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09 問題

前回のあらすじ

部活作ろう!

「ルルアージュ様。その、ポスターを見る限りですと、三名が最低条件みたいです。私たちは二人しかいませんが…」


 そう言われてアウレイアはようやく気が付いた。現部活メンバーはアウレイアとミルのみであるということに。どうすればあと一人のメンバーを揃えられるか。アウレイアは頭を必死に動かした。そして、閃いた。


「あなた、確か学年で最下位から二番目と言っていたわよね?では、最下位の方はどうしているか知っていらっしゃいませんか?」


 そう。アウレイアはミルとの会話の最中にミルが自身のことを学年で最下位から二番目と言っていた。つまり、学年最下位の人を誘ってしまえばいいのだ。


「最下位…オウガスト・シリアですか。彼は学園一の問題児とされています。なんでも話しかけてきた人がどんな人であっても無視するんだとか。授業も数回しか出たことがなく、テストは0点。先生方はもう彼の指導を諦めたと聞いています。そのような人物がこの『シティーレアの会』に入っていただけるかどうか…」


「つまり、彼は今行われている授業には出ていないのね。何処かでサボっているというわけね?」


「は、はい」


 ルルアージュに真顔で近づかれ、質問され、ミルは引き攣った顔で返答する。答えを受け取った途端にルルアージュは朗らかに笑った。


「よし!拉致してきますね!!」


「は?」


 思わず呆けた顔をし、ルルアージュを凝視するミル。そもそも貴族の在り方とはなんだろうか。彼女は貴族としての定義を忘れてしまっているのだろうか。


 貴族としての在り方。それは、一に権力に溺れないこと、一に人に悪いことをしないこと、一に平民に優しくすること、一に貴族の自覚を持った行動を行うこと、の四つが大きなものである。他にも様々な在り方が提唱されているが、細かくなるので省く。


 ルルアージュは入学当初から問題児として教師に認識されていた。


 まず、権力に溺れている。ちょっとでも身分の低い人が話しかけると、私を誰だと思っているのよ!公爵家の長女よ!と叫び散らしていた。今は見る影もないが。


 次に、妹に悪いことをしまくっていた。妹が本当に気に入らないようで、事あるごとにいじめを行っていたという話を聞いたことがある。例えば、リリアージュが食事をしている最中に後ろから近づき、黒いインクを頭から振りかけたり、教科書をずたずたにしたり、悪口を言いまくったりである。今のルルアージュはリリアージュと接している所を見ないので何とも言えないが、彼女は悪いことをしていたのは事実だ。


 そして、平民に優しくしない。前に廊下を歩いていた時に聞いた話だが、平民に対して触らないで、とか、ゴミクズ、とか暴言を吐いていたらしい。そもそも身分の低い者に対して冷たい人物だ。平民をゴミクズにしか見ていないのだろう。今はどうだかよく分からないけど。


 最後に、貴族の自覚を持った行動を行うことについてだが、今のこの行動である。貴族は『高貴であり、選ばれた存在である。そのため、平民を守る義務があり、他者の人権を否定するような道理に反する行動は行ってはならない』という自覚を持つことが当たり前である。しかし、彼女は「拉致」と言った。拉致は相手の人権を否定する道理に反する行為である。よって、彼女は貴族の自覚を持った行動をしていないのである。


 基本の在り方にすべてチェックマークがついたルルアージュ。そこでミルは恐ろしいことに気付いてしまった。仮に、ルルアージュがオウガストを拉致るとしよう。オウガストは教師が指導をするのを諦めた問題児中の問題児である。そして、ルルアージュ。彼女は公爵家でありながら貴族としての自覚を持っていない、問題児である。問題児×問題児。掛け合わせた解はいかなるものであろうか。なにかとんでもない蓋が開く気がする。むしろ、このメンバーの中で授業に関してだけ呆れられた自分が一番マシな気がする。


「ちょ、ちょっと待ってください!ルルアージュ様!!」


 ミルは問題児×問題児の解がとんでもなさそうな予感がして思わず、転移魔法を使おうとしたルルアージュの腕を掴んでいた。なによと言わんばかりにルルアージュが面倒くさそうな顔をミルに向けた。


「メンバーを…考え直しませんか?」


 問題児に囲まれる未来しか見えないミルはその未来を回避するために必死にルルア―ジュを説得することにした。


「は?」


 それに対してアウレイアは納得がいかなかった。勉強を教えあう部活動なのだ。学が身についている生徒には必要のない部活動だ。そのため、手っ取り早いのは名前がわかっているオウガストを説得することだ。なぜ、メンバーを別の人にする必要があるのだろうか。


「オウガスト・シリアは…本当に問題児ですよ?」


「だから、なにか問題でもあるのかしら?実際に会ったこともないのに、勝手に危険扱いして避けるのは失礼だと思いません?」


「…」


 アウレイアはミルが黙り込んだのを見て、ため息を吐いた。


「ミル様。私はこの学園でなんと呼ばれているのですか?怒らないので言ってみてください」


 ミルはルルアージュの言葉に少し視線を彷徨わせた。再びルルアージュに視線を合わせ、声を出した。


「悪魔」


「は、はいぃ!?悪魔ぁ??」


 悪魔。神の知識でいう悪魔は堕天した神が神界から追放されて、ただの人間になり、ただの人間になった後にその価値をさらに貶めた成れの果てが悪魔と言われている。悪魔となった堕天した神は魂を冥府の門に操られ、終わらぬ仕事をやらされる羽目になるそうだ。例えば、地獄へと来た人間の魂を…。ここら辺で解説をやめておこう。


 よって、神界での悪魔とはタブー中のタブーの用語であり、悪魔となった神が現れた場合、その神が人間だった時にスカウトした神、もしくは、その神の親の神も罰として神界を追放される。ちなみにアウレイアも主神の息子に神界を追放されたわけなので堕天したと言っても間違いではない。もし、この先とんでもないことをして、例えば悪役令嬢などをして、断罪された場合は悪魔となってしまうのだ。他人事ではない話である。


 ミルの言葉を聞いたアウレイアは顔を真っ青にさせてその言葉に震えた。悪魔にはならないと思うが、悪魔になる可能性も少なからずあるのだ。意図せずにリリアージュや他の人を貶めた場合などがそれにあたる。綺麗な心でいよう。そうすれば、地獄には落ちまい。そう決心したアウレイアは表情を元に戻すと、ミルに話しかけた。


「こほん。ミル様。どうですか?今の私と話していて私は悪魔に見えますか?噂と実際の私は違いませんか?」


「ま、まあ確かにルルアージュ様は私のように身分の低い人には話しかけないし冷たいという感じでしたが、今普通に話していますね。」


「そうよね!それを私は思い込みの方式と呼んでいるわ!」


 ルルアージュは拳を握りガッツポーズをしてそう言った。だんだんとルルアージュのキャラがおかしくなっていると感じながらもミルは冷めた目でそうなんですかと相槌を打つ。


「一つの出来事を噂が大きくしていく。尾ひれがつくという言葉で言われているそれは、事実が事実ではないことにいつのまにか差し替わっているという事態に陥るわ。つまり、オウガスト・シリア様は実際に会ってみないとどういう人物か分からないというわけですわ。では、行ってきます。『転移、オウガスト・シリア』」


 アウレイアはミルが自身の手を離した瞬間に転移の魔法を起動する。一人残されたミルは、ぽかんと呆けていた。



次回は3/22 12:00に投稿されます。

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