054 冒険者
いよいよこの日が来てしまった、とアウレイアは思いながら目を覚ました。雨の日や嵐の日はこのような日に限って来ない。アウレイアは起き上がると溜息を吐き、いつも通りに支度を始めた。
「では、ルルアお嬢様。気を付けて行ってくださいませ」
ライネルからそう言われ、アウレイアは手を振って答えた。そして、馬車に座り、溜息を吐いた。今日はユーリファをオウガストとミルに紹介し、一緒に冒険者として活動するのだ。
「それほど、私と冒険者の活動をやるのが嫌なのですか?」
「よく考えてください。いいですか?あなたは天使です」
「…そうですが、それがなにか?」
御者台に座り、巧みに馬を操りながら、ユーリファは振り返った。
「どこの現世に冒険者になろうとしている天使がいるのですか?」
「私ですが…」
「…話を変えましょう。あなたが冒険者をする本当の理由はなんなのですか?」
「本当の理由ですか…。おや、目的の場所に着いたようです。では、アウレイア様。私が馬車を預けている間、少々お待ちください」
そう言ってユーリファはアウレイアを馬車から下ろして、馬車を預けに向かう。しばらくして戻ってきたユーリファを連れて冒険者ギルドへと向かう。
「で、理由は?」
「あなたの身の安全をより明確にするためです」
しれっと理由を述べたユーリファにアウレイアは顔を顰めた。
「それは、身を潜めている状態で十分に安全を持てるのでは?ユーリという人物に縛られている限りあなたはきちんとした人間の役職を果たさなければなりません。それを全うしている間は私の身を守ることはできないのではありませんか?それでもあなたはユーリと言う人間になった。つまり、もっと別の意味があるのではありませんか?」
ユーリファという天使はおかしな行動も取るが、話すことは大体合理的なことばかりであることをアウレイアは知っている。つまり、この方が効率の良い理由があるはずなのだ。
「…東の森が封鎖されましたよね?そこへ私は行きたいのです」
「なるほど、そこへ行って何をするのです?」
「これ以上はさすがに言えません。ですが、あなたをそこへ行かせないということ、触れさせないという為にユーリになりました」
つまり、彼は冒険者の登録をして堂々と立ち入り禁止の場所へと入ると同時にアウレイアがその場所へ入らないように阻止するということを目当てにユーリになったということだ。
「まあ、それ以外にもありますが」
ボソッと呟いたユーリファの言葉にアウレイアは反応を示した。
「それ以外にもあるんですか?」
その答えにユーリファは怪しく笑っただけだった。
~
「あ、アウレイア…この人は誰?」
アウレイアが待ち合わせ場所に行けば、真っ先にミルが気づき、口を開いた。オウガストも訝しげに1人の男を見ている。
「こんにちは、2人とも。申し訳ないけど1人同行する人が増えたわ。彼はユーリ、私の護衛でお忍びのことも口を噤んでいてくれるわ。護衛を付けていないことがバレちゃうとここにも来れないから、悪いけど仲間だと思って頂戴。いないものだと思って構わないわ」
「ユーリです。ただの空気だと思ってくれて構いません」
「…さすがにそれはできそうにないな。俺はオウゼリア。アウレイアと一緒に冒険をさせてもらっている」
「…いきなりそうなったのはしょうがないけど、護衛ってことは、腕は確かってことでしょ?それに急に冒険者活動が中止になる方が嫌だから構わないわ」
「2人ともありがとう」
「で、今日はどうする?」
ギルドで出ている依頼を一通り見終えたミルはそう口を開いた。
「うーん、俺はどれでも。アウレイアはどれがいいと思う?」
「そうねえ…」
アウレイアはある依頼を手に取った。それはとある服屋の染料を手に入れてほしいという依頼であった。
「染料は桃色、橙色、水色、緑色の4色。色の原料となるのは色スライム…そんなスライム存在するの?」
アウレイアの取った依頼を見てミルは呟いた。その問いにアウレイアは答えた。
「存在するわ。これはカラフルスライムという純粋なスライムの亜種のことよ。カラフルスライムはそのスライムの体の色と同じ色の部分が多い所にいるの。具体的に言うと、緑色スライムは主に草原や森にいる、という感じね」
「じゃあ、水色は水の中にいることが多いという事か」
アウレイアの言葉をヒントにオウガストは水色スライムの在処に気づいた。
「そういうこと!」
「…じゃあ、桃色や橙色のスライムはどこにいるの?」
「…確かに。桃色や橙色は自然の色ではないよな」
「桃色は桃の花畑、橙色は下水管の茶色スライムの粘液をを水で洗ってあげると橙色が採れるの」
「げ、下水?アウレイア、本気で言っているの?」
「?本気だよ?下水に潜ってスライムを捕まえて、『洗浄』という魔法で洗えば、橙色になるの。どこかの強い魔物を狩るよりは大分簡単じゃない?」
ミルの引き攣った顔に対してアウレイアはそう返した。
「いや、ちょっと待て。確かに簡単だが、結構な泥仕事じゃないか?」
オウガストは慌てて口を開いた。
「嫌なの?」
「…汚れ仕事を嫌がっているわけではないが…」
オウガストには貴族としての意識がある。貴族が下水に入るなど通常言語道断である。だが、汚れ仕事をしようとしているルルアージュは自分よりも上の公爵家出身である。
「私たちは下級冒険者だから、どんな仕事も引き受けていかないと、でしょ?」
オウガストは気づいた。今自分は、オウガストではない。ただの冒険者オウゼリアである。ただの冒険者オウゼリアはお金を稼ぐためならばどんな依頼でも喜んで受けるはずだ。
「確かに、そうだな。よし、それにしよう」
「オウゼリアまで!?」
ミルが裏切られたような顔をした。
「ミラージュ。俺たちは受けられる依頼が少ない。どんな依頼でも喜んで受けるべきだ」
「…そうだね」
ミルが諦めたように言った。
次回は3/29 12:00に更新されます。




