024 冒険者
オウガストの見舞いが終わり、昼食を食べるためにこっそりと転移して湖畔にやって来たアウレイアは考えていた。
オウガストは何があったか言わなかったものの、怪我をしていたのだから、殴られたのは事実だ。殴られる…つまり、オウガストはいじめを受けているのかもしれない。前髪を切ったオウガストの顔は美少年。つまり、惚れた少年達が愛情表現としていじめを行っているのかも知れない。そしてオウガストは怪我をした。もしかしたら、オウガストは心に深い傷を負っているのかもしれない。もし、そばに自分がいたらオウガストを助けることができたかもしれない。しかし、アウレイアは体を分身することができない。つまり、身の回りにいるオウガストやミルを守ることはできないのだ。彼らがもっと強ければ…。
そこまで考えてアウレイアはある結論に達した。アウレイアはかつて剣や魔法、などの技を教えるなどして教え子が強くなるようにする師であった。もうあれから何年経つか分からないが、強くなるための知識、技術を持っている。ルルアージュはかつての自分のように魔法が使える。魔法に関しては問題ないだろう。後は、手合せするための力。武器を使う際の技やコツは覚えているが、アウレイアは今やルルアージュである。ルルアージュは普通の令嬢だ。物心ついた時には武器を振り回していた令嬢のアウレイアとは違う。武器を持ち上げる力、振り回す力はないであろう。アウレイアはそれを自身の今の肉体を動かすことで理解していた。
つまり、ミルやオウガストにいろいろなことを教えて強くなってもらうことは可能であるということだ。ただ、彼らの意思がどのようなものであるかは確認しなくてはならない。
教える自分も当然体を鍛えなければならない。そう思うと、アウレイアは無意識に体重力魔法をかけていた。体重力魔法とは、自分の体にかかっている重力を倍に増量させる魔法である。この魔法を持続的にかけることで、日常の生活を行うだけで、筋力やバランス感覚などがよくなる代物である。ただし、魔力がたくさん必要なので魔力の少ない人では効果は期待できない。
とにかく、アウレイアは部活で彼らの意思を聞いてみることを決心した。
早くも放課後。アウレイアはホームルームが終わるとすぐに部室棟に向かった。道中でリリアージュと出会い、夜会の誘いを受けたが、断った。
部室に着くと、すでにミルとオウガストが到着していた。
「あ、ルルアージュ様、昨日ぶりです」
ミルはそう言ってお辞儀をする。アウレイアは昨日ぶりねと言いながら、お辞儀をした。
「では、みんなそろったことですし、また、『転移』をしましょう」
そうアウレイアが言うと、ミルとオウガストは顔を見合わせた。不思議に思ったアウレイアは首を傾げながらも二人に尋ねた。
「二人ともどうかしたのかしら?」
その質問にミルが代表して答えた。
「ルルアージュ様、それはできるだけ控えましょう。わざわざルルアージュ様の力を借りるのも申し訳ございませんし、仮にこの部室に人が来た場合、誰もいなかったら怪しく思われると思います」
ミルの話も一理ある。そこまでの考えを持っていなかった自分の浅慮さに肩を落としながらもアウレイアは同意した。そこで部室での活動が始まる。
「一つ、聞きたいのですけれど、冒険者っていますか?」
アウレイアが聞きたいのは、魔物に関する問題を受け持つ冒険者のことだ。かつてのアウレイアの国では対人の軍人、対魔物の冒険者という呼称があった。アウレイアは軍人の部類であったが、軍人は国との戦争、盗賊団の討伐、誘拐事件の捜査、盗人の逮捕などの人に関することの仕事を受け持っていた。それに対し、冒険者は魔物の駆除、洞窟や森などのダンジョンの管理及び、魔物の処理などの魔物に関する仕事を請け負っていた。ただ、これはアウレイアの国、ジェファール帝国の話であり、もしかしたら他の国は違うのかもしれないのだ。
アウレイアの質問にミルとオウガストは頷いた。つまり、この国にも冒険者がいるようだ。
「冒険者は魔物を討伐したりする仕事を行う人のことです。冒険者ギルドという各地に存在する機関に所属し、仕事を行うみたいです」
オウガストは自分が親戚から聞いたことをそのまま言った。
「…そうですか。ところで、お二人は強くなりたいですか?」
アウレイアは本題をぶつけてみた。二人が強くなりたいと言った場合は、冒険者ギルドに偽名で所属し、仕事をこなしながら強くなって貰おうと画策しているのだ。魔物と人で戦いやすいのは魔物だ。魔物は知能が低いため、あまり賢くない。大体はいくつかあるパターンを駆使し、力技で襲ってくるという魔物ばかりだ。それに対し、人は相手の行動によって様々な行動をしてくる。魔物にも知能の高い魔物は人間と同じようなものもいるが、強くなるための登竜門としては一度、冒険者業界に足を踏み入れ、給料の安定している兵を目指すか、ハラハラドキドキで退屈しないけれどリスクの大きい冒険者へと足を進めるかと別れていく場合が多い。そのため、冒険者ギルドが存在するかしないかを聞くことはアウレイアにとって重要な物であった。
「私は強くなりたいです。そして、いつかクラスメイトを圧倒できるくらい強くなりたいです」
と、オウガストが力拳を握って言った。
「私の将来の夢は王国の魔術師になることです。自分の非力さを理解しているので可能性はほぼ見出せないのですが、もし、強くなれるのなら、なって、国の魔術師になりたいです。そうすれば、お金もたくさん手に入り、将来は安泰です」
どうやら、ミルも強くなりたいようだ。アウレイアは二人に頷き、口を開いた。
「では、一緒に冒険者ギルドに入りませんか?」
二人は口をポカンと開けてルルアージュを見つめていた。ルルアージュの瞳は爛々と揺れていて、彼女が二人に期待していることを表している。紫色の瞳にたまに橙のきらめきが光る。その美しい瞳に魅入られながらも二人は冒険者ギルドについて考えた。
しばしの沈黙の後、二人は頷いた。アウレイアは紫と橙の混ざる不思議な色合いの瞳を輝かして、ありがとうとお礼を言った。次の休みの日に冒険者ギルドに行き、登録することになった。
次回は5/6 12:00の投稿となります。今回は少し分量が少なくなってしましました…。申し訳ございません。




