おどろ6
生暖かい 風が 流れ
黒い雲が 流れ 流れて
赤い月が 姿を 現す
その中を ギシ、ギシ、と
乳母車が 押され来る
その乳母車には 赤子が 眠る
奴は 驚き 息を飲み
ほうかぶりの 下の
その醜い顔を 晒す
その目は 細く
その鼻は 潰れ
その口は 薄い
泥の蛙が 向きを変え
片羽の 蛾が 乱れ飛び回り
足の長いのが 獣の死骸に 集まり群がる
赤子は 泣かず 動かず
乳母車は 押され続ける
ギシ、ギシ、と ギシ、ギシ、と
奴が 道を塞ぎ 刃物を翳す
乳母車を 押す者が 顔を上げ
赤い月夜に その顔が 浮かび上がる
その顔は 目と鼻と耳が
異様に大きく 醜く おぞましかった
奴は 声を荒らげ 刃物を振り回し
叫び散らすが 返事は無い
再び 乳母車が 押され始める
奴は 恐れ おののき 我を忘れる
汗を 滴らせ 臭い息を 吐き出し
乳母車の中で 眠る赤子の
毛布を 捲り上げる
赤子は 泣かず 動かず
能面のまま 眠り続ける
その顔は 汚れ
その髪は 乱れ
その体からは 生気が伺えない
奴は 赤子を 拾い上げる
が すぐに 驚き落とす
赤子の 肌は 硬く 冷たく
人肌の それでは無かった
赤子は 汚れた 人形であった
奴は 気味悪がり 道を譲る
再び 乳母車が 押され始める
ギシ、ギシ、と ギシ、ギシ、と
途中で 振り返り 奴を見る
その顔から 何かが 落ちる
ポロリ、ポロリ、と
ぬかるんだ地面に
目と鼻と耳が 転がり
乳母車を 押す者の 顔に
目と鼻と耳が 無かった




