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051 授業2/2


 お昼休みを挟み、4時間目は舞踊を行う。舞踊と言っても、舞踏会で踊るもののため、アウレイアは自然とベルンと組むこととなる。いつも彼女は上手でもなく、下手でもなく適当に踊っているが、ルルアージュのダンスはどのような上手さだったのか。ベルンはむすっとした表情で踊るため、読めない。しかし、なにも言われないことから、アウレイアと同程度の上手さだったのであろう。なお、アウレイアは前世でダンスを嫌ったために、必要最低限の踊りしか習っていない。

そんなことを考えながら、アウレイアが流れるような音楽に身を任せていると、足に違和感があった。下を見れば、ベルンが自分の足を踏んでいたようだ。ちらりとベルンを見れば、彼は悪びれもせずに口を開いた。


「おっと、すまない。わざとではない」


きっぱりと言ったその態度はわざとだと言わんばかりであった。恐らく、前の『覚えてろ』という言葉の通り仕返しをしたつもりなのであろう。やることが小さい。アウレイアはそう思った。ベルンはいつもイライラしている。なにが原因なのかはわからないが、きっとなにかがあるのであろう。それか、ルルアージュがそれほど嫌いなのであろうか。


「お気になさらず」


そう言ってアウレイアは失敗したと思った。ベルンの不機嫌度具合が増したのだ。もしかしたら、嫌がらせをさらりと流されたことに苛ついたのかもしれない。じゃあ、どう答えろというのか。アウレイアは少しイラっとした。ベルンは不機嫌になり、さらに足を踏もうとしてきた。アウレイアはそれを見て自然に足を動かす。足を避けられたベルンはさらに速く足を踏もうとする。アウレイアはそれを横目で見ながら華麗なステップで避けた。

アウレイアは元軍人である。体の効率的な動かし方は誰よりも知っていると自負している。また、ルルアージュの体はアウレイアが毎日鍛錬を行っているため、引き締まり、そこら辺の平凡な軍人がルルアージュの身体能力に勝つということは難しいであろう。

そんなアウレイアが本気を出せば、ベルンに足を踏まれるなんてことはない。ベルンは頑張って足を踏もうとするが、踏むことができないことに余計に苛立っていた。


ふと、音楽が終わりへと近づいた。舞踊という名の足踏み勝負を終え、お互いに礼をする。そして、終わりと同時に周囲の様子がおかしいことにアウレイアは気が付いた。よく確認すると、クラスの生徒全員がこちらを向いていた。一体どうしただろうと、ベルンに顔を向けると、彼もわからないようで相変わらずイライラした表情をさらに顰めた。そこへ、教師が拍手をしながらやってくる。


「お二方とも、とても素晴らしいダンスをありがとう。見事な足捌きに華麗なステップ。他の人が思わず足を止めてしまうほどのダンスでした。あなたたち2人はとても仲がよろしいのね」


その教師の拍手に他の生徒も加わり、絶大な拍手をもらいアウレイアはベルンを見た。彼はものすごく嫌そうな気持ちを隠し、ありがとうございます、と微笑んでみせた。アウレイアもそれに倣ってにこりと微笑んだ。

どうしてこのような流れになったのであろうか。


5時間目は剣学である。いつも通り、剣学を行うための服へ着替え、剣術室へと向かう。剣学では剣の打ち合いが次第に増えていて、内容がより実践的になってきている。今日も簡単に素振りを行い、ペアでの打ち合い、そして試合。試合は成績がつくだけあって最近は和気藹々の空気が消え、殺伐とした空気になってきている。和気藹々としていたときから全力で取り組んできたリリアージュとそれに付き合っていたフェリシアと戦うことだけは避けたい。そこで白羽の矢が立ったのはアウレイアだった。彼女は剣学の授業の前半のほとんどを欠席している。そのため、剣術が一番下手で勝ちやすい令嬢のトップに君臨している、と令嬢たちは考えた。彼女と戦うと勝てるに違いない。誰もがそう思っていた。実際にリリアージュとルルアージュが戦ったら100%の確率でリリアージュが勝つのだ、と。


「では、本日初めの試合はマリア―ヌさんとルルアージュさんです」


 そう指名されたマリアーヌは心の中で歓喜した。相手がルルアージュ。それだけで勝ちは確定だ。周囲もマリアーヌに羨ましそうな視線を送っている。

 アウレイアは初めて試合を指名され、戸惑っていた。マリアーヌはどの程度の力を持っているのだろう。


「両者共に木の剣を持ち、この円の中に入ってください」


レイアーシュがそう言って木の剣をアウレイアとマリアーヌに渡した。アウレイアはその剣をまじまじと見つめた。持った感じ、いつもと同じ剣である。

 2人は指示通り指定の円に入る。


「では、両者構えてください」


レイアーシュの掛け声で、アウレイアとマリアーヌは胸より上で剣を構える。


「はじめ!」


その呼びかけで真っ先に動き出したのはマリアーヌだ。ゆっくりとした足取りで近寄り、両手で剣を握り、上から一気に振りかぶった。その隙に胴体を狙えてしまうほどの体の開きにアウレイアは思わず固まった。そのため、反応が遅れ、片手でマリアーヌの剣を受ける。

