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032 報酬と逃亡

アースドラゴンとの戦闘の場まで来たアウレイアは現状を目の当たりにして戦慄していた。4人は既に死に行く寸前であり、アースドラゴンは周囲の木々を薙ぎ払って彼らにぶつけようとしていた。そして、アウレイアとアースドラゴンの視線が交わる。先に動いたのはアースドラゴンだ。新たな元気な生命体を目の前に特攻。目の前まで走って来たアースドラゴンに対し、アウレイアは容赦のない魔法を発動した。


「『氷塊』」


アウレイアの鼻先幾らかというところでアースドラゴンは急停止した。体の胴体を貫き高くそびえる大きな氷の塊が地面から生えて、心臓もろとも縫いとめられたのである。もうドラゴンには意識もなかった。通常の魔物はそこで即消滅するが、今回は違った。恐らく、この森の主であろうアースドラゴン。通称はボスと呼ばれるが、ボスは他の魔物と違い、死体が残る。よって、そのまま縫いとめられたまま、残ったのだ。

 アウレイアはアースドラゴンが動かないのを確認し、冒険者たちを見た。心臓は止まっているかもしれないが、これくらいならなんともないだろう。そう判断したアウレイアは一人一人に近づき、治癒を開始する。

 一人目の冒険者は心臓には達していないものの胸からお腹にかけて大きな傷跡があった。出血も大きく、意識はなかった。そして腕もない。アウレイアは亜空間魔法を使い、ポーションを取り出した。そのポーションを豪快に傷口にかけた。このポーションは『傷を治す』薬草に『元に戻そうとする』薬草、『体力を増やす』薬草を混ぜ込んだものだ。『傷を治す』だけではあまり効果がないことから、傷がついた細胞に働きかけ、体力を上げることで一気に治すというポーションだ。アウレイアはこのポーションを一人一人にかけたり、飲ませたり、要所を治す最適なポーションの使い方をしていった。さらに、心臓が動いていない者には『蘇生』魔法をかけていく。この魔法は、死んで1日以内ならその人物に対して使える魔法である。そして、一巡した後に、また傷の具合を確かめる。どうやら効いたようで傷が塞がりかけている。無いパーツのあった者も無事に元通りになったようである。


「『治癒』」


アウレイアは治癒魔法を唱え、仕上げにかかる。治癒魔法で最後のきめ細かい部分まで治し、完成である。後は4人を一か所に集めて様子を見るだけである。そして、無事4人は復活した。ただ、自分が冒険初心者であることがばれるのは良くない。だから、アウレイアは名を告げずに逃げることにした。


 元の位置に戻れば無事に結界は機能していた。ただし、結界内は地面が抉れていたり、なにかがあったかのような乱闘跡が広がってたりした。


「ま、魔物は入れていないはず…。一体何が…」


アウレイアは蒼白な顔で結界を解除し、ミルとオウガストを探す。彼らは結界があった場所の中心で見つかった。


「ふ、2人とも、今戻ったんだけど…なにかあった?」


恐る恐るアウレイアが話しかけてみれば、二人ともホッペを真っ赤に腫らしている状態でなんでもない、と答えた。“なんでもない”この一言が一番恐怖である。真っ赤にほっぺを腫らした状態でなにもないことはないであろう。アウレイアが再び口を開こうとすると、先にミルが口を開いた。


「ところで、アウレイア。あなたこそ大丈夫だったの?アースドラゴンは倒せたの?」


その言葉でアウレイアは思い出す。冒険者にばれないように早く帰らなければならないことを。


「それなら無事済んだ。結界も消してしまったし、いつ魔物が出るかわからない。だから、早く戻ろう。薬草はたんまりと摘んだから大丈夫なはず」


「そうだな。早く最初の依頼の報告をしてみたい」


オウガストもアウレイアの言葉に同意する。ミルもアウレイアに深いことは聞かずに同意した。去り際にミルは不思議そうな表情で森の奥深くに目をやっていた。



 アウレイア達は森から無事に戻り、冒険者ギルドへ向かった。


「薬草しっかり受け取りました。無事、初めての依頼を達成することができましたね。その他にも討伐した魔物がいれば、核を出してもらい、お金と交換することができます。では、依頼料をお支払いしますね」


