018 魔力
「えっと、ルルアージュ様。髪に触らず切るというのはまさか魔法ではありませんよね?」
ミルがずれた眼鏡を元に位置に戻しながら問いかける。
「ミル様、合っています。風の魔法を使ってスパッと切るのです」
「え、ええと、ルルアージュ様。髪を切ってもらうのは恐れ多いので遠慮したいです」
オウガストは風の魔法と聞いて即座に遠慮する。風の魔法で髪を切られる際に首も切られてしまうのではとか考えたわけではないと心の中で暗示しながら言葉を探す。
「そもそもルルアージュ様は魔力ないという話でしたが使えるとはどういうことなのですか!?」
オウガストはこの言葉を発してしまったと実感した。静まる室内。ルルアージュは深く何か考え込むように下を向き、ミルはオウガストに文句ありげな視線を送ってくる。もしかしたら魔力がないことは彼女のトラウマなのかもしれない。なんとか魔法を使おうと彼女なりに努力して使えるようになったのかもしれない。理由はともあれ、オウガストはルルアージュの心を傷つけたのかもしれないと考え、謝ろうと口を開く。しかし、ルルアージュの方が早かった。
「そうそう。そもそもその話をするためにここに来たのよね。本題を忘れていましたわ。はじめに、魔力を測る時どんな魔法具を使ったか覚えておいでですか?」
ルルアージュは思い出したと言わんばかりに話し始める。彼女は先ほどのオウガストの言葉により、なにかを忘れていると必死に思い出していたのだ。そんなの恥ずかしくて言えるわけでもない。その為、何事もなかったように本題へと入るのだ。
ルルアージュの反応に一番驚いたのはオウガストだった。自分が傷つけたと思った相手が何事もなかったように話しかけてきたら少しは驚くものだ。驚きながらもオウガストは魔力を測った時のことを思い出す。白い濁った水晶に触れれば淡い光が視界を覆って思わず目を瞑ったのが懐かしい。
いきなりの質問にミルは戸惑ったが、入学当初、半年前のことを思い出す。魔力テストを行うと言われて、白く濁った水晶に触れると微かに光ったのだ。そんなミルの魔力量はほんの少しという曖昧な結果を知らされた。
「…確か白い濁った水晶でした。って、ルルアージュ様も見たのでは?」
「見たのでしょうけれど、記憶になくて。どうでもいい記憶だったのかもしれませんわ。ちなみにその時魔力量が凄いと言われていたのはどなたで、どんな感じでしたか?」
今度はミルではなく、オウガストが答えた。
「一番はやはりルロスト王子だったと思います。王族は魔力が強いようで水晶のある部屋で唯一存在する窓からは光線のように強い光が漏れ、周囲にいた新入生は全員目がやられました」
「そうなのですね。ちなみに二人がおっしゃる水晶とはこれでしょうか?」
アウレイアは魔力を測る、白く濁った、水晶という三つの単語から、魔法具に使われた鉱石の正体を突き止めた。そして、それを亜空間の中にある材料で作り上げ、水晶に合成した。白く濁った水晶を見せられ、二人は驚きながらも頷いた。
「ルルアージュ様。一体どうしてそれを持っていらっしゃるのですか?…盗まれたのですか?」
ミルはパニックになりそうな頭を落ち着かせて冷静につっこむ。
「これは、私が作りました。恐らくですけれど、その魔法具の水晶はアステラチルミンという鉱物とヘルグラミン金鉱石という鉱石を化合して昇華させ再結合させたものだと思いますわ。アステラチルミンは魔力の反応を過激にさせる効果を持つ鉱物で、魔法促進剤の一つにも使われますわね。ヘルグラミン金鉱石は魔力の自動吸収、自動分析、自動発動を行うプログラミングシステム織り込み済みの人工金鉱石で、これらを組み合わせて作ったものを合アステラチルミンヘルグラミン魔力反応石と言いますわ。本来はこの合アステラチルミンヘルグラミン魔力反応石に魔方陣を刻み込み、合アウテラチルミンヘルグラミン魔力反応分析石にするのですが、この過程を省き、魔力光のみで判断しようとしたのでしょう。そのため、運悪くこの合アステラチルミンヘルグラミン魔力反応石の魔力の波長と一致してしまった私は魔力なしとみなされてしまった。または、私の場合は魔力量がとても多いため、魔力の波長が合わなくても光の最大出力を上回り、一周して光が出ないと思います。こうして魔方陣をこの合アステラチルミンヘルグラミン魔力反応石に書き、合アステラチルミンヘルグラミン魔力反応分析石にすることで魔力の数値が出てきてきちんとあると示せますわ」
「え、ええと…。よく分からないのですが、なにかの石を使って出来るということですね?で、ルルアージュ様は魔力が実はおありと」
難しい言葉をよく噛まずに言えることができるなと思いながらもミルはなんとか相槌を打つ。正直聞いたことのない単語ばかりが出てきて頭が弾けそうである。
「そうですわ。ですので、私が魔法を使えることは普通ですわ」
ミルの相槌にアウレイアはにこりとして答えた。一方のオウガストはキャパオーバーで思考を停止している。
アウレイアは魔力関係の知識になるとおしゃべりマシーンとなる自覚がある。昔は武術や魔法に関しての教鞭を取っていた。その時に、勉強熱心な教え子がたくさんいたので、ついつい尋ねられるとマシンガントークをしてしまうのだ。ただし、喉は乾く。魔力席に関してはまだまだ話せることはあるが、ミルとオウガストに引かれそうなのでこれ以上は控えた。相槌をしてくれたミルの優しさを感じ、心が温かくなってきたアウレイアはふと窓の外を見つめる。大分時が経ったのだろう。あたりはすっかりと暗くなり、空には堂々と白い月が浮かんでいる。
ルルアージュが窓を眺めたのにつられてミルも空を窓から見る。そこで寮の門限を思い出す。
「る、ルルアージュ様。今日はお開きにしましょう。申し訳ありませんが、私とオウガスト様は寮に住んでいる為門限があります。あと少しはいられますが、あまりに遅すぎると寮監に睨まれてしまいます」
ミルの一言で部室に戻ることになり、アウレイアは『転移』を使った。
部室に戻ると今日の活動内容を簡潔に記すことにした。アウレイアはペンでノートに書き込む。ふと、ノートとセットになっているマニュアルを読んでいなかったと思いながらも時間がないため、読まないことにする。今日の活動日誌の内容は以下の通りである。
『活動一日目
この世界の歴史について学びました。神話時代、動乱期、崩壊期がああることを知りました』
この内容を生徒会が読んでどう感じるかは想像に任せる。
「では、解散にしましょうか。また、明日も活動しましょう」
「はい、ルルアージュ様。私、明日勇気を出してまた授業に出てみようと思います。教師にまた何か言われるのではと思いますが、一生懸命頑張って勉強に追いつけるようにしていきます」
「私もルルアージュ様が解呪してくださったので授業に出てみようと思います」
「…そう、無理はしないでなにかあったら言ってください。できる限り助けますわ!」
部室を出て入り口付近にある本棚に活動日誌を入れる。この本棚に入れると朝の内に生徒会が回収してくれるらしい。本棚には注意書きで必ず解散時に入れてくださいと書かれていた。その後、三人は分かれそれぞれの帰路へと着いた。
次回は4/6 12:00に投稿します。
4/7 弾丸トーク→マシンガントークに変更しました。
教えて下さった方ありがとうございます。