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015 創部

 授業が終わり、放課後。アウレイアは約束した通り、オウガストを迎えに行った。


「オウガスト様。迎えに来ましたわ。図書室へ参りましょう」


 オウガストは下校する生徒の邪魔をならないように階段の上から、一階の脇の陰の部分に移動していたようだ。アウレイアは転移先を座標ではなく、人物でしていたため、彼女はオウガストの目の前に現れた。当然オウガストは音もなく目の前に一瞬で現れたルルアージュに驚いて固まってしまった。


「…聞いていますか?」


 不思議そうにアウレイアがオウガストの顔を覗きこもうとする。我に返ったオウガストはルルアージュの顔が近いことに気付き顔を真っ赤にして後ずさった。残念ながら後ろは階段の下部分の壁の為、距離を取ることはできない。


「る…ルルアージュ様。ち、近いです」


 そう言われたアウレイアはオウガストから少し離れる。ドキドキする胸を押さえながらもオウガストは広げていた教科書やノートを仕舞っていた。もう放課後であるにも関わらず、オウガストは熱心に勉強していたようだ。ノートの汚れ具合でそれがわかる。ノートは色々とメモがされていてびっしりと文字の羅列が並べられていた。


「片づけられました。では図書室に向かいましょうか」


 鞄に荷物を詰め込み、オウガストは図書室へと足を向ける。そこでアウレイアはオウガストに声を掛けた。


「ちょっと待ってください。行くなら『転移』を使った方が早いのではなくて?」


「…『転移』?それは魔法による『転移』のことを言っているんですか?」


「ええ。そうよ?」


「…ルルアージュ様。素直に歩きましょう。図書室の場所がわからないなら案内します」


 オウガストが歩き出したのを見て、アウレイアは溜息を吐きながらその隣に並んで歩き始めた。


 放課後とあって廊下には生徒の一人も見られなかった。恐らく放課後のお茶会や夜会の準備、舞踏会への準備などでほとんどの生徒が家に帰ったに違いない。二人の足音だけが廊下に響く。アウレイアは周囲を見渡しながらも図書室の場所を把握しようと頑張った。


 しばらくしてオウガストが立ち止ってアウレイアへと振り返った。どうやら図書室へ着いたらしい。


 図書室の中は相変わらずしんとしていた。古い書物の匂いが漂い、静かに本を捲る音だけが聞こえる。カウンターの中には女性が一人いる。彼女は二人が中へ入って来た時にちらりと視線を向けたがすぐに顔を下げて本を読み始めてしまった。そのまま先ほどミルと出会った場所まで行くと彼女は変わらずに本を読んでいた。


 アウレイアはゆっくり近づき、ミルの肩を優しく叩いた。ミルは一瞬顔を顰めたものの、本をすぐに閉じ、本棚に仕舞った。


「ごきげんよう、ルルアージュ様。…後ろの方があのオウガスト様ですか?」


 少し棘のあるような声で聞いてきた。アウレイアは後ろでオウガストが緊張しているのを肌で感じながらも、ミルに言葉を返した。


「ごきげんよう。ミル様。そうですわ。私の後ろにいらっしゃるのがオウガスト・シリア様。ミル様が思っているよりも普通の人ですわ」


「ふ、普通の人?」


 ミルが戸惑った顔で聞き返す。アウレイアはニコリとした顔で大きく頷いた。


「ええ。オウガスト様は噂に出ている極悪非道人のような人柄ではなく、特になんの変哲もない普通の方ですわ」


「…ちょっと待ってください。ルルアージュ様。それは褒めているんですか?それとも貶されているんですか?」


 オウガストが耐えきれないとばかりにアウレイアの横に出てきた。アウレイアは首を傾げてオウガストを見る。


「あら、褒め言葉に決まっていますわ。『普通』という言葉以外にどういう褒め言葉があなたにあるのですか?」


「…言い返せない自分が憎い…」


 アウレイアにとってのオウガストは呪術をかけられた哀れな普通の少年という評価であった。ただ、まだ出会って一日も経っていないので他には何とも言えない。それ故の普通という評価である。


 一方オウガストは自分が抜きんでて人より上手い所もないし、自信もない。むしろ他の人より劣っている部分があるのではないかという考えの為、何も言い返せないのである。


 このやりとりを見つめていたミルはオウガストがルルアージュの言うとおりごく普通の善人な一般人であることを把握した。そして、ミルはオウガストに向けて自己紹介を始めた。


