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020 二日目の朝


 夜が明け、アウレイアは再び陽が昇る前に目を覚ました。魔法を使い、身だしなみを整え、朝食を取る。今日の服はシンプルな赤いふくらはぎが隠れるくらいのドレスにする。そのドレスの腰には黒い布が巻かれ、アクセントとなっている。朝食は転移して、湖畔にある家に行き、ベーコンと卵とトーストを合わせたものを食べる。食後にコーヒーを飲み、頭をリフレッシュさせて、ルルアージュの部屋に戻る。


 アウレイアは部屋に戻ると、ルルアージュの日記のあった本棚を見る。本棚にはアウレイアが読んだことのない本がたくさんある。アウレイアはそのうちの一冊を手に取り、ベッドに座って読みだす。


 しばらく本を読みふけっているとノックの音が響く。


「ルルアージュ様。朝でございます。ライネルです。起きられましたか?」


 ライネルがルルアージュを起こしに来たのだ。アウレイアは昨日の朝に言ったことをライネルが守ってくれているのに対し、少し嬉しくなり、明るい声で返事をする。


「ええ。起きましたわ。入っていいですよ」


 返事が聞こえたのかライネルはドアを開け、ゆっくりと部屋に体を進めた。見れば、もう身支度が済んでいるルルアージュがベッドに腰掛けている。今日は昨日の青く、シンプルで綺麗なドレスとは真逆の赤く、シンプルでいて可憐なドレスを着ている。ドレスの裾が昨日よりも短く、茶色でいてここら辺で見たことのないお洒落なブーツが足を飾っているのが見える。正直に言って、今のライネルにドストライクな格好であった。一瞬、体を止めてしまったものの、咳払いをして再び動かしだす。


「えっと、お嬢様。どうやら身支度を済ませてしまったみたいですね」


 ライネルはそう言って自分が入って来たドアを振り返る。アウレイアもライネルの目線を追ってドアを見る。そこにはぽかんとしているメイドの三人がいた。昨日は一切部屋に入ってこなかったメイドたちだ。今日は扉から顔を覗かせ、ルルアージュを見つめている。三人の表情は驚きを表したものであり、恐怖の色は見えない。


 実はライネル。ルルアージュが学園に通っている間に三人にルルアージュの様子を伝えていた。


『ルルアージュ様は棘が綺麗に消え、前よりもアホになりました。ですから、そんなに怖がらなくて大丈夫だと思います。むしろ、今なら何しても怒られない気がします。一度彼女を見てみてください。あのごつごつしてだっさいドレスが、洗練された清純派ドレスに変わっている所を。デザイナーが革命だと騒ぎ出すような変わりようですよ』


 この言葉を聞き、半信半疑で彼女らは部屋を覗いた。一度部屋の中にいたルルアージュを見て、誰だろうと思うぐらいに彼女は変わっていた。濃い化粧、ごつごつ悪趣味ドレス、変な色の石ころをネックレスにして高笑いをしてリリアージュをどう貶めようか企んでいた彼女ではない。そこにいたのはそれら全てを綺麗に水に流し、生まれ変わったような美女だった。それも当然である。双子の妹のリリアージュが美人であるならば、ルルアージュも美人なのだ。


 しばらくして、一人のメイドがライネルを避け、アウレイアに突進した。


「る、ルルアージュ様!!」


 そのメイドは茶髪を低い所で結い上げ、白いエプロンに黒いロングスカートを纏っていた。


「そ、その髪形について教えて下さいませ!」


 いきなり迫って来たメイドにアウレイアは面喰う。しかし、それはほんの一瞬ですぐに返事を返す。


「え、ええ…」


「ちょっと、リシー!ルルアージュ様が困ってらっしゃるわ。おやめなさい」


 動揺を抑えながら深い青髪を下でお団子にしているメイドがリシーというメイドの後ろまでやってきてその首根っこを掴む。リシーは猫のように、にゃう、と声を出し、苦しそうに暴れる。


