第二話_喉が渇いた
どれくらい眠ったのだろう、眠りから覚め瞼を開くも眩しい光に目を細める
どうやら太陽はまだ昇ったばかり、あまり寝ていないはずだがスッキリとした目覚めだ。
昨晩は暗くて何も見えなかったが意外にも草が生い茂っており、木々が立派に生え揃っている。
少し冷たさのある風が弱々しく頬を撫でる
草や木の葉も風に揺れている。
揺れているはずなのに相変わらず音はない
砂粒で耳の中が傷ついたのか、実はもう死んでいるのか、体力の低下で一時的に機能を失っているだけなのか、とほんの一瞬考えたが八裂にとってそんなことはどうでもいい事だった。
「喉が渇いた」
声が出ているのかどうかも分からないが、確かにそう呟き立ち上がった。宛もなく脛ほどの高さまで伸びた草の上を歩いていく。
ふと空を見ると太陽が真上にある。太陽を見たせいで視界が悪いが目が見えるようになった時、遠くに小さな集落があるのを見つけた。
近くまで足を進めて気がついた
様子がおかしい。集落の外周には人ひとり居ない。高めの柵の上から見える家は、もう誰も住んでいないにしては放置されたような跡はなく、寧ろ生活感を感じられるほどだ。
集落の入口を探し、周りを歩く。並ぶ柵の中に一箇所だけ大きな木造の門がある
正確には門があったと言うべきか
その門は豪快に破壊された跡がある。焼けた匂いがする事から、爆発物で開けられたことを察するのは容易だった。
戦が終わった、この時代で武器持たぬ者から食料や金を奪うために武力保持し続ける人間がいるのは当然だ。それが戦いの発端なのだから
この集落の状況なんてどうでもいい
八裂にとって大切なのは、そこに戦いが存在するという事実。
大きく空けられた門の穴から、集落へ足を踏み入れた途端、八裂の目を光が照らす。
刃に反射した光だ。八裂は目を細めることなく、光の反射元つまり刃のある方向を凝視した
そこには一人の剣士と十人ほどの蛮族の姿があった。
「嬉しいぜ」
その少し低めのどこか渋さをも感じられるその声は、心做しか非常に楽しそうなものだった。