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038 アウレイア教の信者

 「ゴブリン退治お疲れ様です。討伐依頼は無事手続き完了です。こちらが依頼料になります」


そう言われ渡されたのが石板5枚である。3の倍数でないため、きれいに割れない。


「じゃあ、オウゼリアとミラージュ。2枚どうぞ。今日は二人のお陰で倒せたから」


「え、アウレイアがいたから倒せたんだよ?」


ミルがアウレイアが差し出した2枚を押し返そうとする。


「成果主義だから、成果を出したのはミラージュでしょ?」


そう言ってアウレイアはミルに石板を2枚乗せた。


「レディーファーストでは?」


オウガストがそう言うがアウレイアは首を無言で横に振った。この対応の差にオウガストは、


「なんか俺だけ対応冷たくないか?」


と小さく呟いた。すかさずアウレイアがそんなことない、と返していた。そこへ、一人の男性がアウレイア達に声をかけてきた。


「失礼、今、アウレイアという名前が聞こえたんだが」


話しかけてきた男性は緑色の髪を短く刈っていて、鉄の胸当てに黒いズボンを身に着けていた。突然やってきた男性に三人は視線を向けた。その視線をどう読み取ったのかわからないが、男は髪を掻きながら、目を逸らした。


「ああ、すまない。俺はラジー。君らと同じ冒険者さ。ある女神の名前が聞こえたので思わず話しかけてしまった。もしかしてその宗教の信徒なのではないかと思ってね」


アウレイアという初めて聞く女神の名にミルとオウガストは顔を見合わせた。この国はかつての巫女、シレストレーゼを祀る光教とかつてこの地を救った英雄であるメリアドを祀る救済教の二つの宗教が存在している。その他の宗教はこの二つの宗教によって、掃討され、現在この二つの宗教は手を組んでいて、王国内の宗教を独占している状態である。

 よって、アウレイアという女神が存在すると言っているこのラジーという男はひっそりと主要2派以外の宗教を信仰しているのであろうか。それとも国外から来たのであろうか。幸い周囲にはほとんど人がおらず、ラジーも曖昧な表現で聞いてきていることからばれはしないであろう。ミルとオウガストの思案に気が付いたのであろう。ラジーがにこりとして二人に話しかけた。


「宗教の話は冒険者ギルドでは自由なのさ。それに、冒険者は他国からもやってくる。いちいち他国からやってくる冒険者にお前の宗教禁止だからみたいなことを言ったところで、じゃあ、お前の国行かんってなるだろ?そのため、冒険者ギルドは宗教の話ができるのさ。で、アウレイア様って、俺が住んでいる国の辺りの宗教なんだが、女神の名前なんだ。で、美の女神、勝利の女神と呼ばれているから、子供が美しく、強く育つようにとたくさんの人がアウレイアと名前を付けているんだ。だから、その名前を聞いてその宗教に入っているのではないかと思ったんだ」


「なるほど…。確かに私はその宗教に入っていますね」


「あ、アウレイア!?」


アウレイアの言葉にミルが驚き、声をかける。この名前は仮の名前であって、本当の名前ではない。では、この名前を名付けたのはと聞かれたら、ルルアージュである。ルルアージュの両親は公爵家。根っからの光教の宗徒である。その娘のリリアージュ、ルルアージュ共に光教に多大な寄付をしているとして、光教の寄付者一覧に名を連ねている。そのため、ルルアージュが光教以外の宗教に入っているということはあり得ないのだ。つまり、アウレイアは嘘をついたことになる。


「やっぱりかい!?同志に会えて嬉しいよ。アウレイア様の教会はレジアーナ国にしかなくて、参拝に行くのが難しいけど、アウレイア様は優しいから、遠くから拝んでいてもきっと許してくれるし、この国にもいると思ったんだ」


「あ、あの…」


女神アウレイアについて熱弁するラジー。ミルが何か言いたげに声をかけるが、気づかず。


「レジアーナという国にあるのは初めて知りました。いつか教会に行ってみたいです」


アウレイアはにこりと笑ってラジーに言葉を返した。その笑顔を見て頬を赤らめるオウガスト。神に祈るように両手を合わせて天に向かって上げるラジー。ミルはその光景を見て顔を天に向けた。


「…なにこれ」



 神に向かって祈るラジーに向かって一人の青年が来ているのをアウレイアは視界に入れた。赤色の髪を肩ほどまで伸ばして茶色いチョッキに茶色いタターンのズボンを履いている青年だ。彼はギラリとした赤い瞳をラジーに向けている。生憎、ラジーは背を向けているので気が付いていない。一歩一歩ゆっくりとこちらに進んでくる青年にミルとオウガストも気が付いたようだ。青年の視線から誰に向かって来ているのかを察した二人は無言でラジーを見つめる。ラジーはそのことに気が付かずに両手を合わせて頭上へ掲げている。正直言ってかなり目立っているとアウレイアは感じた。冒険者ギルドに用がある人が入ってくる度、ラジーを凝視している。

とうとう青年がラジーの肩を掴んだ。


「ラジー。お前なにしてんだ。また宗教の話でもしていたのか?その宗教はいろいろと文化があって面白いが、この辺には他宗教の勢力が強すぎて新宗教に対して排他主義なんだ。アウレイア教もいいとも思うが、ここでの宗教活動はやめておけよ。それに今お前注目の的だぞ」


