第一話__孤独を進む
聞こえるのは風の音だけ、この風の中言葉を発しても恐らく何も聞こえないだろう、たとえ自分の声であっても。
風に混じる砂粒が触れ続けた顔からは血が滲んでいる。しかし、傷口に砂粒はぶつかり続ける。
滲む赤い血には砂粒が付着し、風に押し出される砂粒は傷口の奥から、さらに肉を削り、また飛んでいく
この場所に人は居ない、居るはずがない
そんな場所を男は三日ほど歩き続けている。
何も無い、水も食料も。
そんな場所をただ笑みを浮かべ歩き続けている
*
どれくらい経っただろう
すっかり風はやみ、辺りは異常なほど静寂に包まれている。
先程まで聞こえていた風音が聞こえないのは却って違和感を感じるほどだ。
辺りは真っ暗で何も見えない、どうやら雲に隠され月明かりひとつ入ってこれないらしい。
静寂の中に一瞬、葉の擦れる音が混ざったのを聞き逃さなかった。
音の場所へと歩を進め、僅かに闇が深くなるのを感じたところで闇の中に手を伸ばす。
その手にはザラザラとした感触があった。
それは大きく、頑丈だ。
それに背中を付け座り込むと、そのまま死んだように眠りについた。
静けさを変えることなく、聞こえるのはたまに吹く風の音のみ。今男を見た者は確実に死んでいると勘違いするだろう。