 カシャンという木がぶつかる音で剣が重なる。アウレイアはあれ、と思った。剣に力を入れなければと思ったのだが、マリアーヌから力が全く伝わってこないのだ。これでは、アウレイアが少しの力を入れれば、マリアーヌを押し負けさせることができるであろう。


 一方のマリアーヌは頭の中がパニックになっていた。自分は両手で剣を握り全力で押している。そして、自分の剣が上なのだから明らかに有利のはずである。だが、ルルアージュは片手でやすやすと自分の全力を受けて、なんともなさそうな顔をしているのだ。こんなのは…絶対おかしい。

このままではジリ貧だ、とマリアンヌは力を抜き、剣を上へと引いた。そして、そのまま上から下へと彼女目掛けて振り下ろした。ルルアージュは今度こそ両手で剣を受け止めた。先程と同じようで全く違う剣の押し合いに負けたのはルルアージュだ。彼女の抵抗する力はどんどん弱まっていき、とうとう、マリアンヌの木の剣がルルアージュの首を掠った。


「そこまで!勝者、マリアンヌさん」


「さすがですわ!マリアンヌさん!」


マリアンヌの友人のリサエリカがそう言いながらマリアンヌに駆け寄った。周囲もマリアンヌに暖かい拍手を送っている。

 だが、マリアンヌは納得いかなかった。先程の試合の最後の方、ルルアージュは明らかに手を抜いていた。緩くだが、毎回の授業へきちんと出ていたマリアンヌである。ルルアージュは授業の半分を出席もしないで遊んでいたのだ。そんな彼女が自分より強いこと、さらにそれをわざと隠していることがマリアンヌのプライドを傷つけた。


「ありがとうございます、リサエリカさんやみなさんが応援してくださったからですわ」


マリアンヌは笑顔を作ってそう返して、ちらっとルルアージュを見た。彼女はどうやらレイアーシュに怪我の具合を見られているようだ。


「首のところが少し赤く引っかき傷のようになっていますね。治癒の魔法をかけますか?」


レイアーシュにそう尋ねられたアウレイアは首を横に振って治癒の魔法を断った。首の擦り傷は少しヒリヒリするが、それだけである。こんな小さな傷は薬草をすりつぶしたものをぬればすぐ治るのだ。


「大丈夫ですわ。この程度の傷はすぐに治りますので」


「…そうですか。本来、怪我をするというのは令嬢にとって致命的なものです。ですが、次回までに治っているのならば、見逃すこととしましょう」


レイアーシュはルルアージュの言葉に少し驚いた顔をしながらも、最後は微笑んで返事を返した。


「では、次の試合へ移りましょう」


レイアーシュが次の試合の名指しをしていると、リリアージュがアウレイアに近づいてきた。


「お姉様、傷は痛くありませんか?私が『治癒』で治しましょうか?」


リリアージュは心配してくれているのかそう尋ねた。アウレイアはリリアージュへこう返した。


「お気遣いに感謝しますが、この程度のかすり傷を『治癒』で治すのは忍びないですわ」


「ですがお姉様。かすり傷でも痛みはありますわ」


「…痛みは少しありますが、この程度、部位欠損よりは痛くありませんわ。なので、必要ないですわ」


「…部位欠損、とはなんでしょうか?」


アウレイアはリリアージュの質問で、彼女がかすり傷程度を必死に治そうとしている理由がわかった。彼女は傷をかすり傷しか知らないのだ。無理もない。公爵家の令嬢で、蝶よ花よと育てられたリリアージュに当然両親は負のものを教えない。恐らく、血や生傷など見るに堪えない傷というものの存在自体を知らないのだ。

よって、アウレイアは悩んだ。彼女に残酷な怪我があることを教えてもいいのだろうか。いや、教えたらきっとベデルギス家にリンチにされる。アウレイアは取り繕った笑みを浮かべて言った。


「なんでもありませんわ。やっぱり、疲れたのでこの授業は先に早退させていただきますわ。レイアーシュ教授、申し訳ございませんが、体調不良のため、授業を早退させていただきますわ」


レイアーシュの反応も見ずにアウレイアは教室を出た。



 6時間目は算学である。アウレイアは教室に戻ってきたリリアージュに何か言われないか心配でたまらなかったが、話しかけてくることはなくなった。なお、首の傷には薬草の絞ったものを塗っておいたので、次第に治るであろう。

 この国の算学のレベルはアウレイアが生きていた前世と比べて平均レベルである。だが、かつての時代に比べて今は大分衰退しているらしく、この国の算学レベルは現世と比べるとトップレベルになる。

アウレイアは黒板に書かれた数字を目で追って溜息を吐いた。アウレイアがいくら軍人と言えども、上部に所属していれば、勉強の必要があった。その中で算学は最も好きではなかった。なぜなら、意味がわからないからだ。xが5でyが4の2次関数が果たして何を示しているのか、脳筋のアウレイアには理解できない。世の中の算学者には尊敬の言葉以外出てこない。


「ここのところをマヂアドべの法則を用いて…」


理屈的に何となくわかるが、やはり進んでやろうと思わない分野である。



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