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043討伐依頼

 次の休みの日、アウレイアはミルとオウガストと冒険者ギルドへ来ていた。もはや来るのには慣れたもので、来るなり依頼がないか掲示板を見に行く。


「お、アウレイアにミラージュにオウガストじゃないか!数日ぶりだな。今日は依頼でもするつもりなのかい?」


掲示板の前にはラジーがいた。前と変わらず、鉄の胸当てと黒いズボンを身に着け、緑色の髪を短く刈り上げている。


「お久しぶりです。ラジーさん。お元気でしたか?」


アウレイアがそう尋ねれば、ラジーは大きくもちろんと頷いた。


「ラジーさんも依頼を探してるんですか?」


「ああ。依頼っていうか、依頼を一緒に受けてくれる人を探していたという感じだな。まあ、単純に君たち、今から俺らと一緒に森での依頼を受けない?」


オウガストがそう尋ねると、ラジーはそう聞き返してくる。そのタイミングで丁度良くミゼルがやってきた。


「おや、なんか何日か前に見ていたような…。あ、アウレイアとオウゼリアとミラージュか!」


そう言って元気そうにミゼルは笑顔を見せた。そして、彼はそのままラジーさんに顔を向け、頷いた。


「なあ、三人とも。俺たちと一緒に依頼を受けてみないか?冒険者の動き方とか教えてあげられると思うぜ?」


その言葉にアウレイアとミルとオウガストは顔を見合わせる。一番初めに動いたのはアウレイアであった。


「どんな依頼を一緒に受けるんですか?」


「先にそれを説明すべきだったな。北の森の中部付近に小さめの魔物のグループが見つかったらしい。それの討伐が今回の依頼だ。魔物の構成はゴブリンが3体、オークが2体。それと、ワイバーンが一体見られたそうだ。今依頼参加予定の冒険者は6人。君たちが入れば9人になる。俺とミゼルでワイバーン。他の3または4人でオーク。ゴブリンに君たちで考えているよ」


つまりラジーの言い方だと、一人一体のゴブリンの相手でどうだろうかということである。別にゴブリンなんて魔物はアウレイアにとっては目を閉じていても倒せるものだ。しかし、ラジーは1人1体で考えているのであろう。


「あ、アウレイアが2体担当で行けるんじゃない?違うかな?」


アウレイアが思考を巡らせているとそのような声が聞こえた。顔を上げればラジーが自分を見ていた。


「私が2体ですか?」


そう問えば、ラジーがにこりと笑った。


「アウレイア教の信者ならば、『纏火』が使えるはず。よって、ゴブリン2匹ならたやすい。違うかな?」


『纏火』。その単語を聞いてアウレイアは懐かしさを覚えた。魔法を使う者の初歩。魔法の練習及び訓練の初歩としてジェファール帝国ではこれをやらされる。周囲の魔力を集合させ、一つの塊として回す。慣れてくれば属性を付与して、回す。そして、その回す個数を増やしていく。ジェファール帝国魔法研究所は、優れた魔術師ほど、『纏火』の塊は大きく、色々な属性を同時に付与して回すことができるという結果を提出した。この『纏火』は戦術としても有効で、帝国独自の魔法育成方法のため、他国からは恐れられていた魔法だ。

アウレイアの友人にも優秀な魔術師がいた。彼女はこの『纏火』を好んで戦術として取り入れ、他国からは『歩く戦車』の名で通っていた。体外の魔力を余裕のある時に練り、『亜空間』に仕舞い込み、戦場では億を超えるほどの魔力の塊を放り投げていた。その塊は戦場で弾け、火災や水害、竜巻など自然災害を巻き起こし、敵を翻弄した。

ただ、それは彼女が特別なのであって、恐らくラジーの言う『纏火』は、ただの魔力の塊を物理的にぶつけるだけである。ジェファール帝国のその訓練をアウレイア教が受け継いだのであろう。実にアウレイア教は強かである。


「はい、1つしかできませんが使えますよ」


アウレイアはそう言って屈託のない笑みを浮かべた。その様子にミゼルは驚いた。


「ラジーと同じ魔法が使えるのか!?」


「俺が使っている魔法はアウレイア教の経典の最初に載っている魔法なんだ。前も言っていたろ?アウレイア様は『美の女神』でありながら『勝利の女神』という二つの名を持っている。勝つためにはどうすればいいのかが経典に書かれているのは当たり前だ」


「アウレイア教ってすごいな…」


ラジーの説明にミゼルは感心した。


「まあ、というわけで受けてもらえたりしないかな?」


ラジーがそう言って、アウレイア達を見た。先ほどの説明は彼女たちが一緒に依頼を受けてくれる前提で話していたが、まだアウレイア達は受けるとは言っていない。アウレイアはミルとオウガストを見た。

こちらが依頼を受けるメリットとしては、身近で強いとされる人の戦闘を見れること。経験を積めることだ。


「私はいいと思うよ」


「俺も」


「じゃあ、お願いします」


こうして、アウレイア達は一つの依頼を受けることにした。


 北の森は以前のように木々の色が濃く、陽があまり射し込んでこないため、仄かに暗かった。アウレイアは森の奥の方に敵意をまき散らしている魔物の集団がいることに気が付いた。恐らく依頼の魔物たちであろう。


