王者の草(短編)
我がグラムベルガルドラクトラスナマキラウスニマス帝国に敵なし
王の気高い雄叫び虚しく、王の護衛軍9万8900人総員は戦死した。
王は、「飲めば不老不死にて最強」と古代の詩にも歌われた「王者の草」を長き旅の果てに見つけた。
しかし、彼の旅はそこで終わりだった。
草は、強すぎた。
王の剣(同時30倍攻撃・光属性)の重奏次元斬撃でさえ、草にとってはそよ風と同じことだった。
王の斬撃によって敵意を感じた草は、くしゃみをするがごとく軽率さで唱えた。
「死ぬがよい」
草の唱えた呪詛により、王国兵の9割9分(およそ9万8899人)は死んだ。
ただ死ぬのではない。肉はただれ、魂さえも二度と蘇ることのない冥府に送り込まれた。神の奇跡に数えられる究極魔法によってさえ蘇生は不可能なことはおろか、二度と転生することもない。
この時点で王は逃げるべきだった。今の呪詛で、王にまとわれた神域保護魔法(重奏次元回避機能)さえも打ち破られる。
王は再び斬りつけるが、当然草には無効。火炎ならもしくは効いたかもしれないであろうが、それさえも冥界の底の地獄の収斂炉の火結晶を用いなければ、草の若葉にさえ焦げ一つ入らないだろう。
光属性攻撃の反射により、王の身体は再起不能なレベルにまで傷つく。
「草を殺そうとするのは、ダメなことなんだぞ」
草の厳命だった。
王には、逆らうことも、言い返すこともできなかった。
「ボロボロじゃん。ウケる、草」
「貴様何者なのだ…」
「転生したら草でしたが何か」
納得いかぬ表情のまま、王は息絶えた。
王たちは、このまま土になる。
王たちは草の養分となり、再び草は、強くなる。
どれだけ殺し、どれだけ強くなろうとも、草は現世に帰ることができなかった。
草は女神を許さない。
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草は思い出す。女神との会話を。
「三上蒼汰、日本人、15歳。貴方は、死にました。しかし、転生できるなら何になりたいのですか」
「草、まじウケる。俺転生できたじゃん、ラッキー」
「草ですね、わかりました」
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草は後悔する。
もう、自分の顔すら思い出せない。
草は生き続ける。
生きるために、養分を奪い続けながら。
星滅ぶ、その日まで。