016 部室にて
生徒会室から出てさっそく学園の本館からでて西館へと向かった三人は自分たちにあてがわれた部室の中へと入った。扉から見て高級そうな部屋は部活を奨励しているだけあり、綺麗であった。壁は上半分が真っ白な壁が見であり、下半分は木の板で覆われている。その木の板は艶があり、綺麗に磨き上げられていた。床は赤いじゅうたんが敷き詰められ、歩くたびに心地よい感覚が足に響く。部屋の大きさは四十人分の席を設け、お茶会を開いても十分な位の部屋の大きさだ。部屋の入り口近くにはシックなローテーブルと、二人座れる大きさの赤い高級なソファが二脚置かれている。恐らく来賓用である。奥には白い清潔を思わせるソファとテーブルが数個並んでおり、すぐ横の壁に大きな本棚が立っている。しかし本棚には何も置かれていなかった。
「…ここを使うんですか」
高価な部屋に居心地が悪いのだろう。ミルがそう言って顔を顰めた。
「ここで立っていても埒があきません。中に入りましょう」
オウガストの一言で二人は歩を進め、扉を閉めた。
奥の白いソファに腰を落ち着かせた三人はしばらく沈黙していた。アウレイアは腕を組んで二人を見る。
「…ずっと気になっていたのですけれど、どうして一人ソファ一個という状態で座っていらっしゃるの?」
アウレイアが奥の席に座って二人を見ると二人ともそれぞれ別のソファに座っていた。
「私は…女性の隣はちょっと…」
そう言うオウガストは相変わらず前髪が長く、どのような表情をしているかがわからない。
「では、ミル様。私の隣に座りませんか?」
「…はい」
静かにそう言って真向かいに座っていたミルはルルアージュの隣へと座った。遠く離れたソファに座っていたオウガストがおずおずとルルアージュとミルの前に座り、ルルアージュとミルに向かい合った。
「では、早速なのですがミル様。朝に言った、『私のわからないこと』を教えて下さる?」
「私に分かる範囲なら大丈夫です」
ルルアージュの言葉にミルは静かに頷いた。
「では、さっそく、この世界の歴史について教えてもらいたいのです」
アウレイアが生きていた頃の国はどうなったのか。今の世界はどういう経緯で作られたのかがアウレイアは知りたかった。もうかなり時が流れたと思うが、未だに故郷は健在で多くの人々が暮らしているのだろうか。アウレイアとしては故郷に一度旅しに行ってみるのもいいと思った。
「この世界の歴史ですか…。主神が世界を創造し、人間が世界で一番の権力を握り、多くの国が生まれたのが神話期と呼ばれています。そして、多くの国が争われたのが動乱期、今私たちが生きている時代は崩壊期と呼ばれています」
アウレイアが生きていた時代は動乱期と呼ばれ、戦争が絶えなかった。多くの国が滅び、新たに王国が生まれる。どこの国もすべての国の状況を知ることができなかった時代である。
「崩壊期ってことは世界が崩壊したのかしら?どういうことかもう少し詳しくしてもらえるかしら?」
「崩壊期は動乱期に栄華を誇っていた国が全て綺麗に崩壊したためそう言われています」
ミルの言葉にアウレイアは心が冷えたように感じた。動乱期に栄華を誇っていた国は全て綺麗に崩壊。
アウレイアはジェファール帝国という国で生きていた。その国は豊かで軍事に力を入れていた。そのおかげでジェファールの軍隊は負け知らずと言われているほどで事実、戦には勝率八割という輝かしい栄光を持っていた。ジェファール帝国は事実上、動乱期において栄華を誇っていた国と言われると当時生きていたアウレイアは思っている。つまり、帝国は。
アウレイアはそこで思考を停止する。分からないことにずっと考えを張り巡らしていじいじしているよりもそのことについて考えず、前に前進した方が効率的であるはずだ。そう考えているアウレイアはミルに笑顔でありがとうとお礼を言った。ミルはじっとこちらを見ていたが、しばらくして目を逸らした。
「すみません。私も質問よろしいですか?ルルアージュ様に」
そこでオウガストが手を挙げた。オウガストは二人が了承したのを確認すると口を開いた。
「昨日、ルルアージュ様は移動手段に『転移』という魔法を使うとおっしゃっていましたよね?『転移』の魔法についてルルアージュ様はどこまで御存知なのですか?」
「『転移』?移動手段の一つとして使われる魔法よね?転移したい場所の座標さえ分かれば、発動できるわよ?」
なぜ『転移』についてオウガストが聞いてくるのかわからないアウレイアは自身の知っている『転移』について述べてみる。それを聞き、オウガストは溜息を吐いた。
「ルルアージュ様。私は生まれてこの方、あなたが使う以外に『転移』なんて見たことがありません。そんな便利な魔法がありましたら大騒ぎですし、下手したら魔法研究所に送られますよ。あと、ルルアージュ様は魔力がないという噂を聞いたことがあるのですが…」
そこでミルが驚いたようにルルアージュを見つめた。ルルアージュは顔を顰めている。
「…『転移』を見たことがない?魔法研究所って何かしら?」
「魔法研究所は国の魔法を研究する機関のことで様々な魔法の開発に取り組んでいます。恐らく、その『転移』を解析するために生涯監視されて外に出られなくなります」
オウガストの言葉にアウレイアは鳥肌が立つのを感じた。生涯、監視されて日光すら浴びれなくなるのはさすがに怖い。
「ルルアージュ様、それはさすがに恐ろしいので『転移』の魔法は控えてください」
ミルが真顔でそう言った。アウレイアも同意である。
「そうね。人前で使うのはやめておくわ。けれど、あなた達の前だったら大丈夫よね?」
「「…」」
二人が無言で鋭い視線を送ってくる。アウレイアは思わず瞬きを素早く繰り返す。
「…まあ、絶対に他の人に知られないようにするならいいのではないですか?」
オウガストが負けたようにそう呟いた。
「そうですね。ところで、オウガスト様。先ほどの話の中でルルアージュ様に魔力がないという噂があるという話ですが、どういうことですか?」
ミルがそうオウガストに尋ねる。オウガストは思い出したように顔を上げルルアージュを見つめる。見つめられたルルアージュは考えるようにしてからこう言った。
「そうね。そのことについてはティータイムでもしながら話しましょうか。『転移 (523,10856,63)』」
魔法の行使で三人の体が一瞬で消えた。先ほどまで静かながらも人を久しぶりに迎えた部屋は再び無機質のみが存在する部屋へとなった。
今回は文字少なめ及び4/1エイプリルフールの為、明日も投稿させていただきます。
次回は4/2 12:00に投稿します。