「あ、その前に」


冒険者ギルドの中でアウレイア達は依頼の達成報告をしていた。そこで、アウレイアは魔物の核を見せる。受付嬢は驚いた顔でそれを受け取った。


「…これはゴブリンの核ですね。森の中腹辺りは魔物がいないはずですが、どこで倒しましたか?」


「森の真ん中あたりの薬草の群生地です」


「…わかりました。こちらはお預かりします。というわけで、追加のお金も加えておきますね」


そう言ってアウレイアの掌に渡されたのは石版9枚。アウレイアはそれを手に握りしめた。



 「じゃあ、分配は石版3枚ずつで」


そう言って、ギルドでアウレイアはお金をミルとオウガストに渡した。ミルとオウガストはじっと自分の掌の上に乗っている小さな石版を見つめている。それぞれに思うことがあるのだろう。椅子に腰かけたアウレイアはテーブルに腕をつき、顎を乗せた。その姿勢で何気なく窓の外に目をやれば、先ほど助けた冒険者がギルドに入るところが見えてしまった。ギルドに入って目の前が受付である。恐らく彼らはアウレイアには気づかない角度であろう。しかし、アウレイアの第六感が言っている。“ここから逃げ出せ”と。幸いここはギルドの一番隅で、窓際の席である。そして、周囲には誰もいない。


「ミラージュ、オウゼリア。早く戻りましょう。そろそろ私も迎えが来る」


石版に見入っていた二人ははっとしたように顔を上げた。


「もうそんな時間か」


「アウレイアがどう抜け出したかは分からないけど、迎えが来るなら急がないといけないね」


「時間がないの。この窓から出よう」


オウガスト、ミルがアウレイアに同意すれば、アウレイアは突拍子もないことを言った。


「は?何言ってんだ?アウレイア。入口ならあそこにあるだろ?」


「入り口に向かっていては間に合わない程時間が迫っているの」


そう言ってアウレイアは窓を開け、足をかける。


「う、嘘でしょ!?」


信じられないとばかりにミルが口を押えた。アウレイアは先ほどよりも切羽詰まった様子で外へと出た。


「もし窓を越えるのができないのであれば、普通に出てね。私は時間がないのでここで別れる。また、明日の学園で会おうね。今日は楽しかった」


そう言って走り去っていくアウレイアをミルとオウガストはぽかんと見つめていた。そして、我に返ったように窓を閉めて、普通にギルドから出た。その際に、4人の冒険者がある冒険者を探しているというような会話の内容が聞こえた。


 アウレイアはしばらく走って路地へと向かった。そこで『着替え』を唱え、元のお嬢様の服に戻る。


「さて、お土産を買わなくてはなりませんわ」


そう呟いてアウレイアは商店街へと足を運んだ。ミルとオウガストにはダマしたようで申し訳ないが、まだ馬車が迎えに来るまでは時間があった。そして、ライネルには学園でできた友人と街で遊んでくると言ってあるのだ。もちろん、ライネルは笑顔で送り出してくれた。ただ、それが心からの笑顔かはわからない。

 そのため、アウレイアは街でお土産を買って証拠として持って帰ろうと思ったのだ。断じてあの冒険者たちに自分のことがばれるなんてことを避けるために逃げたのではない。アウレイアはそう思い込むことに決めた。アウレイアは街を歩いて適当に目のついた店へと入る。そこはどうやら香水の店のようだった。芳しい香りがふんわりとアウレイアの鼻腔を擽った。いい匂いである。アウレイアが店の香りを堪能していると、一人の店員が近づいてきた。


「いらっしゃいませ。贈り物の香水をお探しですか?」


話しかけられたアウレイアはええと頷いた。


「贈られる方は男性ではありませんか?」


店員がにこりとして尋ねる。アウレイアは考える。お土産を考えていたのはあくまで街に行きましたという証拠だ。つまり、誰にその証拠を提示すればいいのだろうか?やはり友達と遊ぶといった瞬間、変な顔をしたライネルにであろうか?


「確かに…男性ですかね?」


やはりと店員は顔を明るくした。実は、貴族で香水を贈るのは男女の親交を深めるためだ。香水を渡す意味は、私の香りを身に纏ってくださいというような意味も考えられるらしい。なお、この香水のやりとりは最近始まったもので、アウレイアは知らない。


「では、こちらへどうぞお越しください」


そう言って店員はこの高貴な雰囲気を纏う令嬢相手に仕事を始めるのだ。できるだけいい香水を買ってもらい、店の売り上げに貢献するために。


いつも読んでいただきありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

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