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00 プロローグ

はじめましての方・他作品を読んでくださっている方、真冬梨亜です。思い付きから筆を進めたらとても進んだので投稿させていただきたいと思います。

「美の女神、アウレイア!貴様を男神たぶらかしの罪で神界から追放する!」


 年に一度、世界中の神や女神が神界の大神殿に集まり、舞踏会を開く。この日はこの世界と同時に生まれた主神の誕生を祝う日であり、めでたい場であった。


 しかし、なぜか祝福すべき場で怒声が響き渡った。神や女神たちは談笑をぴたりと止め、なんだなんだと声の発生源へ視線を向ける。それは会場の中央から発生されているようであり、赤みがかかった黄金の髪を持つ神が紫色の髪を持つ女神に対して言ったようであった。神は顔を険しくし、偉そうに人差し指を女神に向けている。そんな神の横には艶やかな黒い髪を持ち、大きな瞳を潤ませ、庇護欲を誘いそうな美しい女神が寄り添っていた。


 “神界からの追放”。それは、神聖なる神である魂を受肉させ、魂の価値を落とすという意味である。神々は『神界に存在する魂こそ至高である』としている為、魂を受肉させ、下界で生きることは魂を穢れさせる行為。よって侮辱であると捉えていた。


 つまり、神々にとっての神界追放は死刑と同類なのである。ただ、このような神界追放は権力のある神でないとできないのだ。例えば、神々の中でのトップの主神。主神の子供と妻。彼等しかこのような権利は持っていない。


 この堂々と神界から追放させると言っているのは主神の末の子供、ラシアンであった。当然覚えがない紫の髪を持つ女神、アウレイアはきょとんとした顔で今の言葉を反芻していた。


 彼女は、元は人間で主神からのスカウトで女神となった十八年目の若女神で、極度の引きこもりであった。彼女はたくさんいる美の女神の一人で、勝利の女神とも言われていた。今日は全ての神々が招集される舞踏会ということで久しぶりに外へと出たのだった。


 美の女神の定義として、美しい、綺麗という単語が挙げられると考えるアウレイアはこの日の為に、自分の良さを最大限に生かせるドレスと髪形を考え自分が思う、一番美しい自分でこの場へやって来た。そして、この状況である。いきなり神界を追放と言われたところで疑問しか浮かばなかった。そもそもまともに神と話したのは初めて神界に来た時のみである。ラシアンはアウレイアが首を傾げている間も休むことなく話し続けた。


 水神を誘惑しただの、恋人関係にあった神を奪っただの、大して美しくないのに美の女神になっているだのとくどくどと話すラシアンの言葉を聞きながらアウレイアは考えた。


 生前の自分は生まれてこの方美しいと言われてきたこともないし、美人という言葉も聞いたことない。なぜ、美の女神と呼ばれているのだろうか。しかし、考えても答えは出てこない。


「その他に、シレストレーゼのいじめも行った!」


 最後の締めとばかりに高らかに声を挙げたラシアンをアウレイアは口をあんぐりと開けて見つめた。アウレイアは先ほども言っていた通り、引きこもりであった。よって、シレストレーゼという名前に心当たりがなかったのだ。


「あ、あのラシアン様、私は大丈夫ですわ。ですから、アウレイア様を責めないでくださいませ。彼女とて好きで男神の方々をたぶらかしたわけではございませんわ」


 ふと、控えめな声が聞こえ、アウレイアはそちらへと視線を向けた。どうやら、ラシアンの後ろに隠れて見えなかったようだ。恐らく文脈から察するに彼女がシレストレーゼだろう。そう判断したアウレイアは次に現状を整理した。


 アウレイアには身に覚えがないのだが、神をたぶらかし、さらにシレストレーゼとかいう女神をいじめた悪神に自分がなっているということだ。彼女は自分の潔白を表明するために、初めて口を開いた。


「ええと、ごめんなさい。全く身に覚えがないんですが…」


「しらばっくれても無駄だ!数々の証拠が貴様を犯人だと言っている!」


 しかし、ラシアンがアウレイアの発言を即座に遮った。アウレイアは口を噤み自身の過去について思案し始めた。引きこもりのアウレイアとて、さすがに年中引きこもっているということはできない。一週間に一度は自宅から出て、家の前で日光浴をしたりした。日光浴だけではさすがに飽きるので、一度だけ花畑を散歩したことがある。その時に顔を真っ赤にさせた女神がアウレイアの周囲の花を枯れさせて去っていたことがある。


 恐らく、あの花畑は彼女の物であり、勝手に入った自分が許せず、怒ったのだろう。そう結論付けたアウレイアはもう二度と花畑へ行かなくなった。その時の女神が彼女だろうか?いや、違う。あの時の女神は赤い髪に赤い瞳で頭にはたくさんの花がついていた。花の女神であったのだろう。


