027 武器屋
投稿遅くなってすみません!
待ってくださった方はありがとうございます。
放課後、アウレイアはミルとオウガストと共に、冒険者の準備のために街を歩くことになった。護衛もなしでの貴族の街歩きに周囲の視線が戸惑いと驚きで溢れていたが、3人は気にした様子もなく歩く。なんせ、ミルは男爵家。平民に近い部類の為、娘に護衛などつかない。オウガストは伯爵家であるが、義母のキャロラインの陰謀で寮暮らしを強いられている。そんなキャロラインが護衛を許可するなんてありえない。ルルアージュに至っては貴族意識ではなく、軍人意識である。自分の身は自分で守る。もし2人に何かあれば、自分が全力で守って見せる。
可愛いお嬢様がそう考えながら、道を歩いていることを周囲の人は知らない。故に、心配そうな視線を受けるのだ。
オウガストが口を開いた。
「一応、護身として短剣を買ったのがこの店です。手ごろな値段で、幼い頃に父上と買いました」
アウレイアはオウガストの指の先を見た。そこには、木の看板が立て掛けてあるレンガ造りの建物があった。看板には『蒼穹』とだけ書かれている。オウガストに言われなければ、なんの店か分からなかったであろう。オウガストを先頭に三人は武器屋の中へと入って行った。
カランカランというベルの音が鳴り響き、剣の手入れをしていた店主は顔を上げた。店の入り口を見れば、上品な服を身に付けた三人組がやって来た。おそらく貴族であろう。ワイワイしながらも武器を眺める彼らを見つめながら、店主は小さな溜息を零した。
貴族が嫌いなわけではないが、貴族は武器に関して、表面のみを見ている。中には、しっかりと見極めている人もいるが、大方が前者である。さらに、あの貴族たちは若い。学園でなにかしら武器に関して学んで、手に取ってみたくなったというわけで、この店に来たのかもしれない。
「私はこの剣は重くて持てないです」
茶髪の三つ編みの少女が重そうに剣を握っている。その握り方は逆手持ちで、剣を握ったことのない素人であることは明らかだ。
「この剣はなかなか良さそうだ」
透き通る金の髪の少年がある剣を握ってきらきらした瞳で剣を見つめている。その剣は粗鉄で作った脆い失敗作である。一応は使える武器なので、店の隅に置いておいたのだ。そして、最後の一人の紫色の髪の少女は店内を物珍しげに見回している。
店主はその様子を見て溜息を吐いた。武器屋としての経営面で見れば、客は歓迎だ。しかし、武器を選りすぐる職人の立場からすると、複雑な心情である。彼らが、本当に武器を武器として使ってくれるなら、武器も喜んでくれる。しかし、武器を飾るなどときちんと扱ってくれない客に売るのは武器が可哀相だ。
よって、店主は何度目かも分からない溜息を吐くのであった。金髪の少年が粗鉄の剣を手に持ちながら、店主に質問をした。
「すみません。この剣はいくらですか?」
「この剣は1銀50銅貨だ」
店主はそう答えた。実際は30銅貨の値段だが、あえてそう言う。金髪の少年は剣を眺めながら口を開く。
「そうか、では」
少年がお金を出そうとすると、紫色の髪の少女が少年の手を止めた。
「ちょっとお待ちください。オウガスト様。この剣は空気を多量に含んだ粗鉄が使われているため、あまり丈夫ではありません。オウガスト様ぐらいの方の剣は…そうですね。この店で一番いいのは恐らくこの剣ですね」
少女は店の真ん中にある剣立ての所から一本の剣を取り出す。柄は綺麗な深緑で、黄色や紫の布が所々に覗いている。その剣はまさに、店主が最もいい剣として仕入れたものであった。
少女の様子に目を見開いていた店主だが、少女が同意を示すようにこちらを向いたので、意識をこちらに戻した。
「あ、ああ。それがこの店で一番いい品です。なんでも、隣国の元帝国で扱っていた品だそうです」
それを聞いた少女は真剣な顔で剣を鞘から抜いた。刀身は鈍い銀に輝き、少女の顔がうっすらと映る。少女は無言で剣を鞘に戻し、オウガストに渡す。
