053 シティーレアの会2/2
「…ということで魔法言語学は魔法の詠唱に必要なものであり、魔法を放つ際の大きな要素となる、と考えられています」
「なるほど、オウガスト様の説明はとても分かりやすいですわね。よく勉強している証拠です。私が言うのもなんですが」
「…ありがとうございます」
今、1つのソファにオウガストとルルアージュが肩を並べて座っている。その事実からオウガストは目を逸らし、全力でルルアージュに教える。その向かい側でオウガストの様子を盗み見ながらミルもちゃっかり魔法言語学の説明を聞き、頭の中で整理する。
「で、魔法言語学には簡単な魔法から難しい魔法で文法が変わってきます。そのため、魔法は大まかに段階が決まっていて、その段階ごとに魔法の文法があります。現段階で確認されている魔法段階は14段階ありますが、その中でも学園では10段階までを学習します。1段階ですが、<属性><指示>の3つで、この順番通りに魔法言語を唱えていきます。…面倒くさいですが、<属性>では段階ごとに言葉が変わっていくので全部覚える必要があります。例えば、第1段階の火の<属性>は『煌めく火』です。教科書の後ろにすべて載っているので頑張って覚えてください。あとは…」
オウガストの説明を聞き、わからないところを説明する。
それがひと段落すると、今度はアウレイアがミルに魔法学を教える。ミルから渡された魔法学の魔法課題リストは水属性の魔法であった。
「ミル様は水の属性の相性がいいのですね」
「あ、属性の数値とか教えた方がいいですか?」
ミルの提案にアウレイアは首を横に振った。
「いいえ、大丈夫ですわ。水との相性がよろしいのでしたら、魔力を水に変換させる練習をしましょう」
「魔力を水に変換させる?」
「そうです。魔力は魔力であって、魔力を扱える生命体のイメージによって魔力の存在が変化するのです。例えば、『ウォーターボール』という水の球を創り、浮かべて相手にぶつけるという魔法がありますね。ミル、オウガスト、『周辺探知』で魔力を見てもらってもいいですか?」
アウレイアはそう言って、『ウォーターボール』を行使する。
ミルとオウガストは魔力の感覚に集中してルルアージュの手の先を見た。すると、ルルアージュの手の先、拳大の魔力が集まり、いままで魔力だったものが液体の水へと変化していく。
アウレイアは『ウォーターボール』の魔法を維持しながらミルとオウガストに尋ねる。
「どうかしら?水の属性は気体の状態の魔力を液体へと変えることで変化しますわ。魔法はイメージが大切です。私のしたことを思い返しながら『ウォーターボール』を行使してみてください。オウガスト様は属性の数値0がなにかありましたか?」
「いや、なかったと思います」
「では、オウガスト様も『ウォーターボール』を唱えることが可能だと思いますのでやってみてください」
ミルはルルアージュが言っていた通りにまず手のひらに魔力を集めてみた。集中力が必要であるが、既に魔力操作を覚えているミルはそれほど苦戦せずに魔力を集めることができた。問題はそのあとだ。ルルアージュは、魔力は気体だ、と言った。つまり、この気体を液体に変える必要があるということだ。…そもそも気体と液体はなにをどうやって変化するのだろう。そこで集中力が途切れてしまい、魔力が霧散する。
「ああ…」
結構な集中を保って作った魔力の塊がふとした瞬間に消えていくのを見て、ミルは思わず声を出してしまう。その声を聞いてアウレイアはミルを見た。
「ミル様、できそうですか?」
「魔力を集めるのはできました。ですが、気体を液体にするということがどうにもわからないです」
「ルルアージュ様、俺もです…」
そう言われてアウレイアは初めて気が付いた。この時代の人々は状態変化の概念を持っていないということを。
魔法を詠唱することでメリットとデメリットが出現した。メリットは魔法の簡略行使。誰でも同じ魔法を同じように唱えることができ、これは他の人よりも魔法運用能力が劣る者にとって大きなメリットとなる。だが、魔法を扱うのに長けたものには大きなデメリットだ。なぜなら他の人より大きな魔法を行使できるものを詠唱という鎖で扱うものを制限してしまうからだ。さらに魔法を動かすにあたり発生する概念を発生させないようにしてしまったのである。
結論を言うと、詠唱魔法は多くの人にとって魔法という存在を扱いやすくさせるとともに、少数の人の長けた部分、苦手な部分を封じたのだ。つまり、使用の幅を縮めたということである。そして、今ミルやオウガストが戸惑っているように状態変化などの魔法を扱う上で必要だった知識を時代の彼方に忘れ去ってしまったのだ。
「では、そこから学習いたしましょう。お二人とも、水は液体という認識はありますか?」
アウレイアはそう言いながら、カップを部室の棚から取り出し、魔法で水を注いだ。それをテーブルに置き、ルルアージュは席に着く。それに倣ってミルとオウガストも座った。
