01 部屋
本日二回目の投稿となります。00プロローグを読んでいない方は先にそちらをお読みください。
微かに布が揺れる音が聞こえ、アウレイアは目を覚ました。目を左右へ移動させて周囲を見つめる。アウレイアは天蓋付きベッドに寝かされていた。敷布団は赤いシルクのシーツ。掛け布団はふりふりのリボンが百個ほど付いている、ファンシーなものであった。
目が痛くなる光景にアウレイアは何度か瞬きをして目を擦った。
ここはどこなんだろうか、恐らくだがラシアン様が追放する!追放する!と連呼していたことからここは天界ではなく下界なのだろう。
怠さを感じながらもアウレイアは身を起こした。ふと、いつも通りの紫色の髪が視界を横切る。やけに長いなと思いながら、その邪魔な髪の毛に触れ後ろへと送る。そこでアウレイアは疑問に思った。
ここまで髪は長かったか、と。アウレイアは生前、女神と生きていきたわけだが、この二つの人生において髪の毛を肩に触れる長さよりも伸ばしたことはなかった。だが、だが、今退けた髪の毛は胸元程まで長さがあった気がする。
恐る恐る手を背中に回し、髪の毛を触ってみる。以前の髪の長さならば肩の関節部がよほど柔らかくなければ髪の毛に触れることができなかった。しかし、いまはどうだろうか。肩が固くて上手に腕回しができない人でも髪の毛にタッチができる。そんな長さであった。
アウレイアはショックを受けた。彼女の髪型は常にボブが常であり、ロングになったことがない。むしろ、短い髪こそが正義と考えている節があり、一度髪の毛を坊主にしようとして、父と母に泣きながら止められたのを覚えている。しかし、髪が長いと邪魔で静電気は発生し、結わないと常に私はここにいますよとでも言うように視界に入ってくるのだ。静電気は大嫌いだし、髪を結ぶのも長い髪は重いし、きっちり結ばないといけないし、とにかくいいことがない。
これはいけないと考えたアウレイアは天蓋付きベッドから飛び降り、床に直立するとともに魔法を行使した。それは風を操り、髪を切る魔法と切った髪の毛を空気中に分解する魔法の二つであった。どちらも、一般的な魔法で、風は発同時に『ウィンドカッター』と心の中で唱え、分解は『大気分解』と心の中で唱えればいいだけである。
肩位までの長さになったと直に確認してようやく一息ついたアウレイアはふと周囲を見回した。豪華な家具や敷物からお金持ちの部屋であるようだ。鏡があったのでアウレイアは自身を眺めてみることにした。
先ほど切ったばかりの紫色の髪、紫色の瞳、顔のつくりは自分と一緒であった。ただ、少し若返っているらしく、年齢的には十二歳ぐらいであろうか。着ている服はリボンがたくさんついていてレースが裾を縁取っているゴテゴテした服で、生地が薄いことからネグリジェと判断することができる。
他にはどんな服があるのだろうかとクローゼットに手を掛けたアウレイアは自分の選択を後悔することになった。扉を開けた途端に溢れでてくる服。いや、ドレス。全てがしわくちゃの状態で畳まれ、そして、開けたら落ちてくるように積まれていたらしい。しわしわになったドレスの山から脱したころには息を荒くしていた。
「…一体なんでこんなことになっているのよ」
そう呟きながら、ドレスの一着を手に取り、眺めてみる。それは真っ赤なドレスであった。肩幅の半分くらいの大きさの赤いリボンが胸元に六個。下半身の方はレースで覆い尽くされドレスの綺麗な生地が一切見えなかった。デザイン性皆無の服に思わずアウレイアの時が止まった。しばらくして思考停止していた脳が働き出したのか、アウレイアは山になっていた服を先ほどあったように魔法を発動して仕舞い込み、何事もなかったかのようにクローゼットを後にした。
「さて、さすがにずっとパジャマはおかしいし、着替えましょうかしらね」
そう呟いたアウレイアは魔法を起動する。
『亜空間起動』
そう呟いて、目を閉じると脳内に百を超える衣装がリスト化されて現れる。この亜空間魔法は今までアウレイアに対して信仰を持った人々が捧げた貢物がたくさん詰まっている。亜空間の中では貢物の時間が止まり、外へ出る時を待っているのだ。
アウレイアはその中から青いシンプルなロングワンピースを選択した。そして、靴は濃紺のブーツで動きやすいようにヒールは低めであるものを選んだ。選び終わり、目を開けると同時にアウレイアは自身の服が変わっていることを確認する。きちんとリストの中から選択した通りの衣装に身を包んだアウレイアはドレッサーに近づく。ちなみに、もともと着ていたネグリジェはクローゼットに詰め込まれた。
自身を確認したアウレイアは今度、髪の毛について考える。ボブを愛しているアウレイアは髪をそのまま下ろしているのもいいと思ったが、今のコーディネートだと髪を結いあげた方が大人っぽく見えるのではないかと考えたのだ。面倒くさい。この一言が浮かぶが、元美の女神として最低限の身だしなみはしたほうがいいのではないか。アウレイアは結局後者を選択した。両手でゆっくりと髪を編み込んでいく。綺麗に全て編み込むと後ろ髪も横髪も編み込まれ首元がすっきりとした印象となった。
自身の姿に納得したアウレイアはアクセサリーを選び始める。ためしに、タンスやドレッサーの中にアクセサリーはないか探したところ、磨いてある綺麗な石のアクセサリーしか見つからなかった。なので、アウレイアは亜空間魔法を起動し再び、リストからアクセサリーを選び始めた。
結果選択したアクセサリーは青い大きな涙のような石の中に黄金の刻印が施されているイヤリング、プラチナのチェーンと一つの小さなルビーで構成されているブレスレットの二つを選択した。
イヤリングの方の刻印は装備者が纏っている魔力を薄めてくれる効果と、魔石が壊れにくいように耐性を強化する効果を併せ持つ逸品である。イヤリング本体の青い石はアウレイアの地域ではティア石と呼ばれる魔石であり、多くの魔力を溜めこんでくれるのと、魔力が枯渇した際に割ると割った人へ溜めていた魔力が流れ、魔力枯渇を阻止してくれるという優れものの魔石である。
ブレスレットの方は、小さいルビーが付いているのだが、このルビーは正十二面体であり、よくみると中に緻密な魔方陣が描かれている。その魔方陣の意味は魔力調整を促すというものであり、あまりにも強大な魔力で小さい魔法を使おうとすると魔力量に合わせて魔法は大きくなってしまい、小さい魔法を出すことは難しい。よって、この魔方陣で装備者の魔力量を調節し、見合った魔力を出せるようにしてくれるのだ。これで、竈の火を点ける際にキャンプファイアー並みの火が出てきて家が燃えるということも無くなるのだ。
身だしなみに納得がいったアウレイアはふと、豪華で乙女チックというセンスを疑うような部屋の中にこの場に似つかわしくない本棚があることに気付いた。長年使っているのか、年季が入り、埃っぽいそれに近づいていく。
見ると、本棚は全部で五段あり、一番上は十二歳の背丈では足りないのか完璧にどんな本があるのか見ることができない。かろうじて見える四段目は世界の地理やこの国の歴史についてなど書かれた本が置かれている。そして、真ん中の三段目には日記が入っていた。誰の日記だか分からないが興味を引かれたアウレイアは日記を手に取り、バルコニーに出て読むことにした。
次話は3/15 12:00に投稿させて頂きます。