「オウガスト様。ぜひともこれを買いましょう」
「それはありがとうございます。そちらの剣は1白金10銀4銅貨です」
店主の言葉に少年は真っ青な顔をした。その表情を見て、店主は心の中で首を傾げる。貴族の少年が値段を聞いてびっくりするのはなぜだろうか。
「ああ。1白金10銀4銅貨ね」
そう言い、紫髪の少女は鞄を開け、1枚の白金板と10枚の銀板、4枚の銅板を取り出して店主に渡した。
「ちょっと、ルルアージュ様!それは!」
「オウガスト様。私の提案で武器を買うのです。これくらい造作もないことですし、お気になさらず」
通常、平民がご飯に困らず生活できる1か月の生活費が銅貨3枚である。石版100枚で銅貨1枚。銅貨板100枚で銀貨板1枚。銀貨板100枚で金貨板1枚。金貨板100枚で白金板1枚。白金板100枚で黒曜板1枚の価値がある。黒曜板は1枚で小国を丸ごと買えてしまうほどの大金である。その次の白金は貴族が主に屋敷を買うときに出すといった具合の価値だ。つまり、この剣は屋敷と同じ程度の値段であるのだ。
それもそうである。隣国の元帝国は軍事で有名だった国。今でも歴史に名を残すほどである。よって、その栄華期の剣は極めて高い値段で取引される。実際に剣自体、大変品質がよく、この国の鍛冶屋では作れない程のものである。
しかし、よく少女もポンと白金板を出せたものだ。どこかの爵位の高い令嬢であるのは間違いないのであろう。
「白金が造作ないっていったいどれだけ持っているんですか!」
三つ編みの少女が驚いたように紫色の髪の少女にツッコんだ。
「お気になさらず、ミル様。私は一応公爵令嬢。お小遣いはありますわ」
屋敷一つ分を公爵令嬢が持っている。この事実に貴族の金持ちの凄さを実感する店主。
「…では、代金は頂いていいのでしょうか?」
念のために、確認すれば、紫色の髪の少女は迷いなく頷いた。
「続いて、こちらの短剣もよろしいかしら?」
そう言って紫色の髪の少女は青い宝石のような鞘に収まった短剣を見せてくる。店主は渇いたのどを唾で潤した。先ほどの剣を見抜いたことは偶然かと思いきや、彼女の目は本物なのかもしれない。彼女の紫色の目は武器を見抜く才能があるのかもしれない。
スカウトしたい…。店主はそう思った。彼女なら世界の中のあらゆる武器を見抜き、探すことができるのではないだろうか。しかし、相手は公爵家だ。スカウトなんてできるわけがない。店主は肩を落としながら、
「50金80銀です」
と答えたのであった。
「ほ、本当に私にくれるのですか?いくらか払いましょうか?」
そう尋ねるミルにアウレイアは首を横に振った。
「あげますわ。それはミル様のために買ったんですもの」
「…えぇ」
ミルは困ったように宝石のような青い鞘を見つめている。オウガストがミルに達観した目で話しかける。
「ミル嬢、早く仕舞わないと、周囲の町人に盗られてしまいますよ。今にもと目を光らせてこちらを見ている人々がいます」
そう言われれば、ミルはもう短剣を仕舞うしかない。アウレイアはミルが短剣を仕舞うと同時にありがとうございますと小さく呟いたのを聞いて、ふっと笑いを零す。そして、同時にオウガストの腰にある深緑の鞘を眺める。
まだアウレイアだったときに友人が身に付けていたものだ。その剣を見ると彼がこだわっていた白い変な模様の描かれたマントを思い出す。
ふと、視線を上げればオウガストと目が合った。オウガストは一瞬間を空けた後に、ふと目を逸らす。
「ささ、次は鎧とかを買うんですよね?早く行きましょう」
ミルの一言で二人は次の目的地へと足を速める。街の人々の往来がさらに増えてきた気がした。
実習終わって一段落が付きました。また、コツコツ書いていこうと思います。あまり間延びせずさらさらショッピングは書いて次へ向かいたいと思います。(という時に限って長くなってしまう…)
7/15 動作もない→造作もない
ミルの短剣250金貨→50金貨 に訂正。
教えて下さった方々、ありがとうございました。




