050 授業1/2
1時間目は魔法学の授業だった。当然、魔法を使えないと認知されているルルアージュは当然見学である。いつも通り、用意された椅子に座り、授業の様子を眺める。生徒は属性によってそれぞれ相性のいい魔法が違う。そのため、個人によって出される課題は違うようだ。話しているのを盗み聞きした限りだと、属性ごとに魔法の課題が出ており、先生にアドバイスをもらいながら、挑戦していくシステムらしい。
アウレイアは椅子に座りながら、リリアージュを見た。どうやら魔法の課題も属性の相性がいい人程有利らしく、彼女は聖属性の課題を楽々とこなし、進度は1番だという噂だ。彼女の魔法を見るにどうやらそれは間違いないようだ。高度な魔法は長い文章によって初めて唱えることができる、と考えているこの国の魔法言語学の観点から、かれこれ3分も詠唱を行っているリリアージュは大きな魔法を練習しているのであろう。しかし、よくそんな長ったらしい文章を覚えているなとアウレイアは尊敬の目で眺めていた。よくよく見れば、王子、ベルン、宰相の息子も長々と文章を唱え続けている。
ふと、リリアージュの詠唱が終わったようだ。
「神の裁きを、『レイオブライト』!」
刹那、目もくらむような光と共に一筋の光、いや、光線が地面を焼いたのをアウレイアは確認した。彼女の魔法発動と同時に他の生徒は詠唱を止め、思わず固まってその光景を見ていた。リリアージュは自分が唱えた魔法が上手く発動したことが嬉しかった。
「先生、『レイオブライト』の課題をクリアしたので確認をお願い致します」
すぐに教師のところへ行き、魔法の確認をお願いするリリアージュを見て、アウレイアは熱心だなと思った。
2時間目の授業は術式学である。アウレイアは教師に指摘されて以来、教科書とノートを広げている。なお、ノートに教師の言葉を書いたことはない。
「では、今日は前回学習した風の魔法陣に水の魔法陣を足して、水の渦を作る魔法陣の作成をしましょう」
最近、アウレイアは『シティーレアの会』でオウガストとミルに術式について教えている。それは、この学園のものではなく、アウレイアが使っている術式だ。やはり、この学園の術式は簡単にできる術式を難解にしてしまっている。そのため、アウレイアは2人へ術式を教える場合は、学園の魔法陣と、自分が使っている魔法陣の両方を教えている。最近では、ミルもオウガストも魔法陣に慣れ、学園での術式学でも上の方に来ているとアウレイアは感じている。感じているだけで実際に彼らがこの授業をどうしているかはアウレイアにはわからない。
「では、ルルアージュ嬢、この水の渦を作る魔法陣に何かプラスして、新たな魔法陣を作ってください」
アウレイアは名前を呼ばれてハッとした。『シティーレアの会』について考えていたため、全く話を聞いていなかったのだ。アウレイアはちらっと黒板を見た。
相変わらず複雑な魔法陣が書いてある。難問と、他の生徒は感じているのであろう。もし、アウレイアがわからない、と言った場合に指されることがないように顔を伏せて教師と目が合わないようにしている。または、教師に指された時のために必死で考えている。アウレイアは何も考えずに立ち上がった。
椅子が引き、立ち上がる音を聞いてリリアージュは考えるために動かしていた手を止めて、ルルアージュを見た。彼女は面倒そうに、しかし自信があると言わんばかりに堂々と黒板まで歩いて行った。そして、チョークを手に取り、水の渦を作る魔法陣になにかを書き加え始めた。出来上がったそれは、魔法陣に魔法陣を少しずらして重ねたものであった。
「できました」
ルルアージュが書き足した魔法陣は、リリアージュが見たことのない物であった。どうやら、教師はわかったようで、頷きながらルルアージュに説明を求めた。
「…この魔法陣は?」
「はい、この魔法陣は、水の竜巻の魔法陣です。水の渦は、大量の水を主に指定して、風でかき混ぜる魔法ですが、水の竜巻は風を主に指定して、水をかき混ぜます。この2つの魔法はとても似ていますが、魔法学的には性質が異なっています。ですが、魔法陣学的に形態は似ているため、メインをどちらにするかによって、簡単に魔法を変えることができる便利な魔法陣です」
「とても、見事な回答です。アウレイア嬢、こちらは教科書を読んだのですか?」
「ええ、そうですわ」
アウレイアはそう笑顔で堂々と答えた。教科書を熟読したわけではないが、前世の記憶と照らし合わしながら、魔法のズレを認識したのだ。
「予習をするのはとても良いことだと思います。この調子で頑張ってください」
教室がざわりとする。あのルルアージュが褒められた。それは教室中に激震が走る出来事であった。そんな中、アウレイアは机に戻っていった。
説明の中で述べたが、あの魔法陣はメインをどちらかにすることで変更できる魔法陣である。そのメインを決めるのは本当に小さな魔法文字である。水か風か、属性を変化させるとその魔法への対応も変わる。この魔法陣は臨機応変で属性を変更できるため、戦場でとても有効であった記憶がある。前世の方が、書き方はもう少し簡単だったが。アウレイアはそう考えながら、教師の説明を聞き流していると、視線を感じてそちらを見た。視線の主はベルンだった。彼は調子に乗るなと冷たい視線を向けている。アウレイアは面倒くさそうに肩を竦ませた。どうやら、イラつかせたらしい。
「あとで覚えていろ」
彼は小声でボソッと物騒な言葉を投げかけた。一体何を覚えておくのか、アウレイアには見当もつかなかった。
3時間目は国学だ。この授業では主にこの国、ラレリール王国の歴史と地理を勉強する。貴族として歴代の王、どこにどの地域があり、どんな特色があるか、主な出来事など分野は多岐に渡る。その中で、今回の授業は地理で、西の方角にある地域がどのような作物を作っているかについてを行うらしい。アウレイアにはとてもどうでもいいことだったため、授業の内容は割愛する。