「もちろん、それは知っています」
「では、こちらはご存知でしょうか?」
アウレイアはそう言って、右手でもう1つのカップを取り、魔法で氷を作り出し、氷を入れ、左手で『亜空間』からもう1つカップを取り出した。左手のカップは普通のカップではなく、全てがガラスで作られ、ガラスの蓋で中身が密封されている。その中身は白い煙のようなものが立ち込めている。アウレイアはその二つをテーブルの上へことり、と置いた。ミルとオウガストはその2つを凝視する。
「右は、氷ですよね?あまり見たことがありませんが…。左がわからないです」
ミルがそう言って、白く渦巻く蒸気に首を傾げる。
「…もしかして、水蒸気ではありませんか?」
「そうですわ、オウガスト様。よくご存じで。こちらは水蒸気です。このガラス瓶はとても特殊なもので中の水蒸気が消えないようにすること、外から水蒸気の様子が見えるように作ったのですわ」
「水蒸気…。聞いたことないですね」
「結論から言うと、この3つは全て水です。ミル様、オウガスト様。固体、液体、気体という3つの言葉をご存知でしょうか?」
「ええ、知っています」
「はい」
ミル、オウガストは頷く。その答えにアウレイアも頷く。そこまで知っているのであれば話は早い。
「この3つが密接な関係なのはご存知でしょうか?」
その問いに2人は顔を見合わせた。
「…知らないですね」
「…俺も知らないです」
「わかりました。そこの説明から致しますね。固体、液体、気体は1つの物質が取る形なのです」
「形?」
ミルが腑に落ちないと言わんばかりに顔を顰めた。
「そうです。形ですわ。今目の前にあるのはどれも元は同じものです」
ルルアージュが指した先にある物は水、氷、水蒸気だ。
「この3つの元は水です。この氷を見てください。下に水ができていますわ」
「氷は水になるんですね」
オウガストが感心したように言った。アウレイアの生きていた前世では、氷を魔法で出し、飲料水に入れて冷たさを楽しみながら飲む、ということはあったが、この現代では氷を魔法で出して、口に含むという行為はしないように見える。周りを見ても氷を実際にそのように扱っているのを見ないからだ。魔法の詠唱は細かな調整が効かないため、氷魔法を小出しにして小粒の氷を出すということができないはずである。
「ええ、そうです。なぜなら、氷はもともと水だからですわ。氷というのは水が0℃以下、つまりすごく冷たい状態の時に固まったものですわ」
「なるほど。そのような感じで、この水蒸気も関係があるということですね?」
「オウガスト様の言う通り、水蒸気は水が100℃以上の状態の時、つまりとても熱くなった時に気体になったものですわ。この固体、液体、気体を状態変化と私は呼んでおります。なぜこのように状態変化するのかはまたさらに深くなってしまいますので今回は省略しますわ。この状態変化は先ほども申していましたが、温度の変化によって起きていますわ。水は通常の温度の時は液体の状態になる性質を持っていますわ。つまり、気体の状態の時の温度は熱いのです。魔力に置き換えますと、魔力は気体なのです。それを私たちが液体という状態に置き換えてあげるのです。イメージはついたでしょうか?」
「何となくですが、できた気がします」
「今ならできる気がします」
ミル、オウガストはそう言って『ウォーターボール』を唱えようとする。
ミルは見た。自分が魔力の塊をゆっくり水に変えているということを。そして、水の球が出来上がった。
「…」
無詠唱ができた。その嬉しさを表現する言葉が見つからない。
「ミル様もオウガスト様もとても上手にできましたね。でも、それでは、ただの水です。その水の塊を任意の方向に飛ばせるようになるのが『ウォーターボール』です。…さすがに室内で飛ばすのはまずいのでこれはまた今度屋外で練習致しましょう。その水の塊を今度は消してみましょう。手順は先ほどの逆で、その水を魔力の気体へ戻すというイメージで変化させてみてください」
ルルアージュにそう言われ、ミルは浮いている水の塊が魔力へと変わるのをイメージして魔力を操る。すると、水がゆっくり魔力へと変わっていき、やがてそこには魔力が泳いでいるだけになった。
「2人とも消せましたね。この工程は練習すればするほど無意識に、正確に、素早くできるので練習してみてください」
「…ルルアージュ様はどんな感じにできるのですか?」
ミルの問いにアウレイアは『ウォーターボール』を見せる。アウレイアは手のひらに様々な大きさの水の球を作り、それらをジャグリングしてみた。
「このように、小さい粒や、大きな粒など様々な形を出して好きなように動かせるのが無詠唱のメリットですわ。お二人もその内、このようにできると思いますわ。才能がありますから」
そう言われて、ミルとオウガストは練習を必ずしようと心に誓ったのだ。
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