「ルルアージュ様申し訳ありません。この子は髪形やドレスが大好きで…。普段はこのようなことをする子ではないのですが…」


「ま、マリアさ、ん。く、苦しい…」


 リシーが掴んでいる女性、マリアの腕を叩く。マリアは苦しそうにしているリシーを見て、手を離す。満足に呼吸ができるようになったリシーは呼吸を整い始めた。


 それらの行動に対してライネルももう一人のメイドも何も言わなかった。つまり、この一連の行動は日常茶飯事であるということだ。アウレイアは緊張で強張っていた肩を下ろして、気にしていません、と返した。マリアがそれに対してお礼を言うと、部屋に和やかな空気が流れる。


 息を整えたリシーが口を開こうとすると、ライネルに口を押えられた。


「もがっ」


 なんだ、というような目でリシーがライネルを見ればライネルは真面目な表情でリシーを見て、ルルアージュを見た。


「ルルアージュ様。朝食はどうされますか?」


 ライネルはルルアージュが食事を取るかとらないか確認し、料理人に知らせるという役割があった。ルルアージュはそれに対し、


「もう食べたので、いりません」


 と返した。


「「「「は?」」」」


 使用人一同は大きく目を見開いてルルアージュを見つめた。ライネルは一度頭をリセットして、冷静にし、ルルアージュに尋ねる。


「ルルアージュお嬢様。今、食べたと申しましたか?」


「ええ、そうです」


 考えるようなそぶりなしに即答で答えるルルアージュの真相を確かめようとライネルはルルアージュの表情を見る。結果は異常特になし。真顔であった。


「…一体いつに朝食を食べられたか聞いてもよろしいですか?」


 ライネルからの問いに対してアウレイアは自分が朝食を取っていた時を思い出す。卵にベーコン、トースト。窓はほんのり光がさしていた。陽が昇ったばかりの時だったはずだ。


「日が昇った頃に食べましたわ」


「日が…昇った」


 頭を動かそうとライネルはルルアージュの言葉を反復した。すると、リシーが横からルルアージュの傍へ行き、話し出した。


「ルルアージュ様はすごいですわ!日が昇った頃に朝食なんて!私はその頃に起きますわ!…あれ、ルルアージュ様はいつ起きていらっしゃるのですか?」


 純粋に疑問なのだろう。リシーはきょとんとした顔で首を傾げた。すかさずマリアがリシーの首根っこを掴んだ。ぎょえっという声を発してリシーはマリアの後ろに立たされる。


「度々すみません、ルルアージュ様。ルルアージュ様のお変わりになった様子をリシーは不思議でしょうがないのでしょう。朝食はお済になられたということはこの後は特に用事がないのですよね?私どもの相手をしてくださると嬉しいのですが」


 マリアはルルアージュの大きな変化に疑問を感じたものの、深く尋ねることはやめた。ルルアージュはルルアージュであり、いつあの恐怖のルルアージュが再来するかわからない。ただ、リシーは怖い者に自ら近づくタイプではなく、頭で行動して動く派である。そのリシーがこのように突拍子もない行動を取るのは恐らく、ルルアージュにどこまで近づいていけるかを測っているのだろう。


 もう一人のメイドのサーリはずっと無言でルルアージュの表情と動作を見つめている。もし、なにか分かればあとで教えてくれるだろう。そう思ってマリアはルルアージュを見据える。ルルアージュは形の良い唇を動かして答えを述べる。


「ええ。別にいいですわよ。私も退屈していたところです」


 ルルアージュの閉じた唇は弧を描き、瞳は面白そうと言いたいばかりにキラキラ輝いていた。果たして、彼女はメイド三人がずっと猫を被っていたことに気が付いたのか、そうでないのか。マリアは心の底から微笑んでお礼を返した。ライネルはその光景を見ながらげんなりした顔で退室して行った。



次回は4/12 12:00に投稿します。

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