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02 日記

 バルコニーには綺麗な白いテーブルとイスがあり、ようやく昇りはじめた朝日に照らされて輝いていた。アウレイアは日記を片手に再度亜空間魔法を起動してポットとカップ、スプーン、ミルク、そして紙袋に入った茶葉を取り出す。そして、空気中の水蒸気を集めてポットに入れ、数度振る。そうすると何故か湯気がポットから出てくる。しばらく待って茶葉を紙袋ごと入れ、待機し、コップに出来上がった紅茶を注いだ。彼女はミルクティーを飲む気分らしく、ミルクを加えてスプーンでまぜ、一口目を啜った。鼻腔と口内が芳醇な香りと爽やかな味で満たされる。ほっと一息を吐いたアウレイアは日記を読み始めた。


『日記 一日目

 お父様に言われて日記を書きはじめることになったわ。私は三日坊主だから、続くか分からないけれど、とりあえずやってみることにしたわ。私の名前はルルアージュ・ベデルギス。由緒ある公爵家の長女であり、美しい令嬢であると自負しているわ。私の家族はお父様、お母様、お兄様、双子の妹、弟で構成されているわ。あれ?変ね。日記ってこんな感じの文章を書くものだったかしら?まあ、いいわ。消すのが面倒くさいので今日はもうおしまい。』


 綺麗な字でこの世界でいう公用語で書かれている。由緒ある公爵家だというのは字とその言葉遣いから納得できる。頭の中で読み取った内容を整理しながらアウレイアはページを捲った。


『日記 二日目

 また、リリアージュが私の婚約者のベルン・マキドシュ様を誑かしたみたいだわ。私の為に来て下さったベル様を横から掻っ攫うなんて卑怯者。ルロスト様もリリアージュに首っ丈だし、あちこちに手を出してるんじゃないわよ!この売女!


 日記 三日目

 お兄様はリリアージュばかり構う。リリアージュなんていなくなってしまえばいいのだわ。そうだ、リリアージュが部屋から出られないようにすればいいのよ!私ったらなんて天才なのかしら。お父様もお母様もいつも私に怒ってばかりだけれど私にもやれるところがあるのよ』


「…」


 二ページに渡って書いてあるこの内容を読んだアウレイアは顔を顰めた。この日記の主人は思い込みが激しく、実行力がある、少し厄介な人物なのかもしれない。そして、四日目の日記の内容が大体予想できる。


『日記 四日目

 リリアージュの部屋の外から扉に向かって開かないように大きな家具を置こうとしたのだけれど、あの鈍間な護衛に邪魔されてしまったわ。それどころかお父様にばれて酷く叱られてしまった。私は悪くないのにどうしてそう怒るのかしら。憂さ晴らしに弟の本を盗んだわ。弟が慌てているのを見て気が紛れたわ。後で返しに行ってなんでこんな本ひとつで慌てるのよと言ったら、睨まれてリリアお姉さまにもらった宝物なんですと言っていたわ。まったく気分がまたもとに戻ったじゃないの


 日記 五日目

 ベル様がまた家に来て下さったわ。お土産にと、綺麗な石をくれたの。リリアージュにもあげていたみたい。最近なにもかもうまくいかない。学園ではみんなに睨まれている感じがするし、家でも居心地が悪い。どうしてこうなったのかしら?』


 アウレイアはそこからぱらぱらとページを捲り、最後を読むことにした。何が悲しくて朝の清々しいこの時間帯に暗い内容の本を読まなければならないというのだ。


『日記 二十八日目

 そうだわ。私が死にかけたらきっとみんな心配してくれるはずよ!そうと決まれば実行よ!睡眠薬を本棚の一段目の右から五冊目を引くと出てくる仕掛けの中に入れておくことにしたわ。ここは私の宝部屋になるために作られた部屋に違いないわ。』


「本棚の一段目の右から五番目…」


 アウレイアは一気に紅茶を飲みほし、コップとポットとスプーンを水で洗い、亜空間にしまって立ち上がる。日記の持ち主がどうなったかは当然察しである。


 本棚の一段目は思ったよりも埃が積もっていなかった。アウレイアは本を数え、例の本を探し当てた。『後継の為の綴り本』。そんなタイトルの本は歴史を語るように黄ばみ、埃っぽかった。アウレイアはその本に対して魔法をかけてみる。


『詳細』


 本に対して誰がいつ触れたのか、どういう仕掛けが施されているか知ることができる便利な魔法である。当然、高名な魔力持ちであれば『抵抗』という魔法をかけて、自分の物に魔法がかけられないようにしているので、恐らく効かないだろう。そう考えたアウレイアはダメもとでかけてみたのだ。


『詳細

 魔法刻印 血統智慧

 最新使用者 一日前 ルルアージュ・ベデルギス

 近日前   二日前 ルルアージュ・ベデルギス

 三日前 ルルアージュ・ベデルギス

 ・

 ・

 ・


 血統智慧により、魔法起動可能者は術者の血筋に近く優秀な者に限られている。現在対象者はルルアージュ・ベデルギス。低度の隠ぺい魔法がかけられているため、一般人は気づかず』


「…かかるんかい」


 丁寧な『詳細』が目の前に現れて思わずアウレイアはツッコミを口に出した。普通はもっと抵抗を受けて、文が文字化けで出てくるのだ。ちなみにこの『詳細』は人体にもかけることが可能だ。ただし、対象者の能力や状態を見るのではなく、対象者にかかっている魔法やついさっきの行動を見るという魔法なので、人にはそれほど使わない。よく使うのは医療関係者である。


 とにかく、血統智慧という魔法がかかっていると把握したアウレイアは自分にこの仕掛けは開けられないと理解した。なぜなら、この魔法はとても強力な物で、起動条件を揃えない限り絶対に実行されない魔法であるのだ。そのかわり、代償も大きい魔法であるが。


 まあ、念のため。念の為である。そう心の中で思いながらアウレイアは仕掛けのスイッチを起動させようと本を引っ張った。


 ガシャ。左の方から音が聞こえ、アウレイアはぎこちない動きでそちらを見た。そこの壁にはぽっかりと入り口ができていた。


 アウレイアの心情を説明するとすれば、絶句である。開かないはずの扉が開いたのだ。ただ、アウレイアとしては一つの疑念が生まれた。だが、それはまだ疑念でしかない。


 アウレイアはいきなり出現した入り口を目指して歩き始めた。


次話は3/16 12:00に投稿です。


低度が程度となっていたため修正

3/22 『詳細』のツッコミをいれた部分がルルアージュとなっていたため、アウレイアに修正

誤りを教えてくれた方、ありがとうございました。

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