ラジーは手を下ろし、静かに青年を見つめた。


「…ミゼルか」


そう呟いてラジーはミゼルの手を掴んだ。そのままその手を両手で掴んだ。


「聞いてくれ!」


「い、一体どうしたんだよ。ラジー…」


ラジーの勢いに若干引き腰になりながら、ミゼルはラジーに尋ねる。


「あう、アウレイア教の信者がここにいるんだ」


「そ、そうか」


ラジーの言葉にあっさりとした反応を示すミゼル。


「おい!もっと驚けよ!」


「いや、よかったなと思って。お前、仲間ができたんだな」


「…ミゼル。お前…」


ラジーが感動したように言葉をつぶやいた。ミゼルはその様子を見て照れ臭そうに頬を掻いた。


「で?お前の宗教仲間は?」


ミゼルは恥ずかしい気持ちを隠してラジーに尋ねた。ラジーはよくぞ聞いてくれたとばかりに頷き、アウレイアを勢いよく指した。


「彼女だ。名はアウレイア」


突然指差しされたアウレイアは驚いたように肩を少しだけ上げた。ラジーとミゼルの友情物語を傍観者の気分で見ていたアウレイアはいきなり自分を物語の中に入れられてびっくりしたのだ。


「ほう…なかなか可愛い娘って、アウレイア?それって女神の名前だったんじゃ?」


「…ミゼル。俺の話を真剣に聞いてくれるな、と感心していたけど、聞き流していたな?」


ラジーの言葉にミゼルは視線をゆっくりと逸らした。


「…それは置いておこう。彼女はアウレイア。両親がアウレイア教徒で彼女もアウレイア教に入信したそうだ」


「なるほどな」


ミゼルはアウレイアをじっと見つめた。目が合ったアウレイアはとりあえずお辞儀をしておく。


「礼儀正しい子だな。俺はミゼル。この国の出身だ。ランクは赤札。上から三つ目だな。…ところで、こいつは自己紹介したか?」


ミゼルはラジーを親指で指し、アウレイアに問いかけた。


「はい。ちゃんとしてましたよ。私はアウレイアです。同じくこの国出身で、つい最近冒険者になったばかりの青札です。この二人はミラージュとオウゼリアです。二人とも一緒に行動している仲間です」


ほう、と頷きミゼルはミルとオウガストを見つめた。オウガストは目を輝かせてミゼルを見つめていた。上から三つの赤札。それは、どれほどの強さかはわからないが、8つある札の3番目。少なくとも半分よりも上ということだ。ミゼルからにじみ出るオーラが強者であるということを物語っている。

 熱い目で見られていることを感じ取ったミゼルはふっ、と笑った。


「冒険者の中で金札は幻の存在として扱われていて、滅多にいないからな。今のところトップは実質銀だ。赤は次点として強者の中に入るだろうが、俺はその中でも弱い方だろう。この場で俺より強いのはラジーだな。あいつは十数人しかいない銀札の一人だ。その中でもトップを争うぐらいの実力だな。代わりに宗教に関してうるさいのが問題だが。俺はラジーとよく組ませてもらって実力を積んでいるんだ。ラジーはああ見えて、しっかりしていて、面倒見がよくてな。お願いすればあいつの剣術を教えてもらえるかもしれない」


「本当ですか!?」


オウガストは驚いたようにラジーとミゼルを見比べた。オウガストの視線にラジーはにこりと頷いた。


「アウレイアにも会えたし、今日は景気がいい。良ければ、一緒に依頼でもしないかい?あ、それともそろそろ帰るのかい?」


ミルとオウガストはアウレイアを見つめた。アウレイアは首を縦に振った。残念ながらそろそろお迎えの時間なのだ。ライネルが馬車を走らせている頃であろう。


「せっかく声をかけてもらったんですけど、今日は家に帰って別のやることがあるんです」


「そっか。それは残念だな。俺とミゼルは毎日この辺りにいるから、見かけたら声をかけてね。じゃあ、ミゼル。ちょっと森へ行ってこようか」


ラジーは冒険者ギルドの外を示して、アウレイア達に手を振った。アウレイア達もラジーに対して手を振る。ミゼルは歩きながらも後ろへ向かって手を振った。

 ラジーという信者に会えて、アウレイアはとても嬉しかった。彼が天に祈るような仕草を目にしたとき、心がとても温かくなった。それはなぜなのだろうか。今度ユーリファに聞いてみよう。アウレイアはそう思案して、オウガストとミルに話しかけた。


「ごめんね。私の家の門限が厳しくて。というわけで、帰ろうか」


アウレイアの言葉で三人はギルドを出て歩き始める。


「大丈夫だよ。すごい人だったんだね。ラジーさん。あんな特徴のある人が強いだなんて、まるであのせ…」


「ミラージュ、それは少し違うと思うな」


ミルの言葉に被せるようにオウガストが指摘を入れた。せ…なんだろうか。


「ところで、アウレイアはラジーさんとどっちが強いと思うの?」


ミルの言葉でアウレイアは思考を止めた。


「ラジーさんとどっちが強いとは誰と?ミゼルさん?」


「アウレイアだよ」


ミルの言葉にアウレイアは首を傾げた。


「ミラージュ、私はしがない青札冒険者。ラジーさんは銀。天と地ほどの差が明らかにあると思うけど?」


「ドラゴンとやりあって無事なアウレイアもどうかと思うけどね」


ミルの言葉に、アウレイアは肩を上げて困ったような顔を浮かべた。


「そんなこともあったようななかったような…」


「もう忘れている時点で大物感がすごいぞ。アウレイア」


「いやいや、ラジーさんでもドラゴンとやりあえるでしょ。銀札でしかもその中でトップを争っているということは、相当な腕前じゃない?買いかぶりすぎだよ。」


「そうやって謙遜するアウレイアは流石だと思う」


ミルの言葉にアウレイアは反論しようとするが、そこでいつも集まっているところへ着いてしまった。3人はまた次の部活で何をするのか話して解散した。



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