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短編

盲目的に彼女が好き

作者: リュウタ

 五月の半ば、少し夏に近づいてきた頃のこと。教室という空間に徐々に慣れてきたクラスメイト達は、新しく出来た友達と教室や中庭で昼食を食べようと席を立って移動していた。


「──という訳でよろしく!」

「え、ちょっ……!」


 そんな中僕は、昼ご飯を食べる予定だった友達にキャンセルを入れてくれるよう、隣の男子に声をかけた。

  そいつは何かを言いたげだったけど、そんなもの僕には聞こえない。

 瞬く間に席を立ち、急いで目標の屋上へと向かう。うちの高校は屋上に入られないから、正確には屋上に繋がる南京錠のかかったドアに向かっている、だけど。

 

 待たせているかもしれないという焦りが僕を走らせる。

 普段なら先生に見つかると怒られるスピードだけど、幸いなことに屋上までの道のりで先生とは会わなかった。

 授業が終わったばかりの昼放課で、先生は教室で生徒の質問に答えていたり、授業中に渡せなかったプリント等を配っていりしている最中だろうか? なんにせよラッキーだ。

 そんな事を考えていたら、あっという間に屋上に着いた。



 ──いた、彼女だ。



 そこに居たのはすらっとした体型で、長い黒髪を携えた綺麗な目をした女の子だった。

 そして僕が今朝、下駄箱前で手紙を渡した女の子。手紙の内容は、お昼休憩の時に屋上に来て欲しいという旨を記したものだ。


 ここに来てくれたという嬉しさを噛み締めながら、ゆっくり彼女に近づいていく。僕の顔にはきっと誰が見ても、友達との昼食を断ってまで彼女に会いたい特別な理由があると容易に想像出来るだろう。

 そして、


「好きです付き合ってください!」

「ごめんなさい」


 ……あれ、おかしいな。

 僕は今、彼女に告白した。今告白したというのだから、当然付き合ってるという意味での彼女ではなく、英語で言う『She』というやつだ。そして今八回目の告白の末、失恋した。


「僕のどこがダメなんですか?」


 そう僕が問いかける。

 こんな威勢のいいことを言うが、客観的に見てルックスは中の上、普通よりほんのちょっと可愛いといった感じであり、勉強が得意なわけでもなく、運動能力がずば抜けている訳でもない。目立った特技もなく、自己紹介して、と言われると少し焦ってしまうぐらいである。

 だけど、今回こそは確信的な自信があった。

 八回も告白してるのだから一回ぐらい成功するだろうという確率的な自信が。

 うーん、と彼女は唸り声を上げ、


「私に告白をしている時点で、君にはわからないと思うよ」


 少し呆れたような物言いで彼女はそう言った。なぜそこまで残念そうに僕にその言葉を伝えたのか。それはまるで先程の言葉になにかもっと他の意図があるような感じだ。


 ……もしかして僕が自分のことをあまり知らないと思ってるのかな?

 そうだとしたら少し心外だな。僕は彼女のことについて、少なくともこの学校にいる誰よりも彼女を知っている自信がある。

 彼女に告白をして初めて振られてから、彼女のことを調べまくった。名前を聞き、誕生日を知り、趣味を探り、帰り道さえ覚えてしまった。いい所も、傍から見れば変な所も、彼女の全てを知った上で僕はもう八回も告白している。

 やっぱり僕が一番彼女について詳しいはずだ、そう結論づいた僕は彼女をまっすぐ見つめる。照れ臭いけど僕の意志を示すにはこれが最適解だと思った。

 すると彼女は僕の強い意志に面食らった様子で目を見開き、驚いたような顔をした。

 やはりこれが正しかったんだと確信し、そのままじっと、彼女を見つめる。


 だが、僕の最適解とは裏腹にこちらに向けられた目線は、自分が思っていた感情と違うものだった。

 敗北した気分になりながら彼女を思う。やはり彼女のことが好きだと。

 濁りのない茶色の虹彩に、それを引き立てるかのような真っ黒の瞳孔、ぱっちりとした瞼、くるんとしたまつ毛、目だけでもこれだけの情報が出てくるのだ、彼女の魅力はそれだけではない。

 毎秒手入れされているかの様な混ざりけのない黒い髪、初めて彼女とすれ違った時に不覚にも振り向いてしまった程に美しかった。それに、日本人とは思えないほど高い鼻に真っ赤に染まった唇。その唇から発せられる声に、いつも聞き惚れてしまう。

 また、彼女は顔だけじゃなくてスタイルもいい。僕よりも高い身長に、スリムな体型、顔も小さく、リンゴ二個分位しかないかと思う。それくらい小顔なんだ。足も細く、何を食べたらそうなるんだと思わず聞いてしまったこともある。そんな彼女の外見が好きだ。


 いやいや、僕は見た目だけではなく、彼女の性格も好きだ。普段は冷静沈着だが、友達には明るくフレンドリーに、先生や目上の人には礼儀正しくと、人との接し方は凄く憧れる。勉強も運動もそつなくこなす、そんな完璧とも言える彼女から、話の最中に出る思いもしない的はずれな発言や、どじを踏むのを恥ずかしがる姿。このギャップもまた保護欲を刺激される。そんな彼女の内面が好きだ。

  彼女のその全てが美しく愛おしく、なんでこんな完璧な人に男どもは告白しないんだろうと、腹が立ってくるほど彼女が好きだ。

 僕がその苛立ちを抑え、小さく深呼吸をしていると、彼女が僕の脇を通り過ぎ、自分の教室までの帰路に向かって歩きだしていた。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


  先程彼女に振られても焦らなかった僕が、切羽詰まったように彼女に話しかける。


「ごめんね、お昼ご飯食べたいんだ」


 彼女は華奢な足を止め、半分だけ体をこちらに向けてそう話す。

 やばい、勢い余って止めてみたものの、もうここに呼び出した理由も終わってしまったし彼女を引き止める理由がない。

 至って普通の頭脳を必死フル回転させて言葉を絞り出す。

 何か彼女の興味を引くことを言わなければ、彼女が返事をしてくれる話題を振らなければ。

 えっとえっと……。


「好きです付き合ってください!」


 早口で捲し立て言ったことは、彼女に伝わっているのか不安に駆られながら頭を下げる。だがその不安も、彼女からの返事が返ってきたことで解消された。



「告白される度に思ってた。付き合ったらきっと楽しいんだろうなって」


 最悪の結果となってだが。


「けどごめんなさい。私は女の子と付き合うことは出来ないわ」


 僕は今日、九回目の失恋を経験した。次はどうやって告白しようか? 

処女作です。自分が小説を書きたいと思う前から、こういうミスリードを誘うお話を頭の中で考えていて、

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