表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おどろ  作者: 沖崎りぃ
1/6

おどろ1



それまで 動かなかった野良犬が

気だるく立ち上がり ゆっくりと歩き始めた

(むせ)び吹いてた なま暖かい風が (よど)

朽ちた小屋の 周りを覆う泥が

流れること無く 異臭を放ち続ける


泥の中から 目だけを出している蛙は

もう何年も 鳴いてはいない

代わりに 男が泣いている

小屋の外で 壁に(もた)れ 尻を濡らし

何年も鳴いている (よだれ)を垂らし

おうぅ、おうぅ、と  おうぅ、おうぅ、と


朽ちた 小屋の中で

爺と婆が 背を丸め 食事をしている

台は無く 箸も無く (わん)は欠けている

中の物を 手で掴み

どろりと 糸を引かせ 口に運ぶ

爺は いつまでも 咀嚼(そしゃく)し続け

婆は 僅かな量を 舌で()ねている

動きの少ない二人の膝には 

時折 足の長いのが 這っている


()がれそびれた 屋根のトタンが

ゆるい風に暴れて ながく 哀しく 音を出し

黒く染みた天井に張られた

古い蜘蛛の巣が揺れる

一匹の足の長いのが 天井を這う

糸が絡まり 陰から蜘蛛が走り寄る


婆が碗を置き その中に タラタラと吐き出す

爺は咀嚼(そしゃく)し続けている

ねちゃり、ねちゃり、くちゃり、くちゃり、と 

婆が立ち上がり (ふすま)を開ける

襖は(ゆが)み 音を出す

ギィ、ギギギ ガタ、ガタタ、

何度も動かし 婆が 隣の部屋へと 消える


その部屋は 暗く 湿り 腐臭が漂う

何かの獣が 部屋の片隅で

忘れ去られて 骨となっている

畳は 擦りきれ 何かの液体で カビて(ぬめ)っている

藁を敷き 幾許(いくばく)かの藁を敷き

その上に 赤子が眠る

その部屋には 赤子が眠る


婆が 吐き出したものを

指で 掴み 赤子に与える

赤子は 喜び バタバタと 手足を振る 

 

足の長いのが 赤子の顔を (よぎ)

赤子は 咀嚼(そしゃく)している

ねちゃり、ねちゃり、と口を動かす

口だけを動かす

赤子には 口しかなかった

赤子には 目と鼻と耳がなかった


婆が部屋を出て 襖を閉める

ギィ、ギギギ、


赤子は 咀嚼し続けている


小屋の外では 壁に(もた)

男が 泣き続けている

おうぅ、おうぅ、と

おうぅ、おうぅ、と



 




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