第九話_再び旅立つとき
戦いに敗れた彼らは、宛もなく彷徨う者から別の将軍の元に就こうとするものまで様々だ
志斎には帰る場所がある。自分の村へと重い足を進めた
村に着く頃には、ほとんど意識はなく気力だけで何とか持っている、そんな状態だ
門をくぐった途端、全身の力が抜けその場に音を立てて倒れた
目を開けると、そこには天井があるだけ
どこか懐かしさのある、そんな天井が。
「俺は何を」
そう呟きながら冷静に考えた
「そうか…… 何とか村に着いたんだな」
ガラガラと音を立て戸が開く
「目が覚めましたか」
そう言うと一度外へ出ていき、戻ってきたと思えば人数がかなり増えていた。やけに騒がしい、まるで祭りでも行われるようだ。
どこか聞き覚えのある声の主達は村人だった
ここまで来る間に何をしてきたか、看病してくれたお礼など、あらかた言いたい事を言い終えた後に、一つだけ疑問に思っていたことを質問した
「矢鶴はどこに」
志斎の帰りを祝福してくれていた村人の顔からは笑顔が消え、まるで場所が変わったかのように一気に居心地が悪くなった
「眠っています」
眠っている。それだけ聞けばただの睡眠だろう
しかし村人たちの表情が、ただの睡眠では無いことを示していた
もうこの世には居ない、なんて最悪の事態も考えさせられる程だった
「実はここ一年ほど病気で寝込んでいるのです」
志斎が村を離れていた期間は、およそ三年
つまり志斎が旅立ってから二年後に病は顔を出し始めた
皆が暗い顔をする中一人、志斎だけが穏やかで安心したような表情をしていた。
「生きているなら とりあえずはそれでいい」
その言葉に村人も不安が軽減されたかのように表情が少し明るくなった
「待てよ もしかしたら志斎なら なんとか出来るんじゃねぇか」
一人が急にこんなことを言い出すものだから、何を言っている馬鹿なことを言うなと、反対的なことを言うものから、確かに志斎しか頼れないと賛成的なことを言う者まで現れ、そのせいで少し場は荒れてしまう
「おい俺は医者じゃねぇ 何も出来ねぇよ」
志斎は自分に何を期待されているのか分からなかったが期待されても困るという旨だけ伝えた
すると一人が皆を黙らせ状況を説明し始めた
「医者は別にいます しかし薬が手に入らないと言うのです」
恐らくこの後、理由を語るだろう。
そんなこと分かっていても、どうしても気になれば質問してしまうものだ
「なぜ」
「価値が高く貴重な薬草は全て どこかの軍の者達が買い占め、採り尽くしてしまったらしく 我々庶民にはこの病気を回復する手は残っていない ということです」
「そういうことなら俺にもなんとか出来る 俺に任せてくれ」
そうは言っても賛否両論あるものだ
「無事に生き残って帰ってきてくれたんだ また危険を冒す必要がどこにある」
「俺の事を思ってくれるのは嬉しいけど ここで動かなかったら一生後悔する 後悔しながら生き続けるくらいなら 矢鶴のために死ぬ方が俺にとっては幸せなんだ」
それから一ヶ月ほど経った時のこと
戦いは『明鏡 覇貂』この男の天下統一により幕を閉じた
この一ヶ月間、集めた情報もそのせいで意味を無くし、一から集め直すことになってしまった
水も作物も豊富なこの村は終戦して尚、武力を持ち続ける者達の格好の餌食となり、薬草を探しに村を離れる訳にもいかない状況に陥った
コチラから動いて情報収集を出来ない志斎は焦っていたが、よく考えてみれば情報源が自ら出向いてくれているでは無いか
そして又一ヶ月ほど経った頃、確かに薬草の在処を入手することが出来た、しかし本番はここから。村を襲う者達は日に日に勢いを増していく。
とても薬草など探しに行ける状況になかった
そして最悪の時は唐突にやってくる
門の強化を施し、簡単に出入り出来ないようにした甲斐あってしばらく敵は村に入れず諦めて帰る日が続いた。
村人達の自由は制限されるが今は仕方ないと、門を信頼し薬草を探す旅に出ようと、支度をしていた時 外で急に大きな音が聞こえた
急いで外に出た志斎の目に映ったのは、爆発物で門を破り中に入ってくる敵の姿だった。
門を信頼しきっていた為に破られた時の衝撃は大きかったが、今はそんなこと考えていられない
ひたすら村を守ることだけ考えて戦っていた
そしてソイツは門の破壊跡から突如現れた
明らかに今までの敵と雰囲気の違う、ソイツは満面の、にやけ面でこう言った
「嬉しいぜ」