「うし、あたいが『周辺探知』の魔法使うからちょっと待っててね」


そう言ったのは同じ依頼を受けたメディアだ。彼女は橙色の冒険者で短剣を攻撃の主体とした攻撃スタイルを持っている女性である。彼女は浅黒い肌を持っている。胸とお尻のみ黒い布を纏い、とても美しく、男であったなら目を奪われてしまうほどである。

 実際にオウガストは彼女を初めて見たとき数秒固まった。そんなメディアは目を閉じ、呪文のようなものを呟き始めた。


「光の女神よ、我に力を与えたまえ。この我の周辺に害のあるものを見せたまえ。『周辺探知』!」


そうメディアが唱える。その数秒後に彼女は全身汗だくになっていた。艶めかしい肌は汗でさらに妖艶になっていた。オウガストがごくりと唾を飲み込んだ。しかし、オウガスト以外の男性はなんら反応も示さなかった。


「はぁ、はぁ。周囲に魔物はいないみたい。恐らくもっと奥にいると思う」


「…そうか。ありがとう。今日はもう使えなさそうか?」


ラジーが気遣うような声でメディアに尋ねた。メディアは眉をしかめながらもしばらくしたら大丈夫であると告げる。アウレイアはそのやり取りの間、ミルとオウガストにじっと見つめられていた。『周辺探知』と、メディアが唱えた魔法のことであろう。前にアウレイアから教わった魔法と違うと言いたいのであろう。二人の視線を感じてアウレイアはミゼルに話しかける。


「ミゼルさん。『周辺探知』ってどんな魔法なんですか?」


「ああ、『周辺探知』は見たことないのか。あの魔法は主に索敵で用いられている。ただし、使う魔力も、集中力もすごい使うから、使う人は大変だ。メディアは探索を主に行っている冒険者で他の人よりも索敵範囲が広いからなんだ。その距離がまた今のところ冒険者の中で一番広くてなんと」


「なんと?」


冒険者の中で一番。つまり、自分よりも上の『周辺探知』なのかもしれない。アウレイアはそう考え期待を抱く。


「なんと、1㎞だ」


1㎞。その言葉を聞いた途端、アウレイアは心の中で肩を落とした。


「…1㎞」


思ったよりもしょぼい数字にアウレイアはがっかりした。…ということはアウレイアの

索敵範囲の方が100倍以上広いことになる。つまり、森の奥の方にいる魔物の集団に気づいていないのであろう。


「ラジー。もう治ったから大丈夫。しばらくは使えないけど、1時間ぐらい経てば大丈夫そう。とりあえず、森の奥へ進もう」


「よし、わかった。周囲に魔物はいないらしいが、一応警戒は怠らないで行こう」


そう言ってラジーは進みだす。魔物とは少し離れる方角へまっすぐと。


「え?」


思わずアウレイアは呟いてしまった。その声でラジーの足は停止する。


「アウレイア。どうかしたのか?」


「えっと、この森は広いのにどうして魔物のいる方向が分かるのかな、と思いまして」


アウレイアは笑って誤魔化した。初心者冒険者が「魔物がいるのはこっちですよ?ベテランさん」なんて言えるはずがない。言ったら、袋叩きにされそうである。…ラジーはしなそうであるが。

 アウレイアの言葉にラジーは困ったように笑った。


「実は、魔物のいる方向はわからないんだ。こういう依頼は大体端から探していくのがセオリーだ。魔物が見つからない限り、依頼は終わらないから何日も徹夜することがある」


「な、何日も!?」


ミルが思わず口を開いた。明日には学園の授業がある。明日までこんな薄暗くて怖い森の中でいつ襲ってくるかわからない魔物を探し続けるのは自分の精神的に無理だ。いや、発狂する。

 ミルの思考を大体読んだアウレイアはオウガストを小突いた。


「オウゼリア。秘密兵器の準備を!」


小突かれたオウガストは、はあ?とアウレイアを見つめる。


「いつも探検の時はやっているでしょ?枝倒して方角決めるやつ」


そう言って、地面に置いてあるほど良い大きさの枝を拾って、オウガストに向ける。そして、他の人に聞こえなさそうな声でこう囁いた。


「倒す向きは私の右足のつま先が向いている方向でお願い」


「…わかった」


オウガストがそう言って、枝を受け取った。よくわからないが、アウレイアに何かしらの考えがあってのことであろう。そう思い、オウガストは言われた通り、枝を真直ぐに立てる。アウレイアを見れば、彼女は頷いた。そして、アウレイアは何気ないように足を魔物のいる方向、南西へと足を向ける。オウガストはその方向へと枝を倒した。


「これはあっちってことね」


ミルがアウレイアの作戦に乗っかるように指を南西に向けた。


「この秘密兵器とやらで何が分かったんだ?」


「魔物のいる方角です。私たちはいつもこのオウゼリアの秘密兵器で魔物へと一直線で辿り着いているんです。この間はゴブリンを無事に見つけました」


「闇雲に探すよりはこちらの方が早いんじゃないですか?」


アウレイアとミルの言葉でラジーは悩みながらも南西へ向かうことを決めた。


いつも読んでいただき、ありがとうございます。

前にこっそり、誤字報告の欄にチェックを入れてみたところ、多くの方が優しく間違いを教えてくださり、とても嬉しかったです。同時に誤字の多さにも「たは~」となりましたが。

いつも誤字報告や感想ありがとうございます。これからもよろしくお願い致します。

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