044戦い
南西へ向けて進んでいる最中、アウレイアはいくつもの種類の薬草を見つけた。『体力を回復する』薬草、『傷を治す』薬草、『魔力を回復する』薬草、『精神を強くする』薬草。まさに薬草宝庫であった。
「…アウレイア。さっきから何してんの?」
ミルが冷たい目でアウレイアを見つめた。
「へ?」
アウレイアはミルがどうしてそのような目で見るのか理解できなかった。なぜなら彼女は無意識に薬草を拾っているからだ。
「それ」
ミルが指さした先は自分の手。アウレイアは自分の握られている手を開いてみた。どうやら、薬草が握られている以外に変化はない。首を傾げれば、ミルがいやいやいや、と手を横に振っていた。
「雑草を歩き際に拾って集めていくのはおかしくない?」
「ミラージュ。これは雑草ではない。重要な兵糧なの」
「ひょ…兵糧…」
そんな兵みたいな言葉を聞いて、ミルは口を引き攣らせた。
「はは、アウレイアはなかなか面白いな。ラジーと同じ宗教であるわけだ」
ミゼルがそう言って笑った。アウレイアはその瞬間に魔物がこちらへ近づいてきているのを感じ取った。依頼の魔物の集団である。
「よし、この辺でまたメディアにお願いすることにする。メディア、もう大丈夫か?」
ラジーがそう言ってメディアを気遣うように見た。メディアはもう大丈夫だと頷く。もし、魔物がこちらを嗅ぎつけて一目散に来ているのならば、メディアが疲れ切っている時に魔物がやってくることになる。それは、パーティーとしても悪い展開になる。避けられるならその展開は避けるべきだ。
「も、もうちょっと行ってからでいいのでは?」
アウレイアはそうラジーに話しかける。そうか?と首を傾げるラジー。その後ろにいるメディアが恐ろしい顔でアウレイアを睨んでいた。あの美しいメディアの変わりようにアウレイアは驚いていた。いったいなぜ自分を睨むのか。
そこでアウレイアは彼女はどうしても魔法を使いたいのだという仮説に至った。きっと、『周辺探知』の魔法の距離をもっと伸ばしたいと思っているのであろう。そんな彼女の訓練をアウレイアは邪魔してしまった。そういうことなのではないだろうか。ならば、せめて魔力をできるだけ回復してあげられるようにしておこう。アウレイアはそう考えてメディアに対してにこりと笑った。そしてラジーをに対して口を開いた。
「あ、やっぱりどうぞ」
アウレイアの意見の変わりようにラジーは戸惑ったように首を傾げた。
「アウレイアもそう言っているし、うちも大丈夫だから」
「そうか。じゃあ、メディア。申し訳ないが、よろしく」
「光の女神よ、我に力を与えたまえ。この我の周辺に害のあるものを見せたまえ。『周辺探知』!」
メディアはそう魔法を発動すると、隅に複数の魔物の反応が引っ掛かった。息を切らせながらもラジーに報告する。
「ラジー。…どうやら、もう少し南西奥側から魔物が数体やって来ているのを確認」
ラジーはそれを聞いて一瞬アウレイアの方を見た。
「…そうか。ありがとう。全員戦闘態勢を。メディアは…しばらく休むか?魔力が回復したら、戦闘に復帰してくれ」
「…了解」
メディアは後悔とラジーの役に立てた喜び、2つの感情が入り混じっていた。後悔はアウレイアの提案を却下し、『周辺探知』を使ったことで、戦闘へ参加がしばらくできないことだ。喜びは魔法を使うことで魔物を簡単に見つけることができ、役に立てたことである。そして、ラジーに心配をしてもらえたことも含まれる。この感情を抱えてメディアは静かに腰を下ろした。そして静かにラジーを見つめた。
ラジーはメディアが言っていた方角を見つめた。ささやかな風が吹く程度で他は特に違いが見られない。そのため、魔物を待ち構えて襲撃する方針にしようと考えた。そう指示をメンバーに出して、魔物を待機している間、ラジーは考えた。
初心者のあの3人についてである。オウゼリアの秘密兵器と言っていた、あの棒倒しは魔物の方角を見事に言い当てた。偶然であるとしても、魔物の方角を一発で言い当てるのはかなり確率が低い。ただ、棒倒しを突然提案しだしたのはアウレイアである。彼女は魔物を察知する能力があるのではないかとラジーは考える。先ほどの魔法を止めさせようとしたのもそうだ。彼女は魔物が近くにいて、メディアが戦えない状態になるのを恐れていたのではないであろうか。だとしたなら、魔物を察知する能力とはどのようなものであろうか。メディアの『周辺探知』でさえ察知できなかった魔物を彼女は察知できた。メディアは冒険者の中でも一番の『周辺探知』魔法の使い手だ。この国の中でも一番なのではないかとラジーは思っている。そんな彼女を軽く凌駕しているアウレイアは一体何なのであろうか。
そこでふとラジーはアウレイア教の聖書を思い出した。
『第8項1課 神は全てを見通す魔法持つ。故に戦で勝ち進んでいった』
聖書の言葉は基本、魔法や戦術、生き方と当時の人々の様子を細かく綴りながら、女神のことを述べていた。アウレイア教の人々はこの聖書を解読し、魔法や戦術、生き方を学んできた。この第8項はあやふやで壮大な記述が多いため、これが本当に実在するのか、と研究者たちは首を傾げた。1課の魔法は特に実現性の低い魔法として知られていた。魔法自体は『周辺探知』であると解明されていた。しかし、その魔法はかなりの魔力を使うことになる。そして、範囲を広げれば広げるほど、自身の意識が薄れていき、次第に昏睡状態になる。最悪そのまま死に至るという実験結果が発表され、神による御業と宗徒間で噂になった。
だが、もし彼女がその魔法を使って魔物を、人を察知しているならば、彼女は女神の化身の可能性も想定される。
ラジーはそう考えるのを中断して、前を見据えた。微かにだが、魔物の呻き声が聞こえた。すると、風が強くなり、大きな影が頭上を通過した。そこでラジーは素早く魔法を使った。
「大地を吹く風よ、この地に平穏を!『エアシールド』」
ラジーを中心に大きな風を司る盾が展開された。そして、すぐ後に大きな尻尾がシールドに向かって叩きつけられた。ラジーは魔法の盾がひしゃげる様子を見てほっと息を吐いた。もし、自分たちにあれが当たっていたら全滅していただろう。空からの一方的な蹂躙。ワイバーンはやはり強い敵であるということが分かった。ラジーは後ろを見つめた。驚いて尻もちをついているミラージュ、真っ青な顔で攻撃をしてきたワイバーンを見上げているオウゼリア。彼らはあれ程の魔物を見たことがないだろう。怖い思いはさせてしまって申し訳ないという気持ちが込みあがるが、そこに蓋をして見ないふりをする。先輩冒険者の動き方、魔物がどのようなものか、新人冒険者には実際に目で感じてほしい。
ワイバーンの攻撃の後にすぐさまゴブリン3体、オーク2体が木の陰から姿を現した。
「よし、全員戦闘準備!敵は依頼の通り。作戦通りにやってくれ」
ラジーはそう指示すると、ワイバーンに向かって詠唱し、魔法を放った。そして、『纏火』を唱え、大きな剣背中から抜いた。
7/20 本文が2重になっているのを修正。ご迷惑をお掛けしました。




