の図太さの方がよっぽど悪いわっ!!!」

今度ははるかが何かを言う間も無く、涼介の右手が懐に差し込まれ、一気にフライパンを引き抜くと小次郎の脳天に炸裂させた。

その後、気絶した小次郎に涼介の説教が長々と続いたという・・・。



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