「ミル・ウィスキーです。よろしくお願いします」


「オウガスト・シリアです。よろしくお願いします」


 自己紹介が終わったのを見越して、アウレイアはもう一度部活の活動内容を確認し、二人に同意を得る。そして、三人で生徒会室へ向かうのであった。


 そもそもこの学園の生徒会とはどのようなものであろうか。この学園の名は『ラレリール王立学園』である。王国の運営するこの学園は十二歳から十五歳の王族、貴族がこの国の情勢、政治、経営、武術など貴族として将来必要な知識を学ぶために建てられたものである。故に、通うのは王族及び貴族であり、平民には縁のない所である、というのが建前としてある。


 しかし、それは建前であり、お金さえ払えるならば入るのは可能だ。その為、貴族と縁を得るために裕福な平民の家の親が子供を学園に通わせているのだ。よってこの学園には貴族、王族、平民と三つの地位が通っている。そこを上手く繋ぎ合わせるために企画を練ったり、学園の細かな雑務を行うのが生徒会である。よって、生徒会のメンバーは王族を除く、貴族と平民の半々で構成されている。メンバーは立候補制で生徒会となったメンバーは生徒会の仕事をする時、学園内において王族と同等の権利を得ることとなる。


 生徒会室のドアから部屋の中を見ると、机が几帳面に等間隔で並べられている。それぞれの机に書類は多少あるものの綺麗に整えられていて、端にはソファと椅子が置かれていた。そこに座って和やかに談笑している生徒会メンバーは穏やかな笑みを浮かべている。そこへノックが響く。彼らは来訪者が来たと理解すると、それぞれ机に向かい、姿勢を正した。その中で緑髪の少年がドアへと向かい、ドアをゆっくりと開けた。


 アウレイアと他二名は初めて来た生徒会室に緊張していた。なんせ今から部活動の許可を頂くのだ。頂けるか、頂けないか、胸が大きな音を立てて緊張を伝えてくる。緑髪の少年が三人を室内に入れ、用件を尋ねる。代表してアウレイアが答えた。


「はじめまして。私はルルアージュ・ベデルギスです。本日は部活の創立許可を頂きたくて参りました」


 ルルアージュ・ベデルギス。アウレイアが自分の名前を言った時に生徒会メンバーはびくりと大きな反応をした。悪魔と呼ばれるルルアージュが部活を創立。一体どんなおぞましい部活ができるのか…。


「なるほど…。部活の創立は我が学園で推奨しています。活動内容に問題がないようでしたら許可いたします。内容とメンバーを教えていただけますか?」


 緑髪の少年は動揺を表に出さす、穏やかな声を意識して話した。


「はい。まずはメンバーですが、私とオウガスト・シリア、ミル・ウィスキーです」


 そこで生徒会メンバーは固まった。悪魔、学園の問題児、教師に見捨てられた劣等生。揃った。一年生の要注意人物ベストスリーが揃った。メンバーの中には冷や汗を掻いている人もいる。


「で、部活名は『シティーレアの会』でお願いします。活動内容は勉強会です」


「勉強会、というのはどういうことを教えるか決めていますか?」


 緑髪の少年はぎこちなく笑顔で尋ねた。はたして、出てくる答えはなんであろうか。いじめ方などと言われた場合には全力で止めなければならない。


「どういうこと…、主に私が教えてもらうことなのですが、授業のことを教えてもらおうかと。三人集まれば文殊の知恵と言いますように、三人で学力向上を目指して行きたいと思います」


 ルルアージュの言葉に生徒会室の張りつめた空気が霧散する。ルルアージュは真っ直ぐな瞳で少年を見つめており、他の二人も緊張した様子であった。緑髪の少年は後ろを振り向き、他のメンバーに許可していいかと尋ねる。他のメンバーが頷いたのを確認して、再び前を向く。


「『シティーレアの会』の方々。生徒会はあなた方の部活の創設を歓迎いたします。部の創設にあたり、部屋の割り当てを行います。部活は大方西の館で活動を行っていますので、『シティーレアの会』の方々も西の館のお部屋をお使いください。こちらが鍵になります。『シティーレアの会』の割り当てられた部屋は一階の東側、一番奥の部屋になります。それと代表者はどなたがなさいますか?」


「…私が代表者を」


 緑髪の少年から鍵を受け取ったアウレイアはミルとオウガストに目線をもらっていた。オウガストは前髪が目を隠しているので表情は見えない。だが、ミルと同じような目線を送っているとアウレイアは察した。お前がやれとばかりの視線に肩を竦め、アウレイアは自ら代表者となった。


「では、ルルアージュ様で。部活では活動日誌の提出が義務となっております。部屋の使い方と活動日誌の使い方のマニュアルがありますので読んでおいてください。また、なにかあったらお越しください」


 アウレイアは緑髪の少年に分厚いマニュアル本とノートを渡された。


次回4/1 12:00に投稿します。

3/30 文殊の杖→文殊の知恵に直しました。教えてくださった方、ありがとうございます。

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