「まず、証拠一つ目!」


 高らかにラシアンがそう言ったため、アウレイアは思考を止め、ラシアンを見た。ラシアンは手に魔力を集め、集約させた。主神の息子ラシアン様の手の上で竜巻が発生し、次第に消えていく。竜巻が完全に消えるとそこには、腕がもげた、くまのぬいぐるみが乗せられていた。ごく普通のくまのぬいぐるみにアウレイアは首を傾げた。やはり覚えがないからだ。


「これはシレストレーゼの神殿に供えられた貢物だ!シレストレーゼはこのくまのぬいぐるみをとても気に入り、常にベッドに置いていた。しかし、夜に窓が急に開きどこかの神が入り込んできたらしい。恐くなったシレストレーゼはベッドの端に身を寄せ、震えていたらしい。不審な神に気付かれないように気配を殺していると、不審な神がくまのぬいぐるみを見つけ、引き裂いたという。その時、月光に反射して見えた髪色が紫で瞳も紫だったらしい。紫色の髪の毛と瞳を持つと言えば、お前しかここには存在しない!よって、お前が犯人だ!現にくまのぬいぐるみのもげた腕はお前の部屋の前で見つかっている!」


 神や女神には必ず人間がいる地上に自分の神殿を持っている。そして、人々は暇な時に自分の尊敬する神様の元にお祈りに行く。さらに、お金も余っている人間は神殿に寄付や貢物をするという。神殿で貢物として贈られたものはその神殿の神の物となり自由に使ってもいいらしい。


 シレストレーゼはくまのぬいぐるみを気に入り、召喚してベッドに置いていたということだ。


 けれど、そもそもアウレイアはシレストレーゼの部屋を知らない。そして、証拠の紫色の髪と瞳は魔法でいくらでも誤魔化しが効く。もしくはシレストレーゼの妄言、自作自演という可能性もある。証拠と言っても信憑性のかけるものである。そう思ったアウレイアは口を開こうとするが、ラシアンに遮られた。


「証拠2つ目だ!シレストレーゼの部屋の前に待ち伏せしていた天使たちがいた。彼らは全員剣を握りしめ、部屋に戻ってくるだろうシレストレーゼを殺せと命令されていたそうだ。偶々私や、ブレインがいたからよかったものの、彼女がもし一人で帰っていたら、殺されていたであろう。私たちはシレストレーゼを庇いながら、天使たちを捕縛し、命令した人物を聞いた。すると全員が紫色の髪と瞳を持つ神に命令されたと答えたのだ。髪と瞳の両方が紫色といえばやはり貴様一人!その他にも細々としたいじめをされていたシレストレーゼはいじめに耐えながらも決して貴様に仕返しをしようとは考えていない!神をも浄化してしまう光魔法をこの身で持ちながらも自身の力を抑え、いじめを行っていた貴様にも慈悲の心を持つ。こんな光の女神の中でもまさに光の女神で仙女のような彼女を貴様は酷い目に合わせようとしたのだ!私はとてもそれが我慢できなかった。よって、貴様をこの場で断罪することにしたのだ!シレストレーゼは最後まで反対していたが、私は許せぬ!よって、貴様には神界からの追放を行う!」


 高らかに宣言したラシアンがアウレイアを睨みつけた。睨みつけられたアウレイアは頭を活動させて考えた。


 一つ目は、ラシアンは先ほどからほとんど一人で話し続けている。彼は喉が乾かないのかと、私だったら絶対に水を必ず飲むなと考えていた。


 二つ目は天使についてだ。天使とは神の世話をする従者的な存在のことである。ただ、アウレイアには従者がいない。そして外にでも出ないので、天使とはどのようなものなのかについては興味がありながらも見たことがないままであった。そんなアウレイアが天使に命令をして光の女神であるシレストレーゼを殺すということはできるのだろうか。いや、どうやるんだろうかと疑問を浮かべた。


 三つ目についてはこの天界についてだ。アウレイアにとっての天界はとても綺麗で美しい場所というイメージがあった。

 ”誰も憎み合わない美しい世界”

 しかし実際は下界と同じようにそれぞれに感情があり、憎悪と嫉妬も含まれる世界であるということが判明したのだ。あはは、うふふ、と言っている神々が走り回っているそんな優しい世界を想像していたアウレイアは高いところから地面に突き落とされた気分であった。


 けれど、憎悪と嫉妬の面も含めて、世界は彩りが生まれているのかもしれない。そう考えて現実を見るしかないとアウレイアは諦めた。


 考え込んでいると、パチンという音が聞こえ、アウレイアは意識を失った。


読んでくださってありがとうございました。次話も続けて投稿させて頂きますので、よろしければ読んでみてください。

3/23 あらすじには書いてあったアウレイアの女神となった経緯を付け足しました。特に内容自体は変